ポップアートを代表する米国の画家キース・ヘリングの展覧会『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』が4月27日から「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)で開催。23年ぶりの国内巡回展となり、日本初公開作品を含む約150点を鑑賞できる。

■ 地下鉄駅にチョークで…希少な日本初公開作

まるで記号のように、丸い頭の人物やその動きを表す線がリズミカルに描かれたアートでおなじみのキース・ヘリング(1958〜1990)。31年の生涯のうちアート活動期間は10年ほどだが、そこにこめられた、社会にはびこる不平等や暴力へのメッセージは国内外の幅広い層に支持され、彼の亡き後もさまざまなアパレル、雑貨ブランドとのコラボ商品が展開されている。

同展では「アートはみんなのために」という信念のもと、大衆の日常にアートを拡散させたヘリングの軌跡を紹介。1章で展示される「サブウェイ・ドローイング」は、1980年代、NYの地下鉄駅の空き広告板にチョークで描かれた希少な初期作品だ。日本初公開を含む7点が並び、現地からはがした際の紙の破れ具合や駅の壁ごと残っているものなど、当時のリアルな空気感が伝わってくる。

内覧会ではヘリングに同行取材をした美術評論家の村田真氏が、「彼は駅が近づくと車両のなかからもキョロキョロと空きスペースを探し、いざ到着すると迷うことなく描いていく。2分もかからないほどのスピードで仕上げ、またすぐ地下鉄に乗る」と、必死で追いかけた当時の臨場感を語った。

■ 注目は巨大な舞台アート&日本ゆかりの品も

さらに、会場でひと際目を引くのは、幅6mの大型作品『スウィート・サタデー・ナイト』。NYの芸術劇場での黒人のストリートダンスの舞台背景として制作され、黒い線で描かれたダンサーが大画面いっぱいに広がる描写は迫力大。また、蛍光インクで描かれた作品がブラックライトで照らされ、よりカラフルに光る展示もあり、多くのアーティストを魅了した当時のクラブ空間・流れていた音楽を再現した演出にも注目だ。

日本とヘリングのつながりが分かる作品や資料もそろい、広島でのイベントのポスターには「平和がいいに決まってる!!」と日本語でのメッセージも。アートを広げるためにグッズ展開にも注力し、1988年に世界で2番目に誕生した東京・青山の「ポップショップ」で販売された扇子など、ヘリングの日本文化への造詣の深さも垣間見れる。

シンプルな線で描かれたアートは見る側の想像力を刺激し、本展監修の梁瀬薫氏は「作品は一見明るく見えますが、その裏にひしひしと社会の問題・・・戦争や核、HIV・エイズへの偏見など深いメッセージが見えてきます。彼のアートは、時代や言語を超えて伝わる力が非常に強い」と話す。

場所は「兵庫県立美術館 ギャラリー棟3階ギャラリー」。期間は6月23日まで、月曜休館(祝日・5月6日の振替休日は翌日が休館)。料金は一般2000円ほか。

取材・文・写真/塩屋薫