ビジネスシーンや日常において、今や当たり前の存在になった人工知能(AI)ですが、思わぬ影響が可視化され始めているようです。「Windows95の父」として知られる日本人エンジニア・中島聡さんのメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者の中島さんが、OpenAIの開発した「ChatGPT」が発表されて以来、世界中の研究論文において「ある変化」が起きていると指摘した海外の記事を紹介しています。どうも論文の中に使われている「単語」に影響が出ているようです。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:人工知能が人間の言葉に変化をもたらし始めた話
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
人々が話す言葉・書く言葉は常に変化し続けていることは知られています。子供たちが、あえて大人たちが使わない言葉を彼らの間だけで伝わる「隠語」として使い、それが世代交代に従って、全体に広まる現象はよく見られます。
「微妙」という言葉は、一昔前までは、「ひと言では言い表せないほど細かく、複雑なさま」「きわどくてどちらとも言い切れないさま」という意味で使われていましたが、それが徐々に「はっきりとは言いたくないけど、駄目・嫌」に変わり、今や「はっきりとは言いたくないけど」のニュアンスさえ薄れて、単純な否定になってしまいました。
最近になって、英語の文章の中に”delve”という単語が頻発するようになりました。日本語に訳すと「掘り下げる」という意味になります。ただし、”delve”は少し硬いイメージがあり、一般的には、”investigate”や”dig into”の方が広く使われていました。
この”delve”という単語が、最近の論文に多用されるようになったことを指摘したのが、“Delving into “delve“”という記事です。1990年から今年までに発表された論文を調べたところ、2023年から明らかに急増していることが判明したそうです。
Are medical studies being written with ChatGPT?
Well, we all know ChatGPT overuses the word “delve”.
Look below at how often the word ‘delve’ is used in papers on PubMed (2023 was the first full year of ChatGPT). pic.twitter.com/iNxZfFLkxL
— Jeremy Nguyen ✍ (@JeremyNguyenPhD) March 30, 2024
OpenAIがChatGPTを発表したのが、2022年末で、多くの研究者が論文をChatGPTに添削させたり書かせた結果、こうなったと筆者は結論付けています。
この記事で引用されている”The 10 Most Common ChatGPT Words“という記事によれば、ChatGPTは以下の単語を多様するそうです。
Explore:探検する、調査・探求する(ChatGPTは後者) Captivate:魅了する、惹き付ける Tapestry:タペストリー・つづれおり(比喩として使うのがChatGPTの特徴) leverage:てこの原理(これも比喩で) Embrace:抱きしめる、喜んで受け入れる(ChatGPTは後者) Resonate:共鳴する Dynamic:動的 Testament:遺言、信条(ChatGPTは後者) Delve:掘り下げる Elevate:高める、向上させるChatGPTが “delve” を多用する理由については、RLHM(Reinforcement Learning from Human Feedback、LLMの学習プロセスの最終段で、人間がニューラルネットにフィードバックを与える作業)において働いていたナイジェリアの労働者が原因だ、という説が語られています。
ナイジェリアは、公用語が英語なので、この手の作業をアウトソースする際によく使われるし、ナイジェリアでは、米国と違って、元々”delve”が多用されていたから、とのことですが、真偽は不明です。
【参考文献】
「微妙」という日本語に隠された本当の意味 最近、「微妙」という言葉がおかしな意味で使われていませんか Delving into “delve” The 10 Most Common ChatGPT Words Online uproar over Nigerian English flagged as ChatGPT-ish(中島聡さんのメルマガ『週刊 Life is beautiful』5/7号では、Alphabet(Google)とMetaの決算や、テスラという企業を知る上での貴重な映像の紹介、読者Q&Aコーナーも掲載中。初月無料のお試し購読で今すぐ受け取ることができます)
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