少年補導に携わって40年近くになる京都府向日市の男性に3月、「今でも心に残っています」と朱色で記された1通のはがきが届いた。差出人は24年前、農業体験に来た「やんちゃな中学生」。体験班のリーダーを務めた少年は、近隣の中学で教員になっていた。男性が農業体験の思い出を投稿した冊子を偶然読み、感謝の気持ちを伝えたかったという。2人は再会を果たし、思い出を語り合った。

 長谷川勇さん(74)=寺戸町=は2000年11月、兄の鉄太郎さん(故人)と中学生の農業体験に取り組んだ。地元の寺戸中が初めて授業で職業体験を導入した。スポーツが得意な元気のいい男子生徒6人を2日間、受け入れた。サツマイモの収穫やタケノコ畑の手入れなどを手伝ってもらい、昼食に新米とおかずをたっぷり振る舞った。保護者との会話につながるようにと野菜を持って帰らせた。

 教員たちは生徒を「やんちゃ」と心配し、体験中も見回りに来たが、長谷川さんには「素直なええ子ばかり」と映った。鉄太郎さんが「また来いよ」と声をかけると、全員が輝くような笑顔を見せた。その後、生徒の保護者数人から「うちの子が変わった」と礼を言われたという。

 長谷川さんの経験は今冬、京都府少年補導協会の機関誌に掲載された。校内の回覧で読んで「自分のことが書かれている」と驚いたのが、長岡第二中(長岡京市今里5丁目)の教員東悟史さん(37)。思い出がよみがえり、「親切にしていただいた体験は今でも宝物です」「教諭として働いております」などとしたため、同協会にはがきを送った。

 転送されたはがきを読み、長谷川さんは涙が止まらなかったという。「先生になっているとは」。早速電話をかけ、同中で24年ぶりに再会した。大切に残していた当時の写真を見せながら、2人で語り合った。

 生徒たちは介護士や鍼灸(しんきゅう)師、ボクシングジム経営など、それぞれ夢をかなえていた。東さんは「体験班には学校外でスポーツをしていた生徒が多く、大人びていて、先生の言葉を素直に聞かないところがあった。長谷川さんは、噂ではなく、自分たちを見て、その時に一番いいことをしようと思ってくれていた」と振り返った。長谷川さんは「これほどの財産はない。ドラマのよう」と感激した。

 東さんは国語科教諭として「心を伝える」大切さを生徒に説いており、「はがきを書いて良かった」と実感したという。当時から続けるサッカーでコーチのライセンス資格を取得し、サッカー部の顧問も務める。「農業体験を含めて中学時代が楽しく、高校生の頃から教員を志望した。当時を思い出すと、現在の生徒の成長を信頼できる」と話している。

(まいどなニュース/京都新聞)