久々に会えば「歳を取ったもんだ」と、つい健康の話をしてしまう。40歳を過ぎてから、ちらほらと健康が気になり始めた方も多いのでは? 吉本興業所属のお笑い芸人兼医師・しゅんしゅんクリニックPさんの『40歳を過ぎるとなぜ健康の話ばかりしてしまうのか?』は、そんな悩めるアラフォー世代の健康にまつわる疑問を、生活習慣や健康、外見といったテーマごとに解説しています。しゅんしゅんクリニックPさんの医療知識や体験から感じたことを通じて、日常に潜む心配事に一つずつ向き合っていきましょう。
※本記事はしゅんしゅんクリニックP著の書籍『40歳を過ぎるとなぜ健康の話ばかりしてしまうのか?』(ヨシモトブックス:発行)から一部抜粋・編集しました。

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人間ドックという名の"模擬試験"
毎年健康診断を受けていて、結果には「異常なし」と書かれていたにもかかわらず、実は知らないうちに大きな病気が進行していて長期治療を余儀なくされたというケースがあります。つまり、健診というものはあくまで「今」を「部分的」に診るものであって、すべての病気のリスクを完璧にフォローすることなどできません。そして悲しいかな、人の人生って、結局は"運"で決められているんじゃないか、医師ではありますがそんな考えがよぎることもあるんです。そのくらい、時に残酷な結果もありますから。
同年代のタレントの急逝に関するニュースを見るたびに、自分もいつ人生が終わってしまうかわからない、でも僕はまだまだ働きたいし遊びたい! 芸歴制限が解除されたR-1グランプリでいつか優勝したい! 2022年から始めた「つみたてNISA」は20年プラン! 大切な家族が住む家のローンもあと34年! そう、僕は1日でも長く生きたいと思うのです。だからこそ、健康運を味方につけ、病気になるかもしれない可能性を1%でも減らしにいくこと、そのためには早いうちに自分から病気を見つけにいかなければいけないことは、働く男として、そして家庭人としての義務だとも考えるようになりました。みなさんにもぜひ、定期的に自分の身体の状態を把握してほしいと思います。その手段として、健康診断よりもさらに精度を高めたい、突き詰めたい方には、圧倒的に検査の項目が多い「人間ドック」をオススメします。

人間ドックでは、視力、聴力、身長・体重測定による肥満度(BMI)の計算、血圧測定、採血による血糖値・コレステロール値などの測定がひと通り行われ、これらの測定により、高血圧症や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病の徴候を把握することができます。その人間ドックに含まれる検査で最もポピュラーなのが、厚労省が「死亡率を明確に下げる効果がある」として受診を勧める5つのがん検診。「胃がん」「子宮頸がん・子宮体がん」「乳がん」は2年に1回、「肺がん」「大腸がん」は毎年の受診が推奨されています。そして、必ずしも全員が受ける必要はないですが、症状が出ている場合のオプション検査として、甲状腺の機能を調べるものや、男性更年期の原因にもなり最近よく聞くようになったテストステロン(※5)の検査などがあり、さらにその他の選択肢として、腹部超音波検査や脳ドック、心臓ドック、骨密度検査などがあります。
人間ドックや健康診断の本質って、受験生時代の模擬試験と似ています。自分の現状を把握するために受けるテストのようなもの。誰でも苦手な科目があるように、身体にも弱りやすい部分がありますよね。もしくは何が苦手なのかを知るために試験を受ける=受診するという考え方も、ありかもしれません。そして、テストは受けて終わりじゃないですよね? 試験を受けた後の「対策」「復習」も肝心です。人間ドックでも、数値などのデータを客観的に分析し(ここ重要!)、自分の弱点が具体的にピンポイントで見えてきたら、さらなる補強をしていきましょう。......ってあれ、なんか受験の攻略本みたいになってきたぞ(笑)。だから、行きたくなくなるのか!
人間ドックのデメリット
ここまで読むと「人間ドックを受けておけば安心」と思う方もたくさんいるかもしれません。そんな方々に、デメリットもお伝えしておこうと思います。まず、治療する必要のない病気を見つけてしまうことがあります。これを過剰診断(※6)と呼びます。たとえば、放っておいても仮に20年は大きくならないようながんが80歳の患者さんの前立腺に見つかったとして、治療を要するものと診断してしまうことを指します。十分に吟味する前に大がかりな検査を次々と行うことになれば、患者さんには身体への負担や心理的ストレス、時間やお金といったコストが重なり、立場によっては就職や転職が取り消されてしまったり、最悪の場合、結婚が破談になったりするケースもあるようです。病気の早期発見・治療にこだわるあまり、幸せが奪われて、病気以上の精神的ダメージを食らってしまう、これでは本末転倒ですよね。
そしてもうひとつのデメリットは、検査していく中で患者さんの身体になんらかの害を与えてしまう可能性、これを医学用語で侵襲(しんしゅう)(※7)と呼ぶのですが、放射線を浴びる各種X線検査やCT検査などは侵襲度の高い検査として知られています。治療時にもいかに侵襲度を低くするかが僕たちの課題でもあり、最近では、直接胸やおなかを切って中を見る手術より、より侵襲度の低い内視鏡外科手術が主流になってきました。
そもそも人間ドックの検査は玉石混交で、がんの早期発見に役立つ明確なエビデンスがないものや、受けなくても日常生活には大して影響のない検査もあります。これに対し、病院から事前に詳しい説明やアフターフォローもないままになんでもかんでも受診している人を見ると「高いお金を払っているのに、もったいない」と残念に感じることがあります。僕からすると、知識の乏しさにつけ込まれて、悪徳業者に高額な壺を買わされているようなもの......。これもひとえに、人間ドックの検査項目に対する「予習」が足りていないからです。大事なのは、人間ドックに任せっきりにせず、いかに自分の身体の状態を知り、気になるところを把握するかなんです。
※5テストステロン 男性の健康、いわゆる男性らしい肉体を作るホルモンの一種。骨や筋肉を作り上げるのに必要な働きをする。
※6過剰診断 生命を脅かさないがんを発見すること。がん検診で発見されたがんの中には見つかっても大きくならなかったり、進行がんにならずに稀に消滅したりするものがある。
※7侵襲 生体を傷つけること。医療的な場面で用いられる場合、検査・手術による切除や皮膚や身体の開口部への器具の挿入、放射線照射など、身体に痛みや負担・刺激を与えることを侵襲的治療と呼ぶ。

笑いの処方せん
人間ドックを制する者が、健康生活を制シュッ!



しゅんしゅんクリニックP
1983年7月2日生まれ。群馬県前橋市出身。吉本興業所属のお笑い芸人兼医師。アイドルグループ「吉本坂46」メンバー。2008年、群馬大学医学部医学科卒業。NSC東京校16期卒業後、2011年に漫才コンビ「フレミング」を結成して舞台を中心に活動するも2016年に解散。ピン芸人に転向後、医者あるあるの歌&ダンスネタ「ヘイヘイドクター」が注目を集めてブレイク。以降、テレビや舞台、YouTubeをはじめ、学園祭や医学系学会にも多数出演するなど、幅広い活動を行っている。史上最高齢で神保町よしもと漫才劇場の所属芸人となったおばあちゃんとの漫才ユニット「医者とおばあちゃん」としても活動中。