「当時60代だった父は、信頼する仲間とビジネスを始めました。ですが、父は金銭面だけでなく、心にも大打撃を受けることになりました...」
アラフォー、アラフィフ世代の女性を中心に、実体験エピソードを寄せてもらいました。年齢を重ねると健康や人間関係、お金などさまざまな問題が発生しますが...。あなたならこんな時、どうしますか?

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■時流に乗って商売は快調! 勢いのままに手を広げるも...
私の実家で起きた事件です。
当時、両親(当時60代)は趣味の物を扱う小さな店を経営していました。
両親は店の切り盛りに苦労している様子でしたが、業界にヒット商品が出たこともあって、羽振りの良い時期もありました。
店には、子どもから大人まで常連さんがいて、趣味の同好会のようなグループを作り、店に顔を出すと何人かが集まって話に花を咲かせていました。
そんな中、両親はビジネスの拡大を狙ったのでしょう。
2号店を開店し、常連客だった両親より2歳ほど年下の男性Aさんに、暖簾分けのような形で運営を任せることにしました。
2号店を出したことで、私としては実家も安泰だと思っていました。
2号店を運営するAさんとは特に関わりはありませんでしたが、たまに顔を合わせると「お坊っちゃん、社長にはお世話になっています!」などと持ち上げられ、調子の良いおじさんといった印象を持っていました。

■突然の意味不明な電話...実家に一体何が?
そんなある日、母から電話があり、「Aさんから連絡がないか?」と尋ねられました。
突然の電話に戸惑い、母の意図が分かりませんでしたが、あるわけがないと答えました。
すると母は「Aさんが夜逃げして...」と言うのです。
話によると、店の売れ筋商品と運営資金として預けていた数十万円を持ち出し、急に連絡が取れなくなったとのことでした。
両親が営む本店の経営状態は良好でしたが、我が家にとって損害は小さくありません。
もちろん、両親は可能な限りAさんの行方を捜し、警察にも届けました。
事件に巻き込まれた可能性も含めて捜査していましたが、とうとう消息は分からずじまい。
両親は忙しい本店の営業の合間を縫って2号店を店じまいし、その後の対応にも追われる日々でした。
何とか落ち着きを取り戻したのですが、問題は金銭的なことだけではありません。
私としては、短気な父がさぞかし怒っているだろうと思ったのですが、意外にも怒りよりも大きかったのは落胆でした。
父は私たちの前で怒りを見せず、ただ力が抜けたような苦笑いを浮かべ、それは父をよく知る私たちにとっては意外すぎるものでした。
「体調とか事情があるのだろう、とか言ってて...」
母の言葉に、父にとってAさんが大切な仲間だったと悟りました。
Aさんがまだ常連客だった頃、よく閉店時間を過ぎても2人で楽しそうに話し込んでいたことを思い出しました。
人付き合いの少ない父にとって、Aさんは数少ない信頼できる友人だったのです。
少なくとも父はそう思っていたのだと思います。
落ち込む父の姿はあまり見たことがなく、私は胸が痛くなりました。
父は残った店を最後までやり遂げ、81歳で亡くなりました。
あの男性も健在なら80歳過ぎの高齢者のはずです。
生きているなら、父の墓前で頭を下げて謝ってほしい...。
いまの私の心情です。