中学生のころから25年間にわたって、子どもに性加害を繰り返した男性が、実名で顔を隠さずに自身の性加害経験を語っています。警察に自首し、性依存症と診断され、治療を続けた末、今では「加害者を生まない社会に」と願い発信を続ける男性。教育現場で性犯罪歴を確認する「日本版DBS」がいま国会で議論される中、男性が期待することと課題とは―。(報告:木村智子)

■家庭教師の生徒・通りがかった小学生…「性加害が終わったら自殺しよう」

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 東京都に住む加藤孝さん(61)はこれまでに10人以上の子どもにわいせつなどの性加害を加えたといいます。

 「最初は中学生のとき。幼稚園の女の子にわいせつなことをしたのが、性加害の始まりでした」

 第二次成長期を迎え、性的なことに関心を持つようなった中学時代。当時は、子どもに対する性教育も十分ではなく、加藤さんに悪いことをしているという認識はなかったといいます。

 以来、アルバイトの家庭教師で知り合った子ども、通りがかった小学生、知的障害のある男子高校生などに加害を繰り返しました。歯止めが利かない性衝動のほかに、アルコール依存症や摂食障害も重なり、鬱になり、最後には自殺することも考えたといいます。

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 「仮に性加害がバレたとして、逮捕されてもいいから加害したいという、自暴自棄の状態でした。性加害が終わったら自殺しちゃおうと考えていました」

 ターニングポイントとなったのが38歳の時。この日は、街で見かけた小学生の男児を公衆トイレに連れ込み、わいせつな行為に及ぼうとしていました。口をガムテープで塞ごうとしたとき、「やめて!」という男子児童の必死の抵抗の声に、我に返ったといいます。

 「このままでは子どもを殺しかねない」と自首をすることを決めた加藤さん。警察に逮捕・起訴され、強制わいせつ未遂の罪で執行猶予付きの有罪判決が言い渡されました。

■依存症と闘う日々…性加害者に今伝えたいことー

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 判決後、『性依存症』と診断された加藤さん。これ以上、子どもを傷つけたくないという思いから、自助グループに積極的に参加し、加害者臨床に明るい医師にも自ら会いに行き、性加害をやめることができました。

 今は、自らの性加害経験を発信しながら、同じ過ちを繰り返さないよう自分を律する日々を送っています。

 実名・顔出しで取材を受ける理由について、「今の僕にできることは被害者を生まないために、社会に働きかけること。加害者も、治療に取り組めば、再犯のリスクも減り、自分自身も生きやすくなります。以前の僕は“自分は変われない”と思っていたけれど、決してそんなことはありません。あなたも変われると伝えたい」と話します。

■性犯罪歴を教育現場に通知 新制度「日本版DBS」国会で審議

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 社会に向けて発信を続ける加藤さんが期待を寄せるのが、性犯罪歴のある人を教員や保育士など、子どもに接する仕事に就くことを実質的に制限する法案「日本版DBS」です。

 その仕組みはこうです。国が、性犯罪歴を登録したシステムを管理し、学校や認可保育園などが就労を希望する人に性犯罪歴があるかどうかを事前に国に確認します。犯罪歴があった場合は、国がまず本人に事前に通知し、それでも本人が就労を希望した場合には、学校や認可保育園などに「犯罪事実確認書」が交付され、子どもに接する業務に就かせないなどの措置を講じることが求められます。

 イギリスにある「DBS制度」を参考にしたため「日本版DBS」と呼ばれているのです。法案は国会で審議され、今月にも成立する見通しで、成立すれば2027年にも導入されるといいます。

■本当に子どもを守れる?性加害経験者「20年経過しても衝動はある」

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 保育や教育の現場から期待の声があがる一方、課題も残っています。

 一つは、性犯罪歴を確認する事業者が限定的な点です。学校や認可保育園には確認を義務づける一方で、認可外保育園や学習塾などはあくまで任意でフリーランスの家庭教師やベビーシッターなどの個人事業主は対象外となっています。義務化されるのは子どもに接する職業のほんの一部でしかなく、制度の実効性を疑問視する声も少なくありません。

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 もう一つは、性犯罪歴を確認できる期間が限定されている点です。子どもと接する業務につけなくなる期間は、実刑判決の場合は刑を終えてから20年、執行猶予の場合は、判決が確定してから10年と限られます。

 再び加害行為に及ぶことなく、20年以上が過ぎた加藤さんでさえ、「正直、今でも性加害衝動はあります。性依存症は“回復”はするが、完全に“治療”することはできません。20年経てばもう加害をしないとは言えないと思います」と訴えます。

■「懲罰では治らない」子どもを守るために…“居場所”を作る必要性

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 性犯罪を防ぐために、何が必要なのしょうか。

 性加害者の治療を専門とするNPO法人『性障害専門医療センターSОМEC』の福井裕輝代表理事は、「被害者を生まないためには、加害者をなくすしかありません。ただ、性の嗜好はLGBTQと同様で、懲罰で治る問題ではない」と話します。

 その上で福井さんは、「居場所をなくして監視するだけではだめで、例えば子どもと接することなくできる仕事を斡旋するなど、彼らの社会での居場所を作ることを、制度と合わせて進めることが再犯を防ぐことにつながる」と指摘します。

 子どもへの性犯罪を撲滅するために制度で犯罪の芽を摘むだけでなく、性加害者を生まず再犯を防ぐための根本的な取り組みも改めて問われています。