自動車所有が表す女性の自己表現

 近年、女性の社会進出が進み、管理職やこれまで男性に限られていた職業に就く女性が増えている。その結果、女性の働く姿は男性と同じくらい一般的になっている。また、かつては「車の所有や運転 = 男性の領域」という考えも薄くなってきた。

 女性が車を所有し運転することは、自立とエンパワーメントの象徴とみなされることもある。特に、最近の女性の高学歴化と専門職就業率の上昇は、この関係に大きな影響を与えている。

 女性のエンパワーメントとは、

「女性が個人としても、社会集団としても意思決定過程に参画し、自律的な力をつけて発揮すること」(内閣府男女共同参画局)

を指す。つまり、経済的自立だけでなく、社会活動や意思決定に積極的に参加し、自分の意見や価値観を主張することである。

 このような社会の変化を受けて、企業では女性の管理職や専門職への登用、男女平等の働き方の推進が進んでいる。

 厚生労働省の調査によると、2022年度の企業管理職に占める女性の割合は12.7%と昨年より0.4ポイント上昇し、この傾向は今後さらに強まると予想されている。

 社会の変化にともない、女性の生活をより円滑にし、行動範囲を広げ、生活の主導権を握る手段として、自動車の所有・運転の重要性が高まっている。

 また、所有する自動車は自己表現やアイデンティティーの表現としても機能し、ファッションの一部として捉えられることもある。ファッション誌でモデルの背景に高級輸入車が登場するのもそのためである。

車を運転する女性(画像:写真AC)

女性の働き方多様化に合わせた車開発

 かつては、車は主に家族の移動手段として選ばれていたが、その目的は変化。結婚・出産後も働く女性が増え、仕事と家庭・子育て・趣味を両立させるために、さまざまな車の利便性が求められている。

 例えば、キャンプブームに乗った

「ジムニー女子」
「ランクル女子」

は、コミュニティーをつくって活動し、SNSでカーライフを発信している。

「釣りガール」
「山ガール」
「自転車女子」

と呼ばれるアウトドア派の女性たちは、車高が高く、シートアレンジが多彩で、荷室容量が大きい車を駆使して趣味を満喫している。

 子育て中の女性は、子どもの送り迎えに使いやすく、子育てに便利なスライドドア、ハイトールタイプ、シートスライド機能付きの車を選んでいる。

 働き方に目を向けると、多様性への意識が定着し、正社員からフリーランスに転身する女性もいる。通勤時間に縛られることなく、ノマド的に働き、車で旅を続けることも可能な時代になった。

 自動車メーカーは、さまざまな立場の女性のニーズに応える車の開発を推進している。女性のニーズに応える車は、幅広い世代、職種、立場のニーズに応える車の開発にもつながると理解しているからだ。当然、女性社員の雇用改善にもつながる。

車を運転する女性(画像:写真AC)

女性の車選び、スタイルも多様化

 女性の収入アップやライフスタイルの変化にともない、車に対するニーズも多様化している。

 かつては、丸みを帯びたかわいらしいデザインやコンパクトなサイズの車が好まれていたが、現在では、先に挙げた「ジムニー女子」や「ランドクルーザー女子」に見られるように、女性の好みの幅が広がっていることがわかる。

 20代から60代の女性30人を対象にした筆者(松永つむじ、フリーライター)のアンケートでは、既婚・未婚を問わず、自分専用もしくは半分以上自分が運転する場合は「自分の好みで車を選んだ」という意見が8割以上だった。

 車種は軽自動車から大型スポーツタイプ多目的車(SUV)まで多岐にわたったが、軽自動車は全体の2割程度にとどまり、普通車から大型車に乗る人が多かった。大型SUVに乗っている独身女性もひとりではなかった。

 それぞれに車種を選んだ理由を尋ねると、

「長く利用するものだから大きくてしっかりしたものがよかった」
「おしゃれな輸入車に乗ってみたかった」
「好きなデザインだった」

などの答えが返ってきた。

 また、「かっこいい車に乗りたかった」という女性も多かった。そんな女性たちの声を反映してか、自動車メーカー各社はボディ色にかっこいい色をどんどん追加している。

 車の色といえば、以前は白、黒、シルバー、ブルー、赤が定番だったが、今は色を選ぶ楽しみが増えている。これも女性が車にこだわるようになった理由のひとつだろう。ベージュ、カーキ、ネイビーグレー、ブラウン、モーブなど、以前とはちょっと雰囲気の違うシックな色の車を見ると、乗っているのは圧倒的に女性が多い。

 また、車種によっては黒やホワイト、ブラウンとのツートンなどもあり、よりファッショナブルでクールな印象を与える。シックな色の大型車を、センスのよいファッションに身を包んだ女性がハンドルを握る――。そんなシーンが今後も増えていくかもしれない。