増加する複雑な車の電装品

 現代の車には複雑なシステムが不可欠であり、走行支援機能や安全機能は年々増加している。これらの電子機器をつなぐために欠かせないのが「ワイヤーハーネス」だ。人間でいえば血管や神経に相当する重要な部品である。しかし、車のシステム数が増えれば増えるほど、ワイヤーハーネスの本数も増え、さまざまな課題を抱えている。

 ワイヤーハーネスとは、電気を通す電線と、その電気を周囲の外部に接続・伝送する端子やコネクタで構成される部品の集合体である。近年の車では車全体に使われている。かつての車には現在のように多くの電装品がなく、エンジンやライト、内装などをつなぐワイヤーハーネスの数も限られていた。

 しかし、エンジンの電子制御化などコンピューター制御が基本になると、各種システムをコンピューターに接続するためのワイヤーハーネスの本数が飛躍的に増え、年々電装品が増えるたびにその本数も増えていった。

 さらに最近では、ハイブリッド車や電気自動車のパワートレイン(車の推進力に関する装置の総称)がモーター駆動になり、駆動用バッテリーとモーターなどをつなぐ高電圧ハーネスの増加がさらに加速している。

 ワイヤーハーネスの増加は、車にとって単純な問題を引き起こす。増加は重量が増え、コストが上がるということなのだ。

 現在の車に使われているワイヤーハーネスの総延長は、1台あたり数kmにも及び、重量も20〜40kgと重い。車の総重量が増え、燃費が悪くなり、走行性能にも影響する。

 また、主材料である銅の価格は過去10年間で40%近く上昇しており、今後も上昇し続けるため、ワイヤーハーネスの増加は車の価格にも影響する。

アルミハーネスによる“軽量化”(画像:ユウアイ電子工業)

アルミ製品の採用増加

 自動車メーカーやサプライヤーは、増加する車載ハーネスへのさまざまな対応策を検討しているが、そのなかにはすでに採用が増えているものもある。

 車載ハーネスの増加で問題となっている重量とコストアップの原因の多くは、前述のとおり、芯材である銅にあり、この点を改善するためにアルミを素材としたハーネスが登場している。

 アルミは比重が銅の約3割しかないため、ワイヤーハーネスを大幅に軽量化できる素材だ。また、価格も銅の3割程度とかなり安価な素材であるため、コストダウンも期待できる。しかし、銅に比べて導電性が低いため効率が悪く、また端子表面に不動態皮膜が形成され、通電性が低下する。ただ、技術的な面は次第に改善されている。

 業界大手の古河電気工業(東京都千代田区)は、将来的にアルミハーネスの使用率を現在の4割から6割に引き上げる方針を打ち出しており、現状ではそれがひとつの解決策となっている。

 一方、ワイヤーハーネスに代わる他の方式も台頭してきており、現在研究段階だが、実用化のめどが立っているのは次のふたつだ。

 ひとつめは、ワイヤーハーネスを光ファイバーに置き換える方法で、電気信号を伝送する金属製のワイヤーハーネスに対し、光ファイバーによる高速通信が魅力である。

 もうひとつは、ワイヤーハーネスそのものをなくし、無線方式で通信する方法で、ハーネスが不要になることで軽量化に大きく貢献する。

 ただし、いずれの方式も現時点では量産車への実用化には至っておらず、課題も残っているため、今後の研究が期待される。

環境負荷低減に貢献する「車載ワイヤーハーネスレス統合技術」(画像:デンソーテン)

無線技術の課題と可能性

 アルミ素材のハーネスについては、銅素材からの置き換えが比較的容易で、導電性などの課題をクリアしていることから採用が進んでいるが、他の方式についてはクリアすべき課題が多い。

 光ファイバー方式は、現在の電線接続を光ファイバーに置き換えるという、ある意味わかりやすい方式であり、光ファイバーがインターネットの高速化などに使われてきたことを考えれば、当然の流れである。

 光ファイバーは金属に比べて圧倒的に軽く、電磁ノイズの影響を受けにくいため、性能的には申し分ない。しかし、光ファイバーは経路間の屈曲に弱いという根本的な弱点があり、車内の各所でワイヤーハーネスが自由に曲げられる現在のレイアウトには対応しにくい。

 車載システムが増え、狭いスペースにさまざまな電子部品が配置されるなか、光ファイバーの取り回しをどう改善するかがカギとなる。

 一方、代替の無線技術では、配線そのものが不要になるため、レイアウトの問題が大幅に改善され、コストや重量の削減にもつながる。

 しかし、外部からの電磁ノイズ等による通信障害の可能性が常につきまとう。現在、デンソーテン(神戸市)で研究中のシステムは、無線通信を主な通信手段としているが、バックアップとして有線通信回線も持っている。

 この方式を車両全体に拡大すれば、膨大な数の無線通信と有線バックアップが確保されることになるので、無線通信の精度がどこまで向上するのか楽しみである