廃車リサイクルの重要性

 2023年10月に千葉県議会で可決された金属スクラップヤードに関する規制条例が2024年4月に施行される。この条例が議会に提出され、可決されるに至った背景には、金属スクラップヤードに関するさまざまな問題があった。

 金属スクラップヤードとは、廃車の解体を前提とした金属スクラップの一時保管場所のことである。解体された自動車が積み上げられている場所を思い浮かべる人も多いだろう。

 首都圏では千葉県が最も多い。その数は約600、それ以上という指摘もある。そのうちの約300か所は、

・千葉市(県中央部)
・野田市(北西部)
・市原市(中央部)
・四街道市(北部)

を通る国道16号線沿いに集中している。

 金属スクラップヤードは、現在年間300万台弱と推定される日本の廃車を適切にリサイクルするために不可欠な施設である。廃車はここで解体される。中古部品、鉄鋼材料、非鉄金属材料、再生プラスチック材料、その他のシュレッダーダストなどに分別され、再利用される。

ヤードの立ち入りを実施している状況(画像:千葉県警察)

巻き起こされる環境問題

 日本の自動車ビジネスにおいて重要な役割を担っている金属スクラップヤードが、さまざまな問題を引き起こしているのはどういうことなのか。理由は主にふたつある。

 第一の理由は「環境問題」である。金属スクラップヤードは、廃車を解体するという性質上、騒音や廃棄物処理の問題が発生しやすい。法律に従って適切に処理されれば問題はないが、周辺環境の悪化を指摘する声もある。

 具体的には、

・騒音や振動
・土壌の油汚染
・火災
・外囲いの高さを超えた廃車の積み重ね
・廃車の倒壊の危険性

などが、2023年の条例制定時に複数指摘されていた。このたび制定された規制条例には、まず第一に、ヤードを設置するには、新たに県の許可が必要になることが盛り込まれている。これは既存の施設にも適用される。

 さらに、新規設置の場合は近隣住民への説明会の開催も義務付けられる。前述の問題に関する具体的な規制は、近い将来策定され、業者に通知される。今回の条例の施行には、無許可営業や改善命令違反に対する懲役や罰金などの厳しい罰則も含まれる。

 ちなみに、千葉市と袖ケ浦市はすでにこのような規制条例を制定している。今回の措置で、既存の条例に県条例が加わったことになる。ただし、設置許可を受けられる地域については微妙な違いがある。

 基本的には県条例が優先される。必要に応じて、市側から県条例の適用除外を申請することもできる。つまり、条例を実効あるものにするために、地域の実情に応じて柔軟に適用できるのである。

エンジン等の廃油による土壌汚染(画像:千葉県警察)

盗難車問題の深刻化

 そして、第二の理由は「盗難車問題」である。実際、きちんとした自動車リサイクルビジネスの一環として運営されている金属スクラップヤードのほかに、所有者が明確でない単なる廃車置き場となっているヤードも多い。

 これらのヤードは解体業者の車両ストックヤードとして利用されていると推測できるが、なかには

「盗難車の保管場所」

として利用されているヤードもある。いわゆる“違法ヤード”である。

 これは自動車リサイクルビジネスとは一線を画す深刻な問題である。これまでも対策は採られてきたが、県条例の施行により、迅速かつ定期的な立ち入り検査が可能となり、必要に応じて警察とも連携した活動ができるようになった。

 自動車盗難は日本全国で多発している深刻な犯罪問題である。なかでも首都圏は自動車の保有台数が多く、人気車種も多い。こうした地域の自治体や警察にとって、この問題への対策は急務である。

 盗難は、利用者ひとりひとりがマイカーを徹底管理することが基本だが、どんなに気をつけていても盗難に遭うことはある。一般的に盗難車は、身元がわからないようにシャシーナンバーが改ざんされる。部品に分解され、外国に輸出されることも多い。

 このような作業は、実は無届けで設置された金属スクラップヤードや倉庫で行われており、これらの保管場所を特定することが盗難車対策として有効である。

作業員宿舎と鉄板等で囲まれたヤード(画像:千葉県警察)

犯罪防止の重要性

 繰り返しになるが、金属スクラップヤードは現時点では自動車ビジネスに欠かせない存在だ。この点で深刻な問題が起きていることは、今後日本中に広がっていくことが予想される。

 実際、千葉県に次いでこうした金属スクラップヤードの数が多い茨城県では、同様の県条例の策定が検討されている。

 自動車が盗まれ、解体され、輸出されるまでには、一定のスペースを持つ施設の存在なくしては成り立たない。その意味で、

・立ち入り検査の回数を増やす
・常時監視する

ことの徹底周知は、犯罪防止に極めて有効だ。

 クルマを盗まれて泣く人をひとりでも減らさなければならない。