地方衰退とガソリンスタンドの関連性

 今や、全国でガソリンスタンドが「3か所以下」の市町村は343市町村。さらに、10市町村では「ゼロ」になっている。2016年の経済産業省の調査では「最寄りSS(サービスステーション)までの道路距離が15km以上離れている住民が所在する市町村」の調査は302か所となっているが、現在はその数はもっと増加していると考えられる。

 4月24日に民間組織「人口戦略会議」が公表した「消滅可能性自治体」は、にわかに注目を集めた。この分析では全国で744の市町村が2020年から50年の30年間で、子どもを産む中心の世代となる20〜39歳の女性が半数以下に減少し「消滅可能性」があるとされた。

 この消滅可能性自治体の一覧と、資源エネルギー庁が公表している「SS 過疎地対策ハンドブック」に掲載されたガソリンスタンド3か所以下の市町村を対照してみた。結果、実に

「62%」

にあたる217自治体が、消滅可能性があり、かつガソリンスタンドが3か所以下という結果となった。足であるマイカーを動かすためのガソリン供給拠点が消えていくことで、地域の衰退にさらに拍車がかかる。すなわち、

「移動のためのインフラ整備」

も消滅を回避するためには必須なのである。

揮発油販売業者数及び給油所数の推移(画像:資源エネルギー庁)

ガソリンスタンドの減少が続く理由

 そもそも、なぜガソリンスタンド数は減少が続くのか――。

 経済産業省の公開している資料「揮発油販売業者数及び給油所数の推移(登録ベース)」によると、2022年度末の給油所数は2万7963か所と、ピーク時の1994年度末の6万0421か所の46%まで減少している。この背景としてよく語られるのが、

「需要の減少」

である。燃費性能の向上により、自動車1台あたりのガソリン消費量は着実に減少してきた。これに加えて人口減により、特に過疎地に立地するガソリンスタンドは、売り上げを減らすことになった。

 また、老朽化したガソリンスタンドの地下タンクは、新安全基準に適合した「二重殻タンクへの改修」を義務付ける消防法の規制強化も、ガソリンスタンド減少の一因と見られている。工事費は1か所あたり数千万円にもなる。そのため、将来的な収益改善が見込めない過疎地のガソリンスタンドは廃業を選択するケースが多い。

 しかし、より大きな問題はガソリンスタンドの適切な保護政策が行われなかったことだ。1990年代から行われた規制緩和こそがガソリンスタンドの数を減らした主要因である。1990年代前半には、ガソリンの元売りと系列ガソリンスタンド間の取引慣行が見直され、仕入れ先選択の自由度が高まった。

 1998(平成10)年には、ガソリンスタンドの営業時間や併設業態に関する規制が撤廃され、同時に大規模小売店舗立地法の運用緩和も進んだ。こうした流れのなかで、ガソリン市場への異業種参入が相次ぎ、価格競争に拍車がかかった。経済学者・桐野裕之氏の論文「日本のガソリンスタンド数減少の要因分析」(『流通』49号)では、

「規制緩和に伴う競争激化により、90年代後半以降、ガソリンの販売マージンが大幅に低下した」
「価格競争力の弱い中小のSSが数多く淘汰(とうた)される結果となった」

と分析している。

 つまり、現在の過疎地域でガソリンスタンド難民ともいえる状況が生まれた原因として、規制緩和の弊害が否めない。ガソリンスタンドを“地域のインフラ”と考えずに、価格競争をなすがままに促進させた結果なのである。

 これは、物流業界の「2024年問題」のように、大局観のない「失政」だったといえるだろう。ゆえに、人口減少時代の地域インフラのあり方を再考する上でも、こうした過去の失敗を直視し、教訓とすることが肝要だ。

廃業したガソリンスタンドのイメージ(画像:写真AC)

地域社会の持続可能性への脅威

 それでは、ガソリンスタンドの閉鎖は、具体的に地域にどのような影響を与えるのか。

 それを詳細に分析したのが谷口祐太氏の論文「山村地域におけるモビリティエネルギーの孤立実態調査」(『和歌山大学Kii-Plusジャーナル』1号)である。この論文では、和歌山県北部の紀美野町において、ガソリンスタンド減少の実態とその要因について調査研究を行っている。

 これによれば、紀美野町内では過去に11か所のガソリンスタンドが営業していたが、調査時点では6か所に減少している。減少要因としては、全国的な傾向と同様に「ガソリン需要の減少」が挙げられるが、同町特有の要因として

「商業の衰弱を発端とした住民の生活圏の変化」

も指摘されている。また、現在営業中のガソリンスタンドの営業時間を調べたところ、日曜日に営業している店舗が1か所も存在しないことが明らかになった。論文では

「一時的ではあるがSS過疎地と呼ばれる状況に陥っている」

と分析している。さらに、将来の移動手段として期待される電気自動車(EV)の普及可能性についても言及。現状、同町内にはEVの急速充電設備が整備されておらず

「現状のままではEVを利用した日常生活はガソリン車よりも困難」

との見方を示している。つまり、この調査研究は、地域の人々の足を守るためには、単にガソリンスタンドの数だけでなく、

・アクセシビリティ
・営業時間
・EV等の新技術への対応

など、多角的な視点から地域の移動エネルギー供給のあり方を考えていく必要性を提起しているといえる。

 ここで谷口氏が示唆するのは、ガソリンスタンドの消失が、単なる利便性の低下だけではなく

「地域社会の持続可能性そのものを脅かしかねない」

深刻な問題だということだ。地域から生活に不可欠なインフラが失われることで、住民の日常生活は著しく困難になる。長期的には、地域からの人口流出を招き、地域社会の衰退に拍車をかける恐れもある。

 過疎地域の将来を見据えるとき、ガソリンスタンドをはじめとする地域のモビリティインフラをどう維持・再構築していくかは、喫緊の課題といえるだろう。

EVの自宅充電のイメージ(画像:写真AC)

ガソリン車からの脱却の必要性

 こうした状況を改善するために「公設ガソリンスタンド」の動きは、各地の自治体で広がりつつある。

 だが、税金投入を前提とした公設ガソリンスタンドは、財政面での持続可能性に乏しい。公設ガソリンスタンドは、あくまで当面の「つなぎ」の措置にすぎない。根本的な解決策として期待できるのは、

「ガソリン車依存からの脱却」

である。すなわち、個人宅でも充電可能なEVへの転換である。確かに現状の過疎地域ではEVの充電インフラが整備されておらず、その導入には克服すべきハードルも多い。しかし、ガソリンスタンドに頼らずとも個人宅で充電できる点は非常に魅力的だ。

 世界的な流れを見ると、石油大手各社ですら「ポストガソリン車時代」への対応を加速させている。中国では、国営石油大手のシノペックとペトロチャイナがEVの急速充電器を備えた大規模な充電ステーションの建設を全国的に進めている。

 シノペックは2025年までに5000か所、ペトロチャイナも1000か所の新設を目指すなど、EV充電インフラ整備に巨額の投資を始めている。欧州でも、英シェルが2024年から2年間で世界中のガソリンスタンド1000店を閉鎖し、EV充電基地に転換する計画を打ち出した。世界的なEV需要の高まりに対応し、脱化石燃料時代を見据えた経営戦略の転換を鮮明にしている。

 自動車はガソリンを燃料とし、給油はガソリンスタンドで行うという常識は、今後数十年のうちに過去のものとなるだろう。したがって、公設ガソリンスタンドの動きは、この世界的な潮流を前にした過渡的なステップにすぎない。内燃機関への“未練”を断ち切ることで、地域レベルからEV時代への移行を加速させなければならない。それが、人口減少社会を生き抜く唯一の道なのである。

 過疎地や山間部では、再生可能エネルギーを活用した自立分散型の電力インフラ整備が積極的に進められている。太陽光や小水力などを活用した「地域マイクログリッド」の構築が、EVの普及を後押しする効果は大きい。

 ようは、ガソリンスタンドの維持が無理だから、EVへ移行するのではない。ガソリンスタンドに依存する灯油を再生可能エネルギーに転換するなど、生活に必要なエネルギーを得る手段そのものを変えるのである。移動手段である自動車をEVへ転換するのは、その

「第1歩」

にすぎない。

EVの充電ステーション(画像:写真AC)

地域経済の再構築とEV化

 EVへの移行をいかに加速させるか。その実現には、自治体の積極的な関与が欠かせない。充電設備の設置に対する補助制度を拡充し、EVインフラや再生可能エネルギーの地産地消を可能にする設備の整備を急ぐ必要がある。

 また、同時に、EV購入者への優遇税制を強化し、過疎地住民のEVシフトを直接支援することも求められる。高齢化を前提に、レンタカー・カーシェアリング事業へのEV導入も有効だろう。自治体自らがEVを率先導入し、地域ぐるみでEVを普及させる先導役を果たすことも肝要だ。

 このように、化石燃料からの脱却は、脱炭素化時代における地方創生の大前提だ。クルマ社会のEVシフトは、地域の生活インフラの再構築につながる。地域の足となる移動手段を次世代型にアップデートすることは、人口減少時代を生き抜く過疎地域の活路を切り開く突破口となる。将来的には、自立的な地域経済の構築につながり、人口減少時代のローカル経済の持続可能性を高める。すなわち、消滅可能性を回避できるのである。

 自動車はもちろん、すべてのエネルギーのあり方を見直し、EV化を地域経済の新たな福音として位置づける発想が重要だ。ガソリンスタンド問題の解決は、そうした地域社会の構造転換への第1歩となるだろう。

 EVへの移行は、人口減少社会における“地方創生の試金石”といっても過言ではない。化石燃料に依存した従来型のクルマ社会から、再エネ型のEV社会への移行を地域からどう進めていくのか。そこに、過疎地域の未来を切り開く鍵が隠されている。

 ガソリンスタンド消滅へのカウントダウンはすでに始まっている。“EVアンチ”はポジショントークをしている場合ではない。