ドライバー不足とオンデマンドバス

「2024年問題」が顕在化するなか、路線バスドライバー不足がクローズアップされている。筆者(西山敏樹、都市工学者)はこれまで当媒体で、カスタマーハラスメントや利用者減少による給与水準の低下など、バスドライバーを取り巻く環境の悪化について伝えてきた。

 運行本数の確保が難しくなったことで、路線の減便や廃止、さらにはバス事業そのものの廃業が全国各地で起きており、ここまで来ると、もはや

「路線バスという発想自体が古いのか」

という疑問さえ湧いてくる。

 筆者はこれまで、オンデマンドバスについて企業各社と調査を行ってきた。オンデマンドバスとは、あらかじめルートやダイヤが決まっていないことを最大の特徴とする予約型バスのことである。

 乗客がスマートフォンやパソコンから乗降する日時や場所を指定し、AI(人工知能)が最適なルートを提供することで、ドライバーの労力やエネルギー、コストの削減を目指す。まさにオンデマンド、つまり乗客のニーズに合わせて運行する新しいスタイルの乗り合いバスだ。

 一般的に、ダイヤがあるため、「いかにそれに合わせて運行本数を確保するか」を考えがちであるが、オンデマンドバスは、それを打ち破る乗り物といえる。

路線バス(画像:写真AC)

オンデマンドバスの課題

 このようなダイヤのないオンデマンドバスは、昨今の第3次AIブームで大都市圏から地方まで全国各地で試されている。

 しかし、そのすべてが成功しているわけではない。あくまでバスであり、タクシーではないので、バス停のようなミーティングスポットがあり、そこでオンデマンドバスを待つ人、降りる人がいる。

 あえて、バス停と書かないのは、物理的なバス停ではなく、スマートフォンの画面上でミーティングスポットを可視化して指示する方法があるからだ。さて、オンデマンドバスを利用する生活者の視点から考えてみよう。

 まず、予約サイトと予約者のインターフェースが悪ければ、生活者は利用意欲を失ってしまう。特に後期高齢者はスマートフォンの操作が苦手な人が多い。しかし、彼らはオンデマンドバス利用者のボリュームゾーンである。まずはこの問題を解決する必要があるが、電話予約のような方法を取り入れると、AIコミュニケーションでも余計なコストがかかってしまう。

 次に車両である。エンジンで走るバンタイプの車両は幅が狭く、段差も大きい。電動かつ低床のバンタイプがラインアップに加わるには、まだ時間がかかるだろう。これを敬遠する人もいる。

 もう一つの問題は、決済に残っている。バス車内での現金決済は減る傾向にあるが、オンライン決済やキャッシュレス決済に抵抗のある乗客、特に高齢者は意外に多い。

路線バス(画像:写真AC)

マーケティング調査の重要性

 そもそもオンデマンドバスは、利用者が少なければ成り立たないし、地域独自のバスにすることを忘れてはならない。

 一時期のコミュニティーバスブームを思い出してほしい。武蔵野市のムーバスは人気を博し、全国の自治体関係者が視察に訪れ、まねをするようになった。しかし、地域の特色を軽視・無視し、路線開設を優先した結果、多くのコミュニティーバスは失敗した。

 事前に綿密なマーケティング調査を行い、その地域ならではのコミュニティーバスを目指したところではうまくいっている。これは、オンデマンドバスも同様である。マーケティング調査とその結果に基づいたサービスの開発が不可欠である。

 さらに、サービスの特徴を周知するためのブランディングも考える必要がある。例えば、地域の高齢者の通院、買い物、公共施設訪問などのニーズに応じた待ち合わせ場所の設定など、きめ細かなサービスを提供することが重要だ。

 マーケティングリサーチを専門とする筆者は、オンデマンドバスサービスの成否は、運行計画の段階で利用者数を綿密に予測できるかどうかにかかっていると考える。地域住民への徹底したニーズ調査を行い、採算性を十分に考慮した上で計画する必要がある。

 実際、多くのオンデマンドバスは実証実験が多く、実際の運行・普及に進むかどうかの判断に十分なデータが得られていないケースもある。この分野での公的財政支援も期待される。

路線バス(画像:写真AC)

社会的議論と実用化への期待

 ここまで書いてしまうと、オンデマンドバスも利用・運行ともに難しい乗り物と思われてしまうかもしれない。そこで筆者は、事業者などとのタクシーの相乗りという方法を考えたこともある。これは、エリアを定め、そのエリア内で同じ方向に向かう予約客を、均一運賃で運行しながら乗せるシステムである。

 例えば、都区内で路線バスの運賃が230円の場合、500円の均一運賃で運行するイメージだ。しかし、各方面から

「同じ地域で運行するバス事業者の経営を圧迫する」

という批判があり、計画は頓挫した。

 そもそも、許認可を担当する行政もこの案には否定的だった。もちろん、タクシー事業者が経営的意義の有無を十分に検証できていないのは残念なことだ。路線バスがうまく成立していない現状では、オンデマンドバスや乗り合いタクシーなど、ダイヤに頼らない柔軟な方法がありうる。

 しかし、こうした方法を試すことすら難しいのが問題であり、2024年問題が顕在化するなか、こうした新しい柔軟な乗り合い手段を積極的に議論・検証し、実用化を進めることが社会的に重要である。

 また、選択肢そのものを広げ、生活者が自由に選択し、その結果、選ばれたものが残る社会を目指すことも必要である。そのような政策が生まれることを期待したい。