70復活と250の新展開

 発表以来、コアなオフロード車マニアを中心に大きな注目を集めていたトヨタ・ランドクルーザー250が、2024年4月18日に発売された。

 ランドクルーザーというモデルは、トヨタにとって最初に世界市場において高い評価を得た記念すべきモデルでもあった。その一方で、ここ10年ほどのモデルは、いわゆる高級スポーツタイプ多目的車(SUV)ブームのなかでそのポジションに迷いが垣間見えたことは否めない。要するに、ランドクルーザーをデビュー当時の

「タフで信頼性の高い4輪駆動車」

として展開しつづけるのか。それともレンジローバーやメルセデス・ベンツGクラスのように、

「オンロード性能に重きを置いたプレミアムSUV」

に方針転換するか。という二者択一を迫られていたということである。

 これについてオリジナルの質実剛健さを維持していた70シリーズの国内販売が終了したことで、多くのランドクルーザーのファンは、プレミアムSUVへの道へ大きくかじを切ったという認識を抱いた。その結果は国外仕様の70シリーズや既に旧車の領域に入っていた60シリーズや40シリーズの価格高騰である。

 しかしトヨタの販売戦略はこれで完全に変わったわけではなかった。その結果、新たに導き出されたのが70シリーズの復活。そして今回の新しい250シリーズの投入だったというわけである。

ランドクルーザー250(画像:トヨタ自動車)

「原点回帰」と「生活実用」

 新しいランドクルーザーの販売戦略は明確である。

 まずは世界的な売れ筋モデルであるプレミアムSUVについては300シリーズを宛てる。このモデルはかつてのランドクルーザー・プラドと最上級モデルだった200シリーズを合わせた性格のモデルである。

 高級さと豪華さを兼ね備えたこのラインは、ランドクルーザーにとっては「象徴」を重視したモデルと位置づけられている。

 対してランドクルーザーのルーツというべき信頼性の高いオフロード4WDモデルのポジションを継承すべく復活した新しい70シリーズは「普遍」をテーマに剛健と堅固を最前面に押し出したモデルとなる。

 そして最も気になる250シリーズについては、「原点回帰」をテーマにランドクルーザー全体の中核を担うモデルとして展開されることとなる。ちなみにここでのキーワードは

「生活実用」

である。

 こうしたトヨタ側の新たなプレゼンテーションに対して、実際のユーザーとなる層はどういった印象を抱くだろうか。最上級モデルとしての300シリーズの象徴はわかりやすい。70シリーズの剛健と堅固、すなわち普遍もまた同様である。一方で250シリーズの生活実用はどうなのか。

ランドクルーザー250(画像:トヨタ自動車)

都市部での普段使いに最適

 確かに250シリーズは搭載されるパワーユニットはガソリンエンジンもディーゼルエンジンも4気筒のみというシンプルさである。ハイブリッドの設定もない。古くからの4輪駆動車ファンにとってみれば、街乗りをメインにタマに雪道や林道を走行するといった使い方に最適というスペックに思える。

 4輪駆動車としての確かな性能が欲しい。ただし70シリーズのようなスパルタンさ(機能性最優先)は不要。ドライブフィールは乗用車に近いモデルが好ましい。これらを前提に安全装備や快適装備に抜かりはなく、ボディもできるだけ小型で都市部でも普段使いで運転しやすいモデルがよい。こうした嗜好を持つユーザー層が想定できる。

 こうした嗜好はいってみれば細かな部分での違いこそあれ、いわゆるクルマ好きの嗜好傾向におけるメインラインというべき存在である。ハイブリッドがよいのであれば、ほかに選択肢はいくらでもある。SUVとしてのポジションを重視するならそれに即した車種は多い。

 しかし、「余計な機能はなくていい」、「メカニズムはシンプルなほどよい」、ただし「最新レベルでの安全性と快適性」は担保してほしい。こうした要求に応えるべく投入されたのが新しいランドクルーザー250。すなわち「生活実用」を重視したモデルということなのである。

 このほか、ランドクルーザー250には面白い特徴がある。それはスクエアを基調にストレートなラインを多用したボディデザインである。これらは古くからのクルマを知っているベテランドライバーにとっては、新しさのなかにもどこか懐かしさを感じるものである。対して近年の前後を大きく絞り込んだデザインのSUVを見慣れている若いユーザーにとっては、逆に新鮮なものに思える。どちらにしても好ましい印象を残す。これは見事な戦略である。

 ちなみに発売と同時に投入された限定特別仕様車である「ファーストエディション」は、丸型ヘッドライトが装備されるなど、懐かしさを強くイメージしたものとなっている。これは前述したランドクルーザー250の懐かしさと新しさをさらに強化するデザインだといってよいだろう。

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

産業に影響を与えるユーザー嗜好

 もうひとつ、ランドクルーザー250にはさらに興味深いポイントがある。それは純正オプションとしてともに人気の社外カスタムパーツメーカーである「ジャオス」と「トイファクトリー」の製品がラインアップされることとなった。

 オフロード4WDにおいて、こうしたカスタムパーツは売れ筋の人気商品であり、トヨタが社外品を選択した上で純正扱いとともに販売するということには

「業界全体の活性化」

という意味でも有意義である。

 ランドクルーザー250は、おそらく若いユーザーから年齢層が高い層まで、満遍なく支持を得ることになろう。気になるのは最もベーシックなもので520万円(ディーゼルGX)。最上級では785万円(ディーゼルZXファーストエディション)というその価格だが、

「この数字をリーズナブルなものと捉えることができる層」

にとってみれば、選択肢としては正解である。

 どういった人物がランドクルーザー250を選択したのか。いずれ明らかになるそのユーザー層は、今後のオフロード4WDを含めたSUV全体のユーザー嗜好を判断する上で大きな指標となろう。そこに新たな自動車ビジネスの方向性が示されることは間違いない。