MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第28回はバラエティ収録に挑もうとする都筑の意図とは?
■ピンキー☆キャッチ 第28回 独占スクープ
電話の様子を遠巻きに見ていた遠山が駆け寄ってきた。

「どうかしましたか?」
「ああ。ちょっと関東テレビまで出てくる」
「関東テレビ?記者会見の付き添いか何かですか?」
「いや、リミテッドの収録でだ」
「収録!!?」

遠山は理解が追いつかない様子で黒目を左右に動かすと、都築を部屋の端まで押しやって声をひそめた。

「リミテッドって、あのバラエティのリミテッドですか!?」
「ああ、バラエティのリミテッドだ」
「ちょっ・・。ちょっと何考えてるんですか!?この緊急時に!!」
「これから本格的な放射線検査や非破壊検査に入るし、その結果待ちもある。どうせしばらくは待機なんだ」
「それにしてもですよ!いつどんなタイミングで何があるか分からないのに!!」
「何があるか分からないからだよ」
「!!?」

喧騒に気付いた吉崎がモニターを離れてこちらに来ると、混乱する遠山を連れ添って廊下に出た。吉崎は二人の表情を交互に見比べて訝しがった。

「なんだこんな時に。どうかしたか?」
「・・いえ・・・・」
「吉崎さん、自分これからリミテッドの収録で、関東テレビまで行ってきます」
「・・・・そうか、分かった」
「え!!吉崎さんまで・・・・私は納得出来ません。今はタレント活動がどうのこうのの事態じゃないでしょう!」
「まあ遠山、都築の話も聞いてやろう。もちろんこの緊急事態を分かった上での選択だ。なにか考えがあっての事なんだろう?」
「・・・はい。これは上を通さずの独断になってしまうかもしれないのですが・・」

都築は以前より心に引っかかっていた事を、そしてふと湧いてきた決意を、二人に駆け足で説明した。

「この時間、関東テレビではリミテッドの収録をする隣のスタジオで、情報番組の『ジャパンワイド』が生放送されているんだ」
「ああ、子安マサノリが司会してる番組ですよね」
「そうだ。もしもリミテッドの収録時に大きく現状が変わるような緊急事態になったら、生放送中のスタジオに割って入ってピンキーの正体を明かし、討伐に向けた内容を詳らかにしようと思っている」
「ええ!生放送で!?防衛省主体のプロジェクトである事が日本全体に・・いいえ、今なんてあっという間に世界中に広がりますよ!?」
「そのつもりだ」
「ですけどそんなのって・・」

吉崎が人差し指をくるくると回しながら、ヒートアップする遠山を制した。

「しかし都築、それは省のみならず国を相手取った独断の暴走だと判断されるぞ?」
「そうなるでしょうね。しかし今後連中の波状攻撃が始まるとしたら、衆目を避けての防衛行動は難しくなるでしょう。ピンキーの正体を隠し通すのは至難の業です。であれば先手を打って、こちらから詳らかにした方が今後が格段に動きやすくなります」
「確かにそうだが、国の方針レベルの話なんだぞ」
「先日の会議内容でもわかる様に、上は現場とその現状を汲み取ってはくれないでしょう。あの子達はまだ子供なんです。そして・・・そして私は親御さんからあの子達を預かっている身です。彼らの保身の為にメンバーの動きを制限し、危険に晒すような真似は絶対に出来ません!!」

都築は廊下に響き渡るような怒声をあげてしまったことにハッとし、小さく頭を下げた。ここまで反論していた遠山は勢いを失い、思いを巡らせるように天井を見上げた。吉崎は細い息を静かにつくと、都築の肩に手を置いた。

「その一連の話は、管理担当である俺が先導して解決しなくてはいけない問題だった。現場のお前に投げっぱなしになっていたな、すまなかった」
「いいえ、吉崎さんのバックアップやフォローがあったからここまで保てたんです。これは体制の問題です」
「とりあえず話は分かった。緊急の動きがあれば、俺からすぐに一報を入れる。しかしトラブルにならないよう、関東テレビの報道部にはこちらからそれとなく“飛び込みがあるかもしれない“との連絡は公式に入れておこう。独占スクープは局側でも願ったり叶ったりだろう」
「・・・お手数かけます、すみません」
「まああくまで緊急時の場合だ。それと実際にそうなった場合、その発表方法の発案者はあくまでも俺だ。いいな」
「いえっ、それは違います! あくまでも自分の独断での考えです!」
「いいか都築。ここは組織で、俺はお前の直属の上司だ。それとも俺はそんなに後処理が下手そうか?」
「いいえ、そういう訳ではないのですが・・」
「ほら急げ、収録も業務の一環だ、穴を開けるな」

都築の背中をパシッと叩くと、吉崎は携帯電話をかけながら作戦本部に消えていった。遠山はまだ複雑そうな表情で立ち尽くしており、都築は「すまんが頼んだ」とだけ告げて足早に駆け出した。

外へ出ると、複雑に張り巡らされた規制線と野次馬のざわめき、誘導棒の滲んだ赤い光と、そして報道のヘリの音が一気に都築の感覚に飛び込んできた。過多な情報が寝不足の頭に突き刺さり足元が少しフラついたが、公道へ出て喧騒とは反対方向へ歩き出した。

六つの隆起はそれぞれ特殊素材のテントで覆われ、外部から中を見る事は出来なかった。非破壊のレーザー照射機と放射能検査機の間を、防護服を着た検査員が忙しく行き来している。その中の一つ、東南側の隆起が細かな振動を始めた。小さく不気味なクラックが縦にピッと入り、振動計の針が大きく振れた。

(つづく)

文/平子祐希