天才…それは生まれながらに並外れて優れた才能が備わっている人。2022年10月〜23年3月にかけて放送され、大ヒットしたテレビアニメ「ブルーロック」は、“ブルーロック(青い監獄)”に集められた300人の高校生FW(フォワード)たちが、世界一のストライカーを目指すストーリー。己のサッカー生命を賭けて、ライバルたちを蹴落としてでもゴールを奪い、勝利を手にするデスゲームのような作風は、“史上最もアツく、最もイカれたサッカーアニメ”として幅広い年代から注目を集めている。そして、本シリーズ初の映画化作品となる『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』(公開中)の主人公、凪誠士郎は、まごうことなき“天才”だ。ファンを惹き付ける彼の魅力とは?本稿では、圧倒的なサッカーセンスを持つ凪のキャラクターに迫っていく。

■サッカーにデスゲーム要素を絡めた「ブルーロック」

原作は2018年より「週刊少年マガジン」(講談社)で連載スタートしたサッカー漫画「ブルーロック」(原作:金城宗幸、作画:ノ村優介)。2021年5月に第45回講談社漫画賞の少年部門を受賞し、2023年11月時点で累計部数が3000万部を突破した人気作品だ。日本をW杯優勝に導くストライカーを育成するため、ユース世代のFW300人を対象とした「ブルーロック」と呼ばれるプロジェクトが発足。無名の高校生プレイヤーながら招集された主人公、潔世一が世界一のストライカーになるべく、過酷な試験に臨んでいく、というのが物語の大筋となっている。

しかし、その試験はただ11人対11人で競い合う従来のサッカーをするわけではない。入寮テストでは、ボールをぶつけられた者を“オニ”とし、制限時間終了時点でオニだった1名のみが脱落する「オニごっこ」を実施。続いて、テスト合格者を各棟に振り分け、それぞれで5チームによる総当たりを行い、勝利数上位2チームのみが次のステージへ進めるサバイバルマッチ「総当たりリーグ戦」での激闘も印象的だった。脱落した者は未来永劫日本代表になる権利を失うという、デスゲーム的な要素が従来のスポーツ漫画と一線を画し、これは過去に「神さまの言うとおり」を手掛けた原作の金城宗幸だからこそ描けるテーマだろう。

■超個性派ストライカーが次々と登場

また、平凡な潔の前に立ちはだかるのは、「個性が強い」という言葉では足りないくらいの超個性派のライバルたち。イマジナリーフレンドの“かいぶつ”の声に従いながら発想力豊かにプレーする蜂楽廻、自身を王様(キング)と称し、正確無比なカーブシュートと強靭なフィジカルによる突進力が武器の馬狼照英など、粒ぞろいの選手たちが次々と登場する。潔とピッチで対峙した彼らが、互いに影響を受け合って進化していくなど、毎話新たな一面を垣間見せるため、いい意味で“情報過多”な作品だと感じる。

■ワールドカップとの相乗効果&スマートフォンゲームも大ヒット

そんな本作のテレビアニメが放送されたのが2022年10月。同時期(11月20日から12月18日)にはカタールで「2022 FIFAワールドカップ」が開催され、日本代表が強豪国のドイツ、スペインから大金星を挙げる歴史的偉業を達成。このワールドカップのムーブメントは「ブルーロック」の盛り上がりにも大きな影響をもたらした。

同年12月30日より配信開始したスマートフォン用ゲーム「ブルーロック Project: World Champion」では、ワールドカップで活躍した日本代表の三苫薫をCMに起用したほか、ゲーム内の配布キャラクターとして登場したことも話題に。2023年には舞台化、2023年4月〜24年3月まで約1年かけて全国各地で開催し大盛況となった「ブルーロック展」など、テレビアニメ終了後も作品の人気は衰え知らずだ。

■凪視点で「ブルーロック」の激闘を描く『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』

そして現在、『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』が公開中だ。本作は「別冊少年マガジン」にて連載中のスピンオフ作品「ブルーロック -EPISODE 凪-」(作画:三宮宏太)が原作。テレビアニメ終了時に劇場アニメの制作が発表された。

本作の主人公、凪誠士郎(声:島崎信長)は、「ブルーロック」本編の主人公、潔(声:浦和希)の前に立ちはだかったライバルの一人。「めんどくさい」が口癖でやる気がなさそうな空気を纏い、本編でも彼の面倒くさがり屋な一面がたびたび描かれてきた。一方で、高い身体能力を持ち、その才能に惚れ込んだ同級生、御影玲王(声:内田雄馬)に半ば強引に誘われる形でサッカーを始め、半年でトッププレイヤーに上り詰めた逸材でもある。

そんな凪がどのように自身をサッカーに導いた玲王と出会い、ブルーロックへ参加したのかという経緯に加え、「オニごっこ」や「総当たりリーグ戦」、潔との出会いによって“覚醒”していく様が彼の視点で描かれている。

■サッカー歴半年ながらトッププレイヤーになった凪

果たして、凪とはどのような人物なのか。前述で少しばかり触れたが、彼を表す言葉は大きく2つあると考える。まず1つ目には冒頭から伝えている「天才」、そして2つ目に「面倒くさがり屋」だろう。

テレビアニメでも潔や玲王が口にしていた、「天才」という言葉。サッカー歴半年、サッカーの知識がほとんどないにもかかわらず、並外れた身体能力による桁外れのトラップ力を武器に、「総当たりリーグ戦」における最終戦の潔チームとの対戦まで、一度も敗北を経験したことがなかった。凪の天才的な一面はサッカーだけにとどまらず、授業中はずっと寝ているのに試験では学年2位をとってしまうという生来の地頭のよさもミニアニメ「ブルーロック あでぃしょなる・たいむ!」で描かれている。勝利を勝ち取るために努力と思考を積み重ねてきた平凡な潔とは、まさに“真逆”の主人公なのだ。

ところが、凪の本来の性格は「面倒くさがり屋」。これに関しては本編を観たり、キャラクターブック「EGOIST BIBLE」を読んだりしてもらえれば一目瞭然なのだが…。キャラクターブックには座右の銘の項目に「めんどくさい(座右の銘を考えるのが)」、自分が思う自分の短所に「めんどくさがり」、きのこ派orたけのこ派に「めんどくさい(どっちでもいいし、どっちもおいしい)」と「めんどくさい」のオンパレード。そんな彼の面倒くさがりを支える(甘やかす)のが玲王だ。歩くのも面倒くさがる凪をおんぶして運ぶ“玲王リムジン”は作中たびたび描かれてきた。

■側で支え続けてくれた玲王との間に亀裂が…

また、天才だからなのか、面倒くさがり屋だからなのか…。表面的に思い浮かんだ言葉しか相手に伝えない言葉足らずな側面がある。二次選考で行われた「奪敵決戦(ライバルリー・バトル)」では3人一組のチームを組むことになり、なんと凪は、玲王ではなく潔とチームを組むことを選択する。自身を負かした潔への強い興味ゆえの行動だが、側で支え続けてくれた玲王との間には亀裂が生まれてしまう。今回の劇場版では、凪が玲王に対してなにを考えていたのかも描かれているのだが、彼らより幾ばくか年齢的に大人な筆者は「その言葉、玲王に伝えてあげたら、亀裂が生まれなかっただろうに…」と野暮なことを思ってしまうのであった。

■ふわふわなビジュアルなのに身長190cmというギャップ!

さて、ここまで凪誠士郎がどんな人物なのかを書いてきたが、筆者がなによりも魅力的に感じるのは凪の“ギャップ”にある。まず見た目のギャップだ。ふわふわのくせ毛に黒目がちで大きな目と、首から上はポメラニアンのようなかわいらしさがあるのに、なんと身長は190cm。「ブルーロック」に登場するキャラクターのなかでも上位に入るほどの高身長キャラなのだ。

■面倒くさくても、実は「約束を守る男」

そして、内面的なギャップもある。散々「面倒くさがり屋」と説明してきたが、面倒くさがり屋なのに「約束を守る男」というのはズルい。玲王と交わした約束をずっと覚えており、その約束のために選択、行動している。自分で目標を立てるのが面倒くさいから、という点もあるかもしれない。しかし、約束を守り続けること、覚え続けることはそう簡単なことではない。むしろ、約束を守ることに面倒くささを感じることだってあるだろう。

このように、言葉少なな凪が、その時々でなにを考え、行動していたのかも、『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』で見届けてほしいところ。また、凪だけでなく玲王の心境も細やかに描かれており、2人の関係性に様々な想いを馳せてしまうこと間違いない。おそらく本シリーズでトップの人気を誇るであろう凪と玲王だが、今作でよりいっそうの人気が出ると予想せざるを得ない。

「天才ってなに考えているかわからない…」。テレビアニメでの凪を見て、そんなことを思っていた人は、ぜひ本作で彼が覚醒していく様子と共に、天才の思考と感情に触れてほしいと思う。

文/阿部裕華

※島崎信長の「崎」は「たつさき」が正式表記