リバウンドとは、ミスをチャンスに変え、失敗を成功へ導くこと。現在公開中の『リバウンド』は、王道スポ根ものながら、世界を虜にする韓国エンターテインメントの底力を感じられる作品だ。監督・脚本を手掛けたチャン・ハンジュン監督(『記憶の夜』(17))、選手役のチョン・ジヌン(2AM)に話を聞いた。

■「“負け犬の物語”が今だからこそ響くテーマになる」(チャン・ハンジュン監督)
釜山の弱小高校バスケットボール部を任された未経験新任コーチが、その破天荒なリーダーシップでチームをまとめあげ、強豪校を次々と打破していく…という、どこのスポ根漫画ですか?というような物語。だが、これは2012年に実際に釜山であった実話で、チャン・ハンジュン監督は、実際のコーチから全国大会を終えて釜山に戻る際に、すでに話を聞いていたそうだ。「今作のプロデューサーがコーチと話をして、すぐに私に電話がかかってきました。それから5年後、完成した脚本が私の元に届いたのです」。ところが、撮影に向けて選手役のオーディションを行なっていると、出資会社の経営状況により製作が中断してしまう。「それから2年が経ち、ようやく製作が再始動しました。つまり、この映画の出で立ちがすでに“リバウンド”だったのです。という意味で、私もこの物語と同じ経験をしたと言えますね(笑)」と、チャン・ハンジュン監督は自嘲する。

数多くあるスポーツを題材にした映画の中で、今作の特異なる点はなにか?と考えたとき、チャン・ハンジュン監督は、“負け犬の物語”が今だからこそ響くテーマになるのではないかと考えたそうだ。「今の世の中、誰もがチャンスを与えられるわけではありません。だからこそ、絶対に諦めない精神、どんな小さな可能性も見逃さないような粘り強さが人々を勇気づけ、映画を観た人たちに希望を与えられたらと思ったのです」と語る。

■「『リバウンド』での経験は、勇気という大きな贈り物をくれました」(チョン・ジヌン)
名選手だったが、怪我でバスケットボールを諦めたペ・ギュヒョク選手を演じたチョン・ジヌンは、「新しいことに飛び込める力」こそがリバウンドなのではないかと言う。バスケットボールの経験があり、今作にも真っ先にキャスティングされていた彼は、「脚本を読んで、重要な役を演じるプレッシャーや恐怖を感じずに、直感で『やりたい』と思った役でした。そして、恐怖心を克服し再びバスケットボールコートに立ったペ・ギュヒョク選手を演じたことで、失敗を恐れずに、常に自分自身と向き合って人生を選択していけるようになったと思います。『リバウンド』での経験は、勇気という大きな贈り物をくれました」と思い返す。

チョン・ジヌン、イ・シニョンを含む選手役6人は、撮影の3ヶ月前からバスケットボールの猛特訓を開始した。バスケットボール経験のある俳優たちが練習プログラムを作り、チームメイト役を演じる俳優たちの結束が固くなっていったという。チャン・ハンジュン監督は、「役者間のケミストリーが生まれているのを感じ、時にカットをかけるのをためらうこともありました。それくらい、みんなが輝き始めていたんです」と語る。さらに、実際の釜山中央高校バスケットボール部のメンバーも映画にカメオ出演しているのだそうだ。実在する人物を演じるために監督が最も重視したのは、同じ身長・体型の役者を揃えること。そして記録映像などから、各選手の仕草や動きを完璧にコピーしたそうだ。そのおかげで、撮影終了後に実在の元選手・コーチと会った際には、本人たちとかなり似ている状態だったという。コーチのカン・ヤンヒョンを演じたアン・ジェホンは、本人に似せるために体重を10kg以上増量して撮影に臨んだ。アン・ジェホンは、「体重をコントロールするなんてたやすいことですよ」と言い、撮影が終わるとすぐに体重を落とすことができたそうだ。「それが怪優アン・ジェホンの秘密兵器なのです(笑)!」と、チャン・ハンジュン監督は笑う。

ちなみにチャン・ハンジュン監督と、ドラマシリーズ[キングダム」(Netflix)などの人気脚本家キム・ウニは夫妻。『リバウンド』の脚本にもキム・ウニが参加している。「彼女の作風とはまったく異なるので驚かれたかもしれません。私の元に脚本が届いたときに妻が読み、『この企画はやったほうがいい。そして、脚本に少し手を入れてみたい』と言いました。彼女が描く脚本は、とても強いイメージを観客や視聴者に与える、独特な筆致があります。『リバウンド』の後半、ドラマが動き出す部分でその威力が発揮されています」。

実話を基にした力強い脚本と、テーマを明確に浮き彫りにする演出。役に近づくために努力を惜しまない俳優たちと、体型を自在にコントロールできる怪優の存在。『リバウンド』には、韓国エンターテイメントが世界に示してきた粘り強さが現れている。笑いと涙が同時に訪れ、観賞後には元気や活力が漲るような今作を、ぜひ劇場で楽しんでほしい。

取材・文/平井伊都子