2000年に設立され、2006年ごろから本格的に自社での映画製作をスタートさせた「ブラムハウス・プロダクションズ」。それから20年と経たないあいだに手掛けた作品は、映画とドラマシリーズをあわて150本以上。そのなかでも、創設者であるプロデューサーのジェイソン・ブラムが“恐怖の工場長”とも称されるように、ブラムハウスの看板はやはりホラー/スリラー映画だ。
スタジオの名を世に知らしめた『パラノーマル・アクティビティ』(07)から最新作『ナイト・スイム』(6月7日公開)に至るまで、ブラムハウスの手掛けた“怖い映画”は日本に紹介されているだけで100本以上にのぼる。本稿から全3回のコラムでは、ブラムハウスの“怖い映画”を可能な限りピックアップし、世界中の映画ファンを魅了する、ブラムハウスのクリエイティブの秘密に迫っていく。第1回はブラムハウスを唯一無二のスタジオに押しあげた、野心的なオリジナルホラー映画群にフォーカス!
■クリエイターに“創造の自由”を!ブラムハウスの要となるスタンス
多くの映画監督たちの頭のなかには、次に撮りたい映画のアイデアが常にあふれているものだが、それをそのまま作品として具現化できる監督は本当にひと握り。プロデューサーや出資を行なうスタジオの方針によって監督の持ち合わせているクリエイティビティが無碍にされてしまうという話も映画界では珍しいことではない。
しかしブラムは「監督こそがブラムハウスの生命線」と、常々メディアのインタビューに対しても語っており、監督たちのクリエイティビティをとことん尊重し、彼らに創作の自由を与えることを最重要視してきた。このブラムハウス流の製作モデルによって、低迷期に陥っていた監督が復活を遂げた例も。その代表格といえるのが、M.ナイト・シャマランとスコット・デリクソンの2人だろう。
『シックス・センス』(99)で一躍時の人となったシャマランは、その後も敬愛するアルフレッド・ヒッチコックにオマージュを捧げるようなスリラー映画を次々と発表するものの、『シックス・センス』以上の評価も興行的成功も得られずにいた。
2010年代に入ると、『エアベンダー』(10)や『アフター・アース』(13)などのSF大作にも手を拡げるが大失敗し、開発を進めていた新作も頓挫。そんななかでスリラー映画に回帰しようと試みたシャマランが資材を投げうち、ほぼ自主制作で作りはじめた『ヴィジット』(15)は、製作途中からブラムがプロデュースを手掛け、結果的に世界興収100億円を超える大成功を収めることになった。それから先の復活ぶりは、映画ファンならご存じのことだろう。
同様に、2000年代に『エミリー・ローズ』(05)で注目を集めたデリクソンは、抜擢されたSF大作『地球が静止する日』(08)で興行的にまずまずの結果を収めながらも評価が伸び悩んでいた。しかし、ブラムハウスと組み、低予算だからできる恐怖のアイデアを巧みに織り交ぜた傑作『フッテージ』(12)で復活の狼煙をあげると、マーベル・シネマティック・ユニバースの『ドクター・ストレンジ』(16)の監督に就任して、同作を大ヒットへと導いた。近年では、再びブラムとイーサン・ホークという『フッテージ』のコンビと組んで、『ブラック・フォン』(22)で興行、批評の両面で成功を収めた。
■新たな才能を次々と発掘!あのシリーズのスタッフも監督デビュー
もちろんブラムハウスは、いままでスポットが当たらなかった才能を成長させることにも長けている。そのなかでも特に大きな飛躍を遂げたのは、やはり『ゲット・アウト』(17)と『アス』(19)でホラー映画界に新風を巻き起こしたジョーダン・ピールだろう。
元々は俳優としてコメディ映画を中心に活動していたピールが何年もかけて温めていた企画で監督デビューを飾った『ゲット・アウト』は、“恐怖と笑いは紙一重”という言葉を体現するかのようにホラーとコメディの両面を携え、さらに人種差別という根深い社会問題にも斬り込むオリジナリティあふれる作品。
北米でサプライズ級のヒットを記録しただけでなく、ホラージャンルとしては異例のアカデミー賞作品賞ノミネート。しかもピール自身は同脚本賞を受賞することになり、ブラムハウスへの注目度をさらに上げるきっかけとなった。
ほかにも自身の短編をブラムハウスのもとで長編リメイクした『オキュラス/怨霊鏡』(13)をきっかけに大作を手掛けるまでに成長したマイク・フラナガン。2000年代に一世を風靡した「ソウ」シリーズの脚本家だったリー・ワネルは『インシディアス 序章』(15)で監督デビューを果たし、『透明人間』(20)で大成功。同じく「ソウ」シリーズで編集マンを務めていたケヴィン・グルタートも『ジェサベル』(14)と『ヴィジョン/暗闇の来訪者』(15)で監督としての才能を発揮している。
■斬新な企画と発想で、ホラーの新時代を切り拓く!
あらゆるホラー表現のかたちがあるなかで、監督たちの持つアイデアを活かしても、時にパターン化してしまうのがホラー映画の難しいところでもある。いかに観客に恐怖を与え、それでいて斬新な切り口を伴ってエンタテインメントへと昇華させる。ブラムは監督の創作領域にいたずらに介入しない代わりに、その両面を持ち合わせた作り手を見極めているのだろう。
特にここ数年、ブラムハウスのオリジナル・ホラーはこれまで以上にエンタメ色が豊かになっている。殺人鬼と女子高生が入れ替わってしまうコメディ要素が程よく恐怖描写とマッチした『ザ・スイッチ』(20)であったり、AI人形の暴走を描く『M3GAN/ミーガン』(22)は、そのなかでも興行的にも批評的にも成功を収めた作品。また、イギリスの若き俊英ロブ・サヴェッジが手掛けた『DASHCAM ダッシュカム』(21)はライブ配信スタイルの画面で、新たなPOVホラーのスタイルを切り拓いた。
ほかにも1980年代にカルト的人気を博した同名作品を現代に置き換えてリメイクした『炎の少女チャーリー』(22)や、世界的人気ホラーゲームのダークでポップな世界観をそのまま卓越したストーリーテリングに落とし込んだ『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(23)などなど。王道のホラー映画でありながら、ホラーがちょっぴり苦手な人でも楽しめるような娯楽作を次々と送りだすブラムハウス。忘れてはいけないのは、いずれもほかのスタジオのエンタメ映画とは比較にならないほど低予算で作られた作品であるということだ。
続く第2回では、“低予算&ハイクオリティ”というブラムハウスの代名詞ともいえるキーワードを深掘りしながら、シリーズ化されるほどの人気を集めた作品たちを紹介していきたい。
文/久保田 和馬
ブラムハウス大解剖!クリエイター至上主義が可能にした、野心的ホラーたち
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