日常的に医療的なケアが必要な子どもたち、「医療的ケア児」の防災について考えます。
今週、宮崎県延岡市で医療的ケア児の避難訓練が行われたのですが、そこからさまざまな課題が見えてきました。

子はお母さんが抱っこ 薬などのバッグや吸入器などは2人の看護師が

松下凛夢(りむ)ちゃん(4歳)。
生まれつき脳性まひやてんかんがあり、水分や栄養はお腹に通したチューブで摂取するほか、定期的な痰の吸引が欠かせません。

母親の松下香代さんは訪問看護を利用しながら、日々、凛夢ちゃんのケアを行っています。

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今月11日、凛夢ちゃんの住む延岡市で、南海トラフ巨大地震を想定した初めての避難訓練が行われました。

看護師が家にいる時に震度6強の地震があり、大津波警報が発表されたとの想定です。

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(看護師)「安全を確認してください」

凛夢ちゃんはお母さんが抱っこ。
薬や栄養剤などを詰めたキャリーバッグや吸引機・吸入器などは、2人の看護師が手分けして運びます。

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一次避難 キャリーバッグが重すぎて… 電源確保のため二次避難

まずは、近くの市営住宅の3階へ一次避難します。
キャリーバッグが重すぎて、2階までしか上がれませんでした。

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さらに、避難は続きます。

(看護師)
「電源確保のため、市役所に避難しましょう」

医療機器の電源を確保するため、二次避難場所の延岡市役所へ車で向かいます。

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(看護師:車内から連絡)
「避難状況は、今、市役所に向かっています」

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無事、市役所の2階に到着しました。
訓練を終え、松下さんは・・・

(松下香代さん)
「あの荷物を考えると希望よりも不安が、だって、私1人ですし」

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医療機器のほか、およそ1週間分の薬や栄養剤、それに着替えなど、バッグの重さは10キロを超え、荷物の絞り込みが必要なことが分かりました。

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(松下香代さん)
「『逃げなきゃなって、命が大事だなって、諦めちゃいかんなって、何とかなるよ』って思うし、ほかの医療的ケア児のお母さんにも同じことが言いたい」

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(訪問看護ステーション陽のひかり 日野亮司代表)
「きょう、車で移動しましたけど、車に乗れるのか、車が使えるのか。ただ、こういった訓練をすることによって、一つの方向性、あるいは一つの手段、こういったところは、今回の訓練で気づくことができたなと思います」

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訓練に参加したことで 地域の人たちもその大変さに気づいた

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こうした訓練にいち早く取り組んでいるのが、障害児の親でつくる日向市の「teとteの会」です。

(teとteの会 甲斐麻央さん)
「『津波が来たら、娘と一緒に流されます』と言ったお母さんの言葉がずっと胸の中に残っていて、『そういう選択しかできない地域だったらおかしいよね』、そして『仲間だったらおかしいよね』と思ったのが、絶対(訓練を)やるぞって思ったきっかけだった」

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甲斐麻央さんの長女、愛梨さんは、吸引が欠かせず、車いすを利用。

金丸香織さんの長女、詩乃音さんは、呼吸器や24時間の吸引などが必要です。

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同じ地区に住む甲斐さんと金丸さんは、地域の防災訓練に親子で参加することから始めたといいます。

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(金丸香織さん)
「(訓練に参加して)『これは無理だ、やっぱり参加してみて無理、私たちだけじゃ命助けられない』という実体験がつなげたかなと思います」

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訓練に参加したことで、地域の人たちもその大変さに気づいたと言います。

その後、数年かけて準備を重ね、今年3月、地域を巻き込んで避難訓練を実施しました。

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家を出るまでに必要なことや持ち出す荷物など、地域の人たちに説明しながら、福祉車両や車いすでそれぞれ避難しました。

(甲斐麻央さん)
「この実践訓練を今後どう生かしていくのかということで、『個別支援計画』というのも必要になってきますし、それを作るだけでなく、自治体であったり、地域の方、みんなで周知することがどれだけ必要なのかということがすごく見えてきた」

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「個別避難計画」の策定はまだまだ進んでいない

このように自ら避難が難しい人を対象に、「いつ、どこに、だれとどうやって避難するか」を事前に決める計画が「個別避難計画」です。

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しかし、県内では、こうした個別避難計画の策定はまだまだ進んでいないのが現状です。

(宮崎県危機管理統括監 児玉憲明さん)
「全部策定済みが3町村、一部策定済みが16市町村、未策定が7町であります」

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災害が発生した際、医療的ケア児を守るために重要になってくる「避難訓練」と「個別避難計画」。

積極的に取り組みを進めている自治体もあります。

(佐賀県武雄市こども家庭課 福田亜紀子さん)
「令和元年8月の佐賀豪雨で1人の医療的ケア児さんが被災されまして、命の危機にさらされたということが、すごく行政の方では責任というか、反省がありましてそこから進んでいった」

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佐賀県武雄市では、2019年の豪雨で医療的ケア児が被災したことをきっかけに、翌年から毎年、電源が必要な医療的ケア児のための避難訓練を行っています。

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(佐賀県武雄市こども家庭課 福田亜紀子さん)
「お母さん方も1回だけでは忘れるし、行政や支援者の方も数年ごとに異動がありますので。改善点も出てくるので、毎年行って、環境の変化や改善に進めていくことが大事かなと思っている」

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医療的ケア児を災害からどう守るのか。
いつ来るか分からない災害に備えていち早い対策が求められます。


(スタジオ)
県内の医療的ケア児は今年3月現在で224人いるとされていますが、市町村によってはその数を把握していないところもあるというのが現状のようです。

医療的ケア児に加えて高齢者や障害者など、災害時に支援を必要とする人をどう守っていくのか日ごろからの備えが大切です。

※MRTテレビ「Check!」6月14日(金)放送分から