フーディソンが手掛ける鮮魚を中心とする飲食店向けのBtoB-EC「魚ポチ」は、2014年のサービス開始から10年目を迎えた。この10年間で事業は大きく成長し、2024年3月期には魚ポチ事業のBtoBコマースの売上高が前期比25.2%増の49億7900万円に達した。同社の成長の鍵は、ITを駆使したECとSC(サプライチェーン)におけるテクノロジーの追求にある。産地と消費地の情報をつなげてデータ化し、生鮮流通の効率化を図る。同社の成長性には多くの注目が集まっている。魚ポチ事業部長 日下部俊典氏に成長の経緯や今後の展望を聞いた。


<自社化で価値提供>

――事業を進める中で、どのような苦労があったか?

軌道に乗るまでに、大きく2つの課題に直面した。
 
1つは、水産品情報のデジタル化が難しかった点。2つ目は、情報のデジタル化だけでは顧客の期待に応えられなかった点だ。

水産品は毎日、水揚げされるため同一の商品がなく、価格も常に変動する。エクセルで日々、数千種類以上の商品を人の力で正確に扱うことは難しいため、欲しい食材をすぐに見つけられるECの仕組みや顧客管理システムを作ることに時間を要した。

サービス開始当初の魚ポチは、市場内外の流通事業者に商品選定から配送までを全て委託していた。しかし、品質やコスト、納期のコントロールが非常に難しかった。
 
情報のデジタル化さえできれば水産流通の非効率を解消できると考えていたが、実際は、魚ポチに掲載してある商品とは異なる在庫品が出荷されたり、欠品やピッキングミスの多発など水産流通の不確実性をコントロールすることができず、クレームが出てしまう状態だった。
 
結果、社内に調達・物流部門を設立して産地からラストワンマイルまで自社でコントロールすることにした。これらによって、顧客に価値を提供できることに気付いた。

――IT化による成果が出始めているか?

すでに、売れる商品や売上の需要予測ができるようになっている。
 
また、配送遅延やピッキングミスは全体の出荷件数の0.1%未満に抑えられている。


<仕入れ時間が休憩時間に>

――魚ポチの展開による顧客の反応はどうか?

飲食店側から見れば、仕入れ時間の削減が大きな利点だ。流通事業者の人材不足や賃上げが進む中で、生産性や時間効率が重要視されている。
 
「仕入れ時間が休憩時間になった」という声もあり、市場以上の購入体験をオンラインで提供することを目指していく。
 
利便性だけでなく、豊洲市場では手に入らない独自性のある食材や自社加工した食材など豊富な商品ラインアップも顧客に喜ばれている。


<顧客の期待を調整>
――鮮魚は直接見ないと分からないことも多い。見せ方も重要だと思うが。

商品の情報を分かりやすくすることを心がけている。魚の締め方など細かい情報も掲載するようにしている。
 
一般的なECは、綺麗な商品写真を掲載することが鉄則。しかし、魚ポチではなるべくありのままの写真、水揚げ時の現物を無加工で掲載している。
 
写真の見栄えが良いからといって実際の届く生鮮品の品質が良いとは限らないためだ。写真だけでなく、当社から商品の良し悪しをテキストで伝えてどのようなニーズに向いているかなど、コメントも日々更新している。
 
綺麗で良いものを届けたいという思いはあるが、顧客の期待を調整することも非常に重要だと考えている。
 
当社は創業12期目に入った。これからは培ってきたデータを活用して付加価値と生産性を上げる取り組みを強化していく。