中国激増、韓・台などアジア勢躍進 日本は足踏み

6月16―20日、半導体の3大国際会議の一つである、半導体技術と回路に関する国際会議「VLSI(超大規模集積回路)シンポジウム」が米ハワイで開かれる。生成人工知能(AI)ブームなどを背景に半導体の需要が急増する中、2024年の投稿論文数は23年比約42%増の897件と大幅に伸長。記録の残る1990年以降、過去最多の投稿論文数となった。中国からの投稿が激増したことに加え、韓国や台湾などアジア勢の躍進が際立つ。(藤木信穂)

※自社作成

VLSIシンポジウムは大規模集積回路(LSI)に関する最先端の成果が報告される国際会議で、京都とハワイで毎年交互に開かれる。同シンポジウム委員会の黒田忠広委員長(東京大学特別教授)は「日本が主導するこの分野で最高峰の国際会議。各国で再び半導体の投資が始まっており、学会は今後も大きな役割を果たしていく」と語る。

“半導体のオリンピック”と呼ばれ、米国で開かれる国際固体素子回路会議(ISSCC)は回路技術、同じく米国で開かれる国際電子デバイス会議(IEDM)はデバイス技術を中心に扱う。これに対し、VLSIシンポジウムはデバイス技術と回路技術の2部門で構成し、両面から議論するのが特徴だ。

技術部門の投稿論文数355件のうち、採択された論文数は94件。採択率は26%と過去10年でも異例の低さで、極めて質の高い論文だけがくぐり抜けられる激しい競争となった。23年に米国を追い抜いた韓国が採択数24件(23年は20件)とさらに飛躍しトップを維持。米国は22件、欧州全体が14件、台湾が10件だった。日本は投稿数20件のうち、採択数は9件(同10件)にとどまり近年は横ばいの傾向が続く。

一方、回路部門の投稿数は542件、採択数は138件で採択率は25%。技術部門と同様に「狭き門」だった。23年比1・8倍超の投稿件数だった中国を筆頭に、韓国や台湾が投稿数を伸ばした。採択数は米国とカナダが32件、韓国30件に続き、中国が26件(同10件)となり一気に上位へ躍り出た格好だ。日本は投稿数22件で採択数は7件(同16件)。日本開催でない点を考慮しても落ち込みが目立つ。

機関別採択数では、技術部門で韓国サムスン電子が15件、回路部門は韓国科学技術院(KAIST)が13件でそれぞれ最多だった。メモリーは3次元DRAM、デバイスはインジウム、ガリウム、亜鉛、酸素で構成された酸化物半導体(IGZO)関連の発表が多く、「技術、回路ともにAI向け半導体の論文が全体をけん引した」(プログラム委員)。中国の大学からの投稿数の増加が全体を押し上げ、全投稿における産業界の割合は10―20%台だった。

日本からは、ソニーが酸化ハフニウムと酸化ジルコニウムの混晶(HZO)系材料を使った不揮発性SRAMとFeRAMを搭載した新型チップを発表。キヤノンは100万画素の3次元積層型SPAD(シングル・フォトン・アバランチ・ダイオード)イメージセンサー、東京工業大学は毎秒640ギガビット(ギガは10億)速度の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)無線機を発表する予定だ。

24年のシンポジウムの全体テーマは「デジタルとフィジカルの世界を効率とインテリジェンスで橋渡し」。仮想空間と物理空間を融合し、AIを使ってデータ採取や分析を行い高度なサービスを生み出す“デジタルツイン”の世界が実現しつつあり、それに欠かせない半導体の新技術に世界が注目している。