日立造船のスイス子会社の日立造船イノバ(HZI)は、欧州でバイオガスプラントの建設から事業運営までを行う開発事業を本格化している。従来のプラント建設やアフターメンテナンスにとどまらず、自らがデベロッパーとしてガスを製造・供給する。すでにスウェーデンで始めているほか、2025年にはイタリアでも開始する。欧州はロシアからの天然ガス供給依存を脱却するため、燃料確保の重要性が高まっており、商機を広げる狙いだ。(大阪・池知恵)

欧州の主なバイオガスプラント導入促進に向けた制度

バイオガスプラントは、家畜の糞尿や農業残渣などを発酵させて発生したバイオガスを回収・精製しエネルギー化する施設。バイオガスは約6割のメタンと約4割の二酸化炭素(CO2)からなり、精製して純度を高めたバイオメタンを都市ガスの一部として利用できるほか、公共交通機関の燃料としての活用も期待されている。

欧州はロシア産化石燃料からの脱却を図る「リパワーEU」政策の一つに、バイオメタンの生産量を現在の30億立方メートルから350億立方メートルへの拡大を掲げる。フランス、イタリア、英国などの各国で、バイオメタンを供給するガス事業者に対してインセンティブを新設するなど、ガスの非化石エネルギー化を後押しする。

HZIは14年にスイスのアクスポグループの乾式メタン発酵事業、21年に湿式メタン発酵技術を持つドイツ企業2社を買収するなど、欧州を中心に設計・調達・建設(EPC)や運営・メンテナンス(O&M)事業を拡大してきた。

それらの知見を生かし、自らも事業開発に参入。21年からスウェーデンで、周辺地域から回収した生ゴミなどを活用し、精製したバイオメタンを圧縮してバスやゴミ収集車の燃料向けに供給を始めた。さらに25年にはイタリアで、家畜糞尿などから作ったバイオメタンを都市ガスのパイプラインを通じて供給する事業を始める。

事業開発には1件当たり平均で20億−30億円の投資を伴う。1社だけでなく出資者を募るなど複数社で事業スキームを組むことも想定。日立造船は25年度までの3カ年でバイオガスプラント関連の事業開発に約400億円を投じる計画だ。

バイオガスプラントの市場ニーズが強い中で、「今後、事業をさらに拡大するための体制を整える必要がある」(桑原道社長)ことが課題。そこで事業計画や資金調達などを統括する組織を23年7月に新設した。今後も事業開発やアフターメンテナンスを担うエンジニアの人材補強に向けたさらなるM&A(合併・買収)も検討する。

30年度までの長期ビジョンで掲げる資源循環事業の売上高目標1600億円のうち、バイオガスを含む事業開発が「相当程度のシェアになり、利益率でも貢献する」(同)としている。