自動車業界はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向けた電動化対応など変革期の真っただ中にある。特定の顧客への依存度が高い中堅・中小自動車部品メーカーは、既存事業の縮小や業界構造の変化を想定し、新事業を模索している。自社の技術やノウハウを生かし、異業種への参入や自社製品の開発に取り組む各社の動きを追った。(名古屋・増田晴香)

ミヤゼットデザイン障子開発

ミヤゼット(愛知県東海市、宮本了輔社長)は、畳店と連携し、和モダンな部屋にもマッチするデザイン性の高い障子を開発した。襖(ふすま)障子や内窓障子のブランド「悠宮建具」を立ち上げ、一般消費者向けにオーダーメードでの販売を開始した。

同社はハイブリッド車(HV)をはじめとする電動車のモーター製造に使う治具の試作などを手がける。長年、精度が求められる金属加工に取り組んできた。障子事業で扱うのは木材だが、高精度の加工技術を転用し製作した。

デザイン性の高い和紙をアクリルで挟んだ部材を、木の枠に組み込む。従来の障子の課題だった断熱性や安全性、メンテナンス性を高めた。建具業界は人手不足により、新しいデザインの部屋に合うような製品を生み出す余力に限界がある。和モダンの部屋や洋間にも使いたいという顧客の声に応え、業界を盛り上げる。

同社は自社製品を販売したいという思いもあり、障子事業に参入した。このほか、海の浄化を目的としたバブルジェネレーター(気泡発生装置)を自社開発した経験を生かし、薬品を使わずに微細な泡で魚の雑菌を除去する装置も開発した。これらの新規事業の売上高比率を全体の1割程度まで高める方針だ。

三五配管、継ぎ手と一体化

自動車の排気系部品を手がける三五(名古屋市熱田区、恒川敬史社長)は、建設業界向け次世代配管システムの事業化に乗り出した。建材を加工・販売するノーラエンジニアリング(東京都千代田区)と7月に共同出資会社を設立し、10月に操業を始める。

三五グループの三福(福岡県豊前市)内に共同出資会社の本社を構え、次世代配管システム「FP35」の製造、販売、アフターサービスを展開する。

FP35は建設業界で主流ではなかったフェライト系ステンレス鋼を採用。自動車業界で培った加工技術で管と継ぎ手を一体化し、工場で事前に加工した配管同士を施工現場で接続する。

配管接続の簡素化と薄肉・軽量化により作業者の負担を大幅に減らすほか、二酸化炭素(CO2)の排出削減につなげる。建設業界で主流だった炭素鋼管と比べて耐用年数も向上する。三五はマニホールドやマフラーなどの排気系部品を主力としてきた。自動車の電動化に伴う既存部品の減少を新事業で補う。

横山興業カクテル用品を展開

シートフレーム部品を主力とする横山興業(愛知県豊田市、横山栄介社長)は、金型のメンテナンスで使用する研磨技術を応用したカクテル用品のブランド「BIRDY(バーディー)」事業を拡大している。多角化を狙い、10年前に同事業に参入した。

同事業で販売するカクテルシェーカーは、熟練の職人が手がけるマイクロ研磨によってきめ細やかな泡が生まれ、まろやかな口当たりを実現する。商品力が評価され、国内外のバーで愛用されている。

横山興業のカクテル用品ブランド「BIRDY(バーディー)」では、金型のメンテナンスで培った研磨技術を応用している(イメージ)

バーディーでは当初のシェーカーだけでなく、キッチンタオルやグラスタオルなど商品ラインアップを増やしている。製品開発の過程で飲食店に困りごとを聞く中、吸水性の高いタオルが求められていると分かり、未経験の素材だったが挑戦した。現在は一般向けにも販売している。

一方、得意とする超高張力鋼板(超ハイテン)の加工技術などを用いて、自動車の電動化に伴い需要が高まっているシートの軽量化ニーズにも対応。「下請けの仕事も、新事業も伸ばす」(横山社長)と経営基盤の強化を図る。

前田鉄工・七宝金型など 新事業創出、愛知県の支援策活用で成果

愛知県は自動車サプライヤーの新事業創出を支援するプログラム「愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION」を実施している。2023年度は8社が参画した。専門家のハンズオン(伴走型)支援により、課題の明確化や自社の強み分析、参入を想定する市場や製品の検討を行った。定期的な面談なども通じて事業の“解像度”を高めた。24年3月に開いた成果発表会では、各社が検討してきた事業計画の途中経過を報告した。

前田鉄工所は歯車やシャフト製造の知見を生かして異業種参入を目指す(同社工場)

プログラムに参加した前田鉄工所(名古屋市中川区、前田基樹社長)は、現在主力とする自動車のトランスミッション(変速機)部品やエンジン部品の縮小を懸念し、新規事業を計画する。歯車やシャフト製造の知見を生かした異業種への参入と、自動車向けの新たな部品獲得の二つの軸を検討。前田社長は「周辺技術を持つ企業や新たな領域の知見がある企業などとパートナーを組むことを検討する」と話す。

七宝金型工業(愛知県津島市、松岡寛高社長)は、15年に導入した金属3Dプリンターを有効活用し、大型の加工対象物(ワーク)を加工機などに水平に設置する「水平出し」の工数を削減できる治具を開発した。自社の工場で使用したところ「段取り工数を約9割削減できた」(野場純一研究開発課課長)。今後はマーケティング活動を進めながら、同業の金型メーカーや大型のワークを扱う企業に販売する。

高精度な転造加工でネジを製作する名友産商(同小牧市、南竜市社長)は、ガス器具の部品を得意とするアール・ティ・エンジニアリング(同豊田市)と共同で、熱エネルギーの課題を解決する製品を検討。24年中にも試作の開始を目指す。

愛知県は同プログラムを24年度も実施する予定。県の担当者は「最近カーボンニュートラルが一層注目されており、電動化で影響を受ける企業も多い。永続的に存続するため新規事業は必須」と狙いを語る。