裏カジノオーナー、生活保護受給者etc…。ヤクザをやめた中高年の現在地とは?’22年末時点での全暴力団勢力約2万2400人中、50代以上が54.9%。福岡県では指定暴力団の組長や組幹部が、’22年までの5年間で47%離脱。高齢化が進む中、元ヤクザ中高年の境遇を追う。
◆地元の“元不良人脈”に支えられ社会復帰を果たす

 元ヤクザ中高年が、必ずしも不遇な暮らしを強いられているわけではない。

 現在千葉県船橋市でバー「ハッチ&セーラーズ」を経営する羽月カズヒロ氏(50歳)は、20歳で稲川会系組員となり、35歳で訳あって破門に。

「嫌になってやめたわけじゃない。俺は“元反社”、“元不良”だからこそ、カタギになっても生き抜いてこられた」

 その理由は、「幸いなことに、地元の船橋の人脈という大きな砦があったから」だという。

◆「根無し草の元ヤクザなら食っていけてないと思う」

 羽月氏は10代の頃、全国的にも有名な暴走族「習志野スペクター」の21代目総会長を務め、メディアにも取り上げられるなど、地元ではカリスマ的存在だった。その頃から培ってきた暴走族人脈、そして地元を離れなかったことが、ヤクザをやめても「食っていけた」理由だと語る。

「暴走族時代の先輩や後輩の多くは、土建屋とか建設会社を立ち上げて活躍していて、ヤクザをやめた瞬間に『うちで働けよ』と声がかかった。だから食いっぱぐれたことは一度もないんです」

 羽月氏は主に建設現場で経験を積み、後に羽月組として独立。今度は自分が地元の元ヤクザや元受刑者を雇った。

「その後、逮捕されて会社は解散してしまったけど、出所後は仲間のサポートもあり、今の店を出せた。もし東京とかで生きていこうとしたら、絶対に無理でしたね」

 人脈と信用、コミュニケーション能力があれば、銀行口座がなくても、仕事や住む場所に困ることはない。元ヤクザの受け皿が「地元」にあることを示す例といえるだろう。

◆「忘れられる権利」の拡充が真の暴排に繫がる

“元ヤクザ弁護士”諸橋仁智氏は、「最近のニュースなどを見ると、やり直しの利く若い人が抜け、カタギになるのが困難な50代以上が組織に残っている現状が窺えます」と話す。そして、自身の経験から、元ヤクザが更生するための法整備について次のように提案する。

「政府の『犯罪対策閣僚会議』が作った『第二次再犯防止推進計画』には、『就労・住居の確保等を通じた自立支援のための取組』として、元受刑者や元ヤクザの銀行口座開設や賃貸住宅の確保などの支援を義務づけていますが、あくまでも努力義務です。

『契約自由の原則』もあり簡単ではない。そこで私は、重大犯罪は別としても、ネット上の『忘れられる権利』」について議論を深めるべきだと思います」

◆実名報道が更生の道を阻む?

 逮捕されたり有罪判決を受けて実名が報道されると、インターネットで拡散され、半永久的に記事が残る。それは、更生の道筋に大きなハードルとして立ちはだかる。

「特に地方の小さな街で逮捕されると、軽微な犯罪であっても地方紙に載ってしまうことがあり、それが拡散され続けます。また、就職や住居の賃貸契約に際してネットで名前を検索してネガティブな過去を調査するのが当然になっています。

 口座開設の際に参照される銀行保有の犯罪者データもネット記事などから集積していると聞きます。むやみな実名報道も見直されるべきだと考えます」

 不利益を受け続けて年齢を重ねると、さらなる犯罪に手を染める可能性も高まる。更生を許す社会の実現は、真の暴排に繋がるのだ。

【諸橋仁智氏】
高卒後、暴力団の構成員となり覚醒剤取締法違反容疑で逮捕。組から脱退後’13年、司法試験合格。著書に『元ヤクザ弁護士』(彩図社)

取材・文・撮影/週刊SPA!編集部

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