経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は「ドトール・日レスホールディングス(以下、ドトール・日レスHD)」の業績について紹介したいと思います。
ドトール・日レスHDはその社名の通り、「ドトールコーヒー(以下、ドトール)」と「日本レストランシステム(以下、日レス)」が2007年に経営統合して誕生しました。ドトールの店舗数拡大が鈍化した状況下で、日レスの新業態開発力とドトールの店舗展開力を活かすことが統合の目的だったようです。統合後はパン屋「サンメリー」を買収したほか、「星乃珈琲店」など新業態店の開発に成功しています。同社の歴史と近年の業績について見ていきたいと思います。

◆カフェのチェーン化を加速させた存在

ドトールは1962年にコーヒー豆の卸売業として誕生しました。当時は個人経営の喫茶店が主流だった時代。72年に「カフェ コロラド」を出店し、1980年に日本発のセルフカフェチェーンとして「ドトールコーヒーショップ」がオープン。喫茶店・カフェのチェーン化を加速させます。同業態は88年に200店舗を突破、90年に500店舗を超え、2004年に1,000店舗を達成しています。

ちなみにスターバックス(以下、スタバ)が日本での展開を始めたのは1996年ですが、立地や価格帯が異なるため当初は競合とならず、両者とも店舗数を拡大しました。スタバは一等地やSCなどに出店する一方、ドトールは都市部でも商店街など地価の高くない地域に出店しています。通常サイズのコーヒーの価格も現時点でスタバが420円であるのに対しドトールは300円です。その上でホットサンドやケーキなど、ドトールは比較的スナック類が充実しています。ドトールは低価格を売りにしているため、店内の席はスタバより狭めではありますが。

◆ドトールと日レス、経営統合の狙いは

2007年にドトールは日レスと経営統合し、現在のドトール・日レスHDが誕生。背景にはドトールの成長が鈍化していたことに加え、1.1兆円という限られた喫茶市場から20兆円以上にもなる外食市場に進出したいという思惑があったようです。一方の日レスも様々な業態の飲食店を展開していましたが、全国規模のチェーン店を生み出すのに苦戦していました。両者の経営統合にはドトールの店舗展開力と日レスの新業態開発力を活かしたいという狙いが背景にあります。

統合後の2009年にはパン屋の「サンメリー」を買収し、11年には新業態店「星乃珈琲店」が誕生しました。星乃珈琲店はフルサービス形態の店舗で、落ち着いた雰囲気のやや暗い内装が特徴です。コーヒーも一般的なチェーンにしては高価格帯となっています。

なお、現在展開している主なブランドの店舗数は次の通りです(23年2月期末)。23年2月期の全社売上高は1,269億円で、そのうち直営店売上高が788億円、FC店や一般外食向けの卸売りが456億円を占め、ロイヤリティ等のその他収入は24億円を占めます。

ドトールコーヒーショップ:1,068店舗(うちFC・830店舗)
エクセルシオールカフェ:122店舗(うちFC・17店舗)
星乃珈琲店:280店舗(うちFC・33店舗)
洋麺屋五右衛門:204店舗(全店直営店)

◆業績悪化につながった「店舗の立地」

コロナ禍以前の段階で全社売上高は1,300億円前後を推移し、既に成長・拡大は止まっていました。そこへコロナ禍が追い打ちをかけます。2020年2月期から23年2月期の業績は次の通りです。

【ドトール・日レスHD(2020年2月期〜2023年2月期)】
売上高:1,312億円→961億円→1,094億円→1,269億円
営業利益:102.9億円→▲43.2億円→▲17.8億円→29.7億円
全店舗数:2010→2012→2043→2013

同社の店舗は主に首都圏そして都内の駅前に数多く展開しています。エクセルシオールカフェを含むドトール系列のカフェは現在約1,300店舗ありますが、約800店舗が関東に集中し、都内だけで500店舗ほど。消費者の外出自粛がそのまま業績悪化に直結した形です。

一方、高価格帯喫茶店の人気もあり星乃珈琲店は拡大を続けていましたが、22年2月期末に282店舗を記録して以降は頭打ちとなり、24年2月期3Q時点で275店舗とやや減少しています。ちなみに星乃珈琲店に似たような業態としてコメダHDが運営する「コメダ珈琲店」があります。コメダは郊外・地方で店舗数を増やし、コロナ禍でも順調に拡大し続けましたが、ドトールと同じ都内偏重姿勢が星乃珈琲店の苦戦につながったといえます。

◆ガソリンスタンド併設店で郊外進出を狙う

やはり郊外立地への展開が弱いと認識しているのか、近年では郊外店の出店を継続中。ドトールコーヒーショップに関しては、ENEOS内に出店するガソリンスタンド併設型が目立ちます。同じくガソスタ併設型でありながら食事メニューを充実させ、ドライブスルーを設けた「ドトールキッチン」も2019年から増加の一途をたどっています。

都市部では、他チェーンよりも低価格である点や気軽さを売りにしてきたドトールですが、車で来店する客に対して安さは必ずしも売りにはなりません。ブランドや味を求める消費者はコメダやスタバを選ぶ一方、安いコーヒーを求める消費者はコンビニコーヒーや缶コーヒーを選ぶと考えられます。そういった意味でドトールの価格帯はロードサイド店にしては中途半端であり、通常店ではなくGS併設店での郊外進出に至ったのではないでしょうか。

<TEXT/山口伸>



【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_