今、住宅系のYouTube界隈を騒がせている男がいる。動画チャンネル『ジュータクギャング』の押村知也だ。設計から建築、インテリアコーディネイトに至るまで住宅に関するすべてをこなす住宅のスペシャリスト「住空間クリエイター」である。歯に衣着せぬ彼の発言は、わかりやすくて痛快。『ジュータクギャング』は、更新のたびに視聴者の心をつかみまくっている。そんな押村は5月2日、自身の考えや思いを綴った初の書籍『美しい家のつくりかた』を発売する。押村が手がける住宅の核には「LDKをKDLに再定義する」という明確な哲学がある。その狙いを尋ねた。
◆LDKはもう古い。KDLに再定義すべき理由

KDL001家をつくるとき、大抵の人はなんの根拠もなくリビングの間取りを中心に考える。ハウスメーカーの営業や、設計担当者もまず「リビングは何畳くらいほしいですか?」と尋ねるのが定番だ。しかし、押村は「リビングは最後で、まずはキッチンを考えるべし」と断言する。「家の中心はキッチンであり、家族はそこに集まるもの」だからだ。押村はこの発想を「KDL」と表現している。通常のLDK=リビング・ダイニング・キッチンではなく、KDL=キッチン・ダイニング・リビングの順番こそが正しい考え方だという意味である。

「僕は10代の頃、ロサンゼルスで暮らした経験があるのですが、向こうの家庭ではキッチンが家族のコミュニケーションの場となっていることを知りました。朝はコーヒーを飲みながら、夜は食事をともにしながら、団欒の時間をキッチンで過ごすのです。僕が目指すKDLというのは、まさにそうしたスタイル。キッチンが家族のコミュニケーションの場として機能していたのです」

では、リビングとダイニングが果たす役割は、どう定義するのか。

kdl002「みなさん、リビングが家族の場所だと思われていますが、実際そこで何をしているかを思い浮かべてください。まず黙ってテレビを観ます。スマホも触るでしょう。本を読んだり、うとうと昼寝をしたりする。どうですか。意外とバラバラな行動を取っていることがわかるはずです。つまり、現在のリビングは来客を応接する場でもなく、ファミリーが集う場でもなく、個人がプライベートをすごすための空間なのです。一方、ダイニングはファミリーの場でもありますが、僕は、社交の場だと考えて設計しています。つまり、お客様を招く場、ゲストが訪れたときに機能するスペースと定義しているのです。かつて、日本には応接間というものがありましたが、今はほとんどつくられません。お客様とお茶をして、夜には食事をする場合、それらはリビングよりも、ダイニングで行ったほうが便利だと思いませんか?」

◆キッチン様式の最適解は「アイランドキッチン」一択

キッチンを家族のコミュニケーション・ツールとするため、具体的に押村はどんな設計を用意しているのか。

「僕もこれまであらゆるタイプのキッチンを使ってきましたが、結論は島のように独立したアイランドキッチン一択です。料理している人のまわりで渋滞が起きないように動線が自由に確保できるからです。また、天板をカウンターとして利用するために大きくして、スツールを置けるスペースを設けています。ダイニングやリビングとは別に家族が座れるスペースをキッチンに設けることで、キッチンは炊事や調理だけの設備ではなく、コミュニケーションの場として生まれ変わります。一方、キッチンの奥が行き止まりで冷蔵庫やパントリーがあると、調理をする人と冷蔵庫に行きたい人で渋滞が起きて不便です。壁付き型キッチンや、ペニンシュラキッチンなどの場合は、閉塞感がさらに増してしまうでしょう」

押村によれば、日本のキッチンに家族が集いにくかった背景には、文化的な歴史があったのだという。

「多湿な環境下であったことから、日本の炊事場は母屋から離れた場所、カビにくい土間などのうえにつくられてきました。キッチンを家の奥まったところに設置しようとする発想は、その名残りだと思います。しかし、現在は古い慣習に固執する時代ではありません。女性が奥に閉じこもり、男性たちの料理をつくるという役割分担は終わりました。家族全員でキッチンを思う存分、楽しんでもらいたいです」

料理をつくるだけの場所から、家族が語らう団欒の場所へ。LDKをKDLへと再定義すれば、家づくりは大きく進化していくだろう。

〈取材・文/ツクイヨシヒサ〉



【押村知也】
(おしむらともや)スタイラス所属。20代で建築、都市計画、インテリア、暮らしについてカナダ、アメリカで学び、輸入住宅などを手掛けるも挫折、住宅とは何かを見失う。大手ハウスメーカーや大手デベロッパーにコンサルティングして感じた「業界の嘘」と「都合の良い慣習」に納得できず、悪しき慣習にまみれた日本の住宅づくりからの逸脱が始まり、住宅業界の異端児となり、1000棟以上の建築設計を手掛ける。2022年7月にYoutubeチャンネル『ジュータクギャング』を開設。近著『美しい家のつくりかた』