こんにちは、一級建築士の八納啓創と申します。会社員の方から上場企業の経営者宅まで、住む人が幸せになる家をテーマにこれまで120件の家づくりの設計に携わってきました。
『日刊SPA!』では、これまでの経験を生かし、「これからの時代に必要な住まいの姿」をお伝えしていきます。

今回は、長年議論されているテーマ「持ち家・賃貸論争」に終止符を打ってみたいと思います。

◆日本ならではの「持ち家に対する捉え方」

「持ち家が得か?」「賃貸が得か?」という話になった際、ほとんどの場合「今の時代背景からすると賃貸のほうが無難」という結論になるのではないでしょうか。

家を持った場合のリスクとして挙げられるのは、「その場所に固定されてしまう」「住宅ローンがストレスになる」「不安要素を増やしたくない」といったところではありませんか。

ただ、これらの意見の根底にある「持ち家に対する捉え方」は、日本ならではのものなんです。他の先進国ではスタンスが大きく異なります。アメリカの例を紹介してみましょう。

◆持ち家が“不動産”として機能しているアメリカ

アメリカの場合は、家族が増えたり、転職したりしてライフスタイルが変わると、持っている家を売却し、また新しい家を購入する流れが一般的。仮に3,000万円で購入した家が、手放すときには、3,000万円以上で売却できる可能性もありえるのです。

その要因は、毎年物価が上昇しているからで、比例するように持ち家の価値も上昇――つまり、持ち家が“不動産”として機能しているわけです。

対して日本の場合では、なかなか同様のことはできません。持ち家の不動産としての価値は、どんどん下がり続ける状況がもはやデフォルトと化しています。購入した時よりも安い価格でしか売れないため、新しい家を購入する資金源になりません。

◆「日本の家」は不動産ではない?

それにしても、なぜアメリカと日本で明暗が分かれるような結果になってしまっているのでしょうか。

ショッキングな話になりますが、多くの「日本の家」は不動産ではないという事実を知っておかねばなりません。

「家=不動産」と漠然と思われているかもしれませんが、「日本の家」と「アメリカの家」で決定的に異なる要素があるのです。

それは「家の寿命」です。アメリカでは「70年以上」と言われているのに対して、日本では長くても「40年程度」と言われています。残念ながら、日本の家はアメリカの家と比べても寿命が半分程度しかありません。

別の言い方をすると、寿命が10〜20年の「冷蔵庫」や「エアコン」のイメージに近い「耐久消費財」になるでしょう。

「持ち家・賃貸論争」における持ち家が耐久消費財だったとすれば、賃貸に軍配が挙がるのは確実です。

ここまでの内容では、家を購入することにデメリットしか感じられなくなっているかもしれません。しかし、メリットを得る方法はもちろん存在します。

◆「不動産の家」を手に入れるには

持ち家でメリットを得るためには、「耐久消費税の家」ではなく「不動産の家」を購入しなければなりません。

さて、「不動産の家」とは、どういったものなのでしょうか?

ポイントは2つあります。

1つ目は、「長期優良住宅レベルの家」を建てることです。

長期居優良住宅の基準は、数世帯にわたり住宅の構造躯体が使用できること。また、通常想定される維持管理条件下で、構造躯体の使用継続が少なくとも100年程度となる措置を取ることなどが挙げられます。

2つ目は、「不動産価値の下がらない場所」を選定することです。

借り手や買い手がつきやすく市街地であれば、不動産としての価値が保てますから、それなりの金額での売却が可能になります。

では、郊外の場合はどうなるのでしょうか?

一つ朗報があります。それは、インバウンド需要です。

地方であっても、簡易宿所や民泊などで家を貸し出せる時代になってきました。抵抗がなければの話ですが、仮に毎月10万円の住宅ローンを払っている家でも、場所によっては1泊2万円で月のうち5日貸し出せば元が取れます。

このように考え方次第では、持ち家派もデメリットばかりではないように思えてくるはずです。

◆「住宅ローンのほうがマシ」だから家を買っても…

「持ち家が得か?」「賃貸が得か?」の議論する際、「持ち家が不動産であればどうか?」という視点は不可欠です。

「どちらが得か?」という意識を優先しすぎると、住まい選びで失敗する可能性が高いです。

日本人が家を買う動機として1番多いのが、「家賃を払うくらいだったら住宅ローンのほうがマシ」というもの。

この動機がもとで家を手に入れたとしても、結局「毎月にローンの支払いでストレスがたまる家」にしかなりません。他の先進国の人からすると、消極的で守りに入った考えにしか見えないでしょうね。

◆「持ち家・賃貸論争」の最終的な結論は…

住まいへの投資は、望み通りのライフスタイルを手に入れるためにあります。

あなたの望むライフスタイルは何でしょうか?

例えば、東京都心で生活することをイメージしてみましょう。土地代も高く、なかなか家を購入できないエリアで暮らす場合は、賃貸という選択肢になりそうです。

それに対して地方都市の場合はどうでしょうか?

賃貸や、インバウンド需要が見込まれる場所に、「不動産としての持ち家」を主有しておけば、将来にわたってお金が入ってくる資産にも十分なり得ます。

私が出した「持ち家・賃貸論争」の最終的な結論は、各々の望むライフスタイルで持ち家が賃貸か選択肢が変わるということです。

もし悩まれているのであれば、まずは自分がどこで何をして生きていきたいかを明確にしてみること。それこそが失敗しない家選びの近道になりますよ。

<TEXT/一級建築士 八納啓創>



【八納啓創】
1970年、神戸市生まれ。一級建築士、株式会社G proportion アーキテクツ代表取締役。「地球と人にやさしい建築を世界に」をテーマに、デザイン性、機能性、省エネ性や空間が人に与える心理的影響をまとめた空間心理学を組み込みながら設計活動を行っている。これまで120件の家や幼保園、福祉施設などの設計に携わってきた。クライアントには、上場会社の経営者やベストセラー作家をはじめ「住む人が幸せになる家」のコンセプトに共感する人が集い、全国で家づくりを展開中