高騰著しい都内のマンション市況。購入時だけでなく、堅実な出口戦略まで見据えておかなければ“人生最大の過ち”にもなりかねない。果たして、都心におけるマンション購入戦略の最適解とは?
これまでに2000件以上のモデルルームを見学し、「マンションマニア」の愛称で知られるマンション評論家・星直人氏が解説する。

◆予算5000万円では都心部の物件は厳しい

マンション購入の予算を検討する際、ひとつの目安となる価格が“5000万円”だが、「正直、現在の都心のマンション市況では予算5000万円で理想的な新築・築浅物件を買うことは極めて難しい状況」と、星氏は語る。

「ここまでの高騰ぶりの要因は、やはり建築費が増大化したこと。今の建築価格でマンションを建てるには『坪200万円』が相場と言われています。つまり70㎡の広さのマンションは建築原価で約4000万円かかっている。そこに土地代や販売管理費用が上乗せされて、新築分譲マンションの価格が形成されるわけなので、5000万円はゆうに越えてくるわけです。

夫婦がマンションを一次取得する場合、“今住んでいる賃貸物件や社宅の近くで物件を見つけたい”というケースが多いものの、やむなく沿線をくだっていく選択をする方がほとんどという状況です」

◆都内ファミリーマンションはペアローンが前提

現在のマンション市況において、共働き夫婦の家探しの現実解となるのが、夫婦それぞれでローンを組む「ペアローン」だと星氏は続ける。

「先ほど例にあげた予算5000万円は、夫がフルタイム勤務で妻がパートで働く1.5馬力、世帯年収が700万円の想定からだした上限額ですが、例えば夫600万円、妻400万円のフルタイム共働きで世帯年収1000万円だと、ペアローンで買える予算は8000万円となり、都内でも選択肢がだいぶ増えます。

実際、私の所に相談に来る方も、現在のマンション市況の説明を聞いて、納得の上でペアローンを選択して予算上限をあげる方が9割ほどです。予算8000万円で選択肢の一例をあげると、大手町勤務の人が南砂町でマンションを買うと、通勤は東西線で約15分、ドアtoドアでも30分程度になります」

ペアローンで借入額が伸びるのはメリットだが、夫婦お互いが債務の連帯保証人になるわけで、加えて子育てによる収入減、離婚リスクを気にする人も多いだろう。

「ペアローンで家探しの予算を上げることに踏み出せない気持ちも理解できますが、いい立地のマンションを買うことは、通勤時間が短縮されて、結果的に『時間を買う』ことになります。特に最近の若い共働き夫婦は『通勤時間は45分以内に納めたい』と考える方が増えています。保育園に預けた子供が熱を出した場合など、どちらかが迎えに行くとなると、60分かかるのは遠いと感じているわけです。

逆に予算を上げず、通勤が負担になる立地で家を買ってしまうと、仕事のパフォーマンスにも影響も出やすい。“通勤時間の短い好立地=今の収入を守る”、という視点を持った追加投資だと思えば合理的ともいえます」

好立地であるということは“資産性も担保される”とも言える。リスクを理解しつつも、攻めの姿勢を持った予算設定がカギとなりそうだ。

◆マンションに永住感覚は不要

星氏が都心でマンションを検討する際、“資産性”を念押しするのには理由がある。

「マンション購入を検討するうえで認識しておいてほしいのはマンション住まいというのは、戸建感覚で永住するものではないということです。将来、ライフステージや価値観が変わって、住む街を変えたいとなった時に、一番避けたい事態は家が売れないこと。そのためにマンションは多少背伸びしてでも資産性重視で買うことが重要です。予算をあげるからこそ、価値のある物件に手が届くわけです」

また、昨今は珍しくもなくなった40代の住宅購入検討者に対しても「35年かけて払い切れる」物件ではなく「住み替え前提」で物件を検討すべきだという。

「仮に45歳から35年間ローンを返済するとしたら、返済途中で定年を迎えるわけで、退職金で完済できるかもわからない。ですがマンションは払いきる必要はありません。

定年後にはその家を売って、別の終の住処に移り住むことをプランに入れておきましょう。妻帯者であれ単身者であれ、60歳を過ぎた頃には今と価値観や暮らしぶりが変わっている可能性は大いにあります。

将来の展望が不透明な以上、なるべく資産性が高いと予測できるマンションを買っておくことで、いろいろな選択肢がとれるようにしておくべきです。逆に資産性が乏しいマンションを買うと売るに売れず、結局そこに住み続ける選択肢しかない。価値観や生活とのギャップに苦しみながら住み続けなければいけないリスクがあるのです」

◆マンションも“ステルス”グレードダウンが進行中

星氏は「今後もマンション価格は高値が続く」と見ている。

「今の建築単価で契約すると、実際には2、3年後にマンションが建ちます。なので今後3年は市場に出てくるマンションは高い。安く出せばデベロッパーが赤字になるので下げる理由はありません。

新築は待っても下がらず、新築が高ければ中古価格もそれに引っ張られます。なので、今買うべき理由がある人が、あえて購入を諦める理由はないと思います。待てばその分だけ年を取るし、子供も成長します。私は20年以上マンション市場を見続けてきて、結果論ではありますが『買いたい時が一番の買い時だった』と感じています」

今、買うべき理由はそれだけではない。インフレによる“ステルス”グレードダウンも進行しているのだ。

「インフレで資材価格が高騰しているので、今後もマンションは占有面積をできるだけ狭くして、価格は据え置きを維持します。つまりポテチやドーナツの値段据え置きで量が減るステルス値上げと一緒です。販売価格だけを追っていると値上がりは感じないですが、坪単価や設備のグレードを比較すれば、インフレの影響はあきらかです」

同じ予算でも今後は買えるマンションがどんどん質の低いものなっていく可能性が高いということだ。

◆マンション選び3つのこだわり

そこで、今から失敗しないマンション選びをするために、こだわってほしいポイントが3つあるという。

①「マンションのイメージが強い街」にこだわる

「立地や駅距離も大事ですが、加えて『マンションが売りやすい街なのか?』という視点で見てほしい。たとえば東京23区でも戸建とマンションが混在するエリアと、マンションばかりが多く建つエリアがあります。

マンションの競合となる戸建が多く建っている街よりも、そもそも戸建の選択肢が存在しづらいエリア、たとえば湾岸のような街は、そこに住みたい人は必然的にマンション購入者になるので、流動性が担保されるわけです」

②「大規模」にこだわる

「私自身の自宅選びで『大規模』を譲ったことはこれまで一度もありません。小規模マンションにもよさはありますが、資産性においては充実した共用設備やスケールメリットが働く大規模マンションに軍配が上がります。これはリセールバリューを集計したデータでも実証されています。ちなみに定義上は200戸以上が大規模マンションにあてはまります」

③中古なら「築浅」にこだわる

「いわゆる大量供給時代と呼ばれる2000年代初頭の物件が現在、築20年代に突入しています。今後、10年後の2034年に売却を検討した場合、築30年の中古物件が市場にごろごろある一方、供給が絞られた築10年前後の築浅物件が少ないため、人気化する可能性が高い。5年後、10年後の購入検討者から見て“若いな”と思ってもらえる物件は売却でも差別化しやすいので、供給量からある程度の希少性が生まれます」

マンションを選ぶ際には単純な価格や立地だけに振り回されず、一歩高い視点から戦略を立てていくのが成功の秘訣のようだ。

<取材・文/栗林篤>

―[絶対に損しない家の買い方]―



【マンションマニア】
マンション評論家。モデルルーム訪問件数は2000件超、購入経験は11件。高校時代から当時有料だった住宅情報誌を毎週購入するほどのマンション好き。Xは@mansionmania