メリットゼロだ。毎年この時期に会社や自宅に届く住民税の納税通知書。今年度から総務省は希望する事業者に従来の「紙」だけでなく「デジタル化」での通知を奨励している。ところが、この電子通知の評判がすこぶる悪い。とにかく手間がかかり過ぎるのだ。

「まず会社から届くZIP(圧縮)ファイルの通知書が『Windows』の標準機能では解凍できない。いちいち対応可能な無料ソフトを確認してダウンロード。やっと解凍しようにも『展開を完了できません』とエラー表示の連続です。実はこのソフト、わざわざ右クリックの後に『その他のオプションを確認する』を開き、『解凍』を選ばないとダメ。パスワードも必要で、それを知るには別添のPDFファイルを開き、専用URLをクリック。パスワードをコピーして……と説明するだけで疲れてきます」(都内勤務の50代会社員)

 ネット上のマニュアルサイトにたどり着くのもひと苦労で、枚数は40ページ以上。デジタルネーティブの若手会社員も「面倒くさすぎて確認を諦めた」と音を上げ、「6月分の住民税ゼロという岸田首相肝いりの『定額減税』の恩恵を、そんなに知らせたくないのか」(40代男性)といった、うがった見方すらある。

 デジタル化=簡易化を期待したら大間違いで、手順は分かりにくいし、使いづらい。むしろ紙より不便なシステムは「eLTAX(エルタックス=地方税ポータルシステム)」で、「地方税共同機構(LTA)」なる組織が開発・運営する。

■LTAは天下り法人

 LTAは2019年設立。全国1788の地方公共団体が共同で運営する「地方共同法人」で、職員数62人のうち約半数は地方団体からの出向者だ。地方税に関する事務の合理化、納税者の利便向上を設立趣旨に掲げるが、やってることは真逆。現在の理事長は都庁主税局OB、副理事長は所管する総務省の元大臣官房審議官という「天下り法人」である。

 岸田政権が音頭を取るデジタル化の波に乗り、経常収益は設立当初の約47億円から昨年度は約100億円と倍増。さらに今年度は約140億円の収益を見込む。地方税で生計を立てる天下り法人が、その地方税をロクに確認できない「デジタル化」で肥え太るとは、納税者は納得できない。

 この不便なシステムに苦情は殺到していないのか。LTAに確認すると、「問い合わせの記録はあるが、まだ集計にはいたっていない」(システム部の担当者)とのこと。保険証と同様「紙からデジタル」は何ひとつ、良かったためしがない。