日本のスピードスケート界に新星が誕生した。1〜2月に韓国・江原道で開かれた冬季ユース五輪で、15歳の井上暖乃美(HSC)=福岡市出身=がショートトラックの女子1500メートルと混合リレーの2種目で銅メダルを獲得した。井上は「もっと速くなって、日本代表として国際大会でメダルを取りたい」と成長を誓う。

 冬季ユース五輪の女子1500メートル決勝。スタート直後に中国選手が飛び出して1周近いリードを奪うも、井上は「体力を消耗するだけ」と2位集団を維持した。トップでゴールした選手につられ、ラスト1周を残してレース終了と勘違いしたが、コーチの「まだ終わっていない!」の声で再加速。そんなハプニングを克服しての銅メダルに「得意種目の1500メートルでメダルを取れてうれしい」とはにかんだ。

■メダリストからの指導

 所属するHSC(福岡市)では、1988年カルガリー冬季五輪で公開競技だったショートトラック女子3000メートルリレーで銀メダルに輝いた山田由美子コーチらに指導を受ける。毎日のランニングや有酸素運動などでスタミナを養うほか、日本スケート連盟(JSF)の強化合宿では1日約150キロの自転車トレーニングに取り組むこともある。山田コーチは「忍耐力と精神力に秀でている。チーム練習が終わっても一人で滑り続けるほど、誰よりもトレーニングを積んでいる」と高く評価する。

 ショートトラックは1周111・12メートルのトラックを小回りする技術に加えてレース中の駆け引きが要求される。接触や転倒が多く、時に大逆転も起きるスリリングな展開が特徴だ。小学2年から競技を続ける井上は「スピードスケートは脚力だけの勝負。抜いたり抜かれたり、駆け引きがあるショートトラックの方が面白い」と魅力を語る。

 「クレバーなレース運びができる」と、井上の長所を挙げる山田コーチは、技術面でも「ブレード(スケート靴の刃)の使い方が巧みで、楽にスピードを出せるスケーティングが得意。筋力を強化してパワーと爆発力を身に付けたらさらに強くなる」と太鼓判を押す。

 趣味は「お昼寝」で、洋楽やKポップなどを聴いてリラックスする。今春から福岡・沖学園高に進学する予定だが、JSFの強化合宿で1年の半分ほどを長野県などで過ごすことになるという。今後は1月の全日本選手権で女子1500メートルを制した関口綾野(長野・南牧中3年)ら、同世代のライバルたちと切磋琢磨(せっさたくま)していく。「世界の舞台で戦える選手になりたい」。大きな夢に向かって、氷上を駆け抜ける。(山崎清文)

■井上の略歴

 井上暖乃美(いのうえ・ののみ)2008年4月7日生まれ。福岡市出身。母に勧められて小学2年でショートトラックを始めた。日本スケート連盟のジュニアナショナル強化選手で、23年10月のノービスA距離別ランキング女子5位。長兄の瑠汰(23)、次兄の幹皓(22)もショートトラックの選手。163センチ、51キロ。