◆オリックス1―3ソフトバンク(29日、京セラドーム大阪)

 ソフトバンクの山川穂高内野手(32)が決勝の1号ソロを放った。同点の7回無死。宮城の150キロ直球を右中間へ豪快に運んだ。「久しぶりの公式戦。お客さんが多い前でしっかりと試合ができて良かったし、結果ホームランを打てて良かったなと思います」と笑った。

 かつて鷹を奈落の底に突き落とした大砲が、4年ぶりのV奪還を目指す小久保ホークスの切り札であることを開幕戦でいきなり証明した。レギュラーシーズンでの本塁打は545日ぶり。西武時代の2022年10月1日のソフトバンク戦(ベルーナドーム)。延長11回に藤井から放ったサヨナラ2ラン以来だ。マジック「1」とし、勝つか引き分けで優勝だった首位チームを打ち砕く一撃だった。

 ソフトバンクは翌2日のロッテとのシーズン最終戦(ZOZOマリン)でも逆転負けし、オリックスと同率の2位となって歴史的V逸を喫した。左翼席に到達した山川の放物線を、今も忘れられない鷹ファンは多いことだろう。

 あのとき、途中出場でマスクをかぶっていた海野は号泣した。山川の衝撃的な打球音は忘れることができないという。キャンプ中、一緒に食事をした際、あの日の話になった。オリックスの吉田正尚(現レッドソックス)と打点王を争っていた山川は、2死一塁の状況で一発だけ狙っていたという。「海ちゃん、たまたまあそこに来たから打てただけ。(藤井のフォークが)ちょっとでも内か外だったら三振だったよ」と和ませ、当時を振り返った。

 そこから山川の打撃談議は進んでいった。打力アップに励んでいた海野にまずは言葉で説明。次は座ったまま手を使いながら解説すると、最後は立ち上がってスイングを見せた。「地面から力をもらうことが大事。ホームランは力より技だから」。食事もそっちのけで身ぶり手ぶりを交えながら打撃指導を続けた。

 海野に限らず、3度の本塁打王を獲得した技を惜しげもなく若手に伝えた。キャンプ中は休日のたびにリチャードとトレーニングも行った。室内練習場でのマシン相手の打ち込みなど、圧倒的な練習量は若手の手本にもなった。

 自らの不祥事から公式戦は約1年のブランクが空いたが、今春の対外試合やオープン戦でも結果を出した。「本番とは違うので」と謙遜する一方で「(本塁打の)記録を狙っていきますよ」と自信ものぞかせていた。引退まで真剣に考えた男が覚悟を決めて臨んだ新天地で通算219本目のアーチ。今後も快音を奏で続けていけば、V奪還はおのずと近づくだろう。(小畑大悟)