子どもの心身に生涯、大きな影響を与える性暴力。これを防ぐための「こども性暴力防止法案」は9日、衆議院本会議で政府による趣旨説明と質疑が行われ、いよいよ国会での審議が始まる。この法案の柱となるのが日本版DBSと呼ばれる仕組みで、子どもと接する業務にあたる教員や保育士などの性犯罪歴の有無の確認を、学校や保育所などに義務付ける。仮に法律が成立しても、開始はまだ先で2027年と見込まれる。一体どんな制度なのか?

■日本版DBSとは

DBSとはイギリスの公的機関、Disclosure and Barring Service(=前歴開示・前歴者就業制限機構)のこと。イギリスでは、企業などが従業員の犯罪歴を求めることができ(前歴開示)、子どもにかかわる業務を行う事業者などには、従業員の犯罪歴を調べることが義務化されていて、就業を希望する人は、DBSから犯罪歴についての証明書を受け取って、事業者に提出する必要がある。

日本版のDBSは、従業員が証明書を提出する形ではなく、学校や保育所などに、教員、保育士、従業員やボランティア、就職希望者について性犯罪歴がないかどうか、こども家庭庁に照会して、調べることを義務付ける。

性犯罪歴があり、服役した場合は刑執行終了から20年、罰金の場合は、刑の執行終了から10年、執行猶予の場合は、裁判確定日から10年は、子どもとかかわる業務に就くことができない。

今回の法案には、DBS以外のことも盛り込まれている。過去の性犯罪歴を調べることで、再犯を防止することを目指すが、初犯を防ぐために性犯罪防止の研修を行うほか、子どもや保護者が相談しやすい体制作り、被害が疑われる場合に調査することなども義務付ける。

義務化の対象は、法律で認定されている学校、保育所、幼稚園、児童養護施設、児童館、放課後デイサービスなどだ。一方、認可外保育所や放課後学童クラブ、学習塾、スポーツクラブなどに義務は課されないが、性犯罪歴確認や研修、相談体制など法律に盛り込まれていることを行った場合は、国から「認定」され、それを表示できる。なお、塾や習い事など民間教育事業は、対面指導で、習得標準期間が6か月以上などとされ、単発のキャンプなどは対象外となる見込みだ。

■法律が成立したら2027年スタート

制度のスタート(施行)は、法律公布の日から2年6か月以内と定められていて、今の国会で法案が成立すれば2027年1月には制度が開始される。早い開始が望まれる中、準備に2年半もかかるのは、性犯罪歴を確認するシステムの構築、ガイドライン作り、事業者への周知方法の検討などが行われるからだという。

■どのようなガイドラインが策定されるのか?

この仕組みを実施するために「具体的に何をどうすれば良いのか?」を示すガイドラインが必要で、こども家庭庁によると、現段階では例えば下記のものが考えられるという。

・初犯を防止するための措置についてのガイドライン(研修など)

・性犯罪歴確認の申請方法についてのガイドライン

・照会した性犯罪歴の漏えい防止など情報管理のガイドライン

こども家庭庁は、施行直前でのガイドライン公表となると事業者に大きな混乱が生じるため、直前にならないように準備を進めたいと話している。

■性犯罪歴「あり」の場合、詳細情報も事業者に伝えられる

手続きとしては、学校や保育所などは教員や保育士などについて性犯罪歴の「照会」をこども家庭庁に申請、教員や保育士は戸籍をこども家庭庁に提出する。こども家庭庁は性犯罪歴の有無を法務大臣(実際には法務省のシステム)に確認する。

性犯罪歴「なし」と確認された場合、「犯罪事実確認書」がこども家庭庁から学校などに交付される。

一方で、性犯罪歴「あり」と確認された場合、こども家庭庁からまずは本人に事前通知される。2週間以内であれば通知内容の訂正を請求することができ、本人が結果を受けて内定辞退や退職をすれば、「照会」の申請が取り下げられるので、性犯罪歴があることは学校などには伝わらない。本人から訂正請求がされずに2週間が経過した場合、性犯罪歴「あり」という内容の「犯罪事実確認書」が学校などに交付され、その教員などは子どもと接する業務に10年、もしくは20年の間、就けなくなる。子どもと直接かかわらない業務に異動させ、就業を続けることはありうるという。

学校など事業者に通知されるのは、

・いつの裁判で何の罪が確定したか

・懲役何年、罰金の額などの判決内容   など

ここまで詳しく情報を伝える理由としては、罪の重さや犯罪の種類を把握することで、学校や保育所などが「必要な措置を講じるため」だという。

■性犯罪歴の確認にかかる手数料

性犯罪歴の有無をこども家庭庁のシステムを通じて法務省のシステムで確認する際、手数料などは発生しない。一方で義務化されていない学童保育や認可外保育所、塾、スイミングスクールなどが国の認定を得るために、職員などの性犯罪歴を確認する場合、手数料が発生する。金額はこれから検討するとしている。

加藤鮎子こども政策担当相は「本法律案はこれを起点に社会全体で子どもたちを性暴力から守る社会的意識を高めていく観点からも大変重要な法案であると考える。子どもの性被害防止のためには総合的な取り組みも必要であり、その推進もはかりつつ、本法律案の成立に向けて、最大限努力をする」と述べた。注目度の高い法律だけに、国会での丁寧な審議と早い成立が期待されている。