藤井聡太八冠(21)を筆頭に話題満載な将棋界。観る将のマンガ家・千田純生先生に今月も「イラストで将棋ハイライト」を描いてもらいました。

 3月がやや肌寒かったからかようやく桜が開花し始めましたが……新年度が始まりました。100周年を迎える将棋界も新たな戦いが始まることになりますが、イラストで昨年度末のトピックスを振り返っていきましょう!

1)藤井棋王防衛…八冠キープで2024年度へ!

 藤井聡太八冠が伊藤匠七段を迎え撃った第49期棋王戦五番勝負は、3月3日に新潟県新潟市、17日に栃木県日光市で行われた第3、4局とそれぞれ藤井八冠が伊藤七段に勝利して、3勝0敗1持将棋で防衛に成功しました。

 2023年度、史上最年少名人、さらに八冠独占となる王座獲得と“特急”のように駆け抜けた1年を、棋王戦初防衛という形で締めくくることに。そのほかにも「タイトル戦14連勝」「タイトル戦21連覇」と、その強さはとどまることを知りません。……というところで、担当編集さんが「あらためて藤井八冠が2023年度に残した数字に注目してみました」とのこと。

《2023年、藤井八冠が残した主な数字》※カッコ内の数字は全棋士内の数字

 対局数:55(5位タイ)

 今年度成績:46勝8敗(勝利数は3位)

 勝率:.852(1位)

 連勝数:12連勝(3位タイ)

 ほぼタイトル戦に挑む=トップ棋士と相まみえる中での勝率1位を筆頭に、凄まじい数字の数々です。「これだけ全部のカテゴリで上位に入ってくる人って、アスリート全体に範囲に広げても大谷翔平選手しかいないんじゃないでしょうか」と担当編集さんが言っていました(笑)。とはいえ藤井八冠はこれらの成績に満足することなく、将棋に対する向上心が尽きないのは皆さんも知っての通り。果たして2024年度バージョンの藤井将棋はどんな進化を見せるのか。

2)打倒・藤井将棋に燃える名棋士たち

 とはいえ、他のトップ棋士の方々も藤井将棋に手をこまねいているわけではありません。

 それを証明したのは佐々木勇気八段でした!

 棋王戦第4局同日の3月17日に放映されたテレビ棋戦「NHK杯」です。連覇を狙う藤井八冠は準決勝で羽生善治九段を、勇気八段は増田康宏八段をそれぞれ下して2年連続での決勝同カードに。その中で勇気八段は“絶対王者”相手に角換わりで進む中、序盤から終盤まで気を抜けない藤井将棋を攻略して169手で勝利。自身にとって初となるNHK杯、2度目の棋戦優勝となりました。

 勇気八段が藤井八冠に勝利したのは、2017年7月の竜王戦決勝トーナメント以来。そう、当時の藤井四段のデビュー後29連勝という記録をストップさせた一局でした。連勝記録を更新した増田八段との対局を“隅っこで凝視していた”という伝説を持つ勇気八段ですが、勝負どころでの強さはやはり抜群! 2期目となるA級順位戦での戦いも楽しみです。

A級棋士の顔ぶれが第83期も豪華!

 3月7日に行われた順位戦B級1組では、増田八段(対局時点では七段)が屋敷伸之九段に勝利し、すでに昇級を決めていた千田翔太八段とともに“第83期A級”の昇級を決めました。

 <第83期順位戦A級の顔ぶれ>

 藤井聡太八冠もしくは豊島将之九段、永瀬拓矢九段、渡辺明九段、菅井竜也八段、稲葉陽八段、佐藤天彦九段、佐々木勇気八段、中村太地八段、千田八段、増田八段

 そして新年度の4月から、絶対的な強さを見せる藤井将棋に豊島九段と伊藤七段がそれぞれ名人戦、叡王戦で挑むことになります。なお両タイトル戦にあと一歩まで迫りながら挑戦権を得られなかった“軍曹”こと永瀬九段に、僕の妻氏が涙目になっていましたが……どこかで藤井八冠との再戦が見られることに期待しています。

 過去のタイトル戦で名勝負を繰り広げた豊島九段が久々に登場し、伊藤七段はこの1年で3度目となる“vs藤井将棋”という構図は、どのような展開を見せるか。春から興味は尽きません。

3)地域対抗戦の藤井八冠、そして二歩…新四段もがんばれ!

 さて名人戦での「藤井vs豊島」にワクワクしているファンも多いかと思われますが……現在開催されている「ABEMA地域対抗戦」では、その2人がチーム中部(監督は藤井八冠の師匠・杉本昌隆八段)の一員として共闘しています。

 もしかしたら他地域ファンの方々としてみれば「名人位を争う2人がいるとか強豪すぎる!!」という思いかもしれませんが(笑)。

 その藤井八冠ですが……チーム九州との対戦で豊島九段が佐々木大地八段と対局した際には「さすがですっ!」と豊島九段の指し回しを絶賛していました。

 かと思えば、30日のチーム関東Aでの勇気八段戦を前にした豊島九段のインタビューの後ろで藤井八冠、「せとちゃん人形」の手を振って「頑張ってくださ〜い」とエール。これぞ、あざとカワイイ(笑)。冗談はさておき、師匠・杉本八段の取り計らいで藤井八冠が幼少時に豊島九段と手合わせしたエピソードが将棋ファン内に知られますが、棋力を知るからこそのリスペクトを感じます。

トップ棋士が…二歩は怖い

 いち早く決勝進出を決めたチーム中部に対して、決勝残り1枠を争うのは渡辺九段率いるチーム関東Bと、山崎隆之八段のチーム中国・四国です。そこに至るまでの対局で“ある事件”が……「二歩(同じ筋に歩兵を2つ置いてしまうと、反則負けとなる)」です。

 まさかの出来事が起きたのは23日の関東Bvs九州の第7局、増田八段−天彦九段戦でのこと。この日3連勝していた増田八段が形勢的にリードしていたようなんですが、「8八歩」が配置されている状態で「8三歩」!

「二歩、アベトナはもちろんNHK杯などの早指し戦で、稀に起こるんですよねえ。起きた瞬間の“あーーー!!”という感情は……見てはいけないものを見てしまったというか、何と表現すればいいのか」

 担当編集さんもつらそうな表情でしたが、控室にいた関東Bの監督・渡辺九段、森内九段、永瀬九段、伊藤七段全員――この4人が勢ぞろいするのもスゴい――が明らかにビックリしつつ少し笑みが見えるのは、この棋戦ならではなのでしょうか(苦笑)。それでも関東Bが最終的に勝利する辺り、さすがなわけですが。

 そして最後に……奨励会三段リーグ最終局が9日に行われ、14勝4敗で山川泰熙新四段(25歳)、高橋佑二郎新四段(24歳)のプロ入りが決定しました。おめでとうございます!

 なお山川新四段の師匠は、広瀬章人九段です。竜王、王位各1期にA級在籍10期、竜王戦1組以上5期とトップ棋士として確固たる実績を残しながら、プロ入りする弟子を持つという“二刀流”ぶりに改めて敬意を表したいと思います。

 多士済々の棋士たちが、2024年度もどんな名局・おもしろシーンを見せてくれるのか。凝視して描き切りたいと思います。<構成/茂野聡士>

文=千田純生

photograph by Junsei Chida/Keiji Ishikawa