2023ー24年の期間内(対象:2023年12月〜2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。高校野球部門の第1位は、こちら!(初公開日 2024年1月23日/肩書などはすべて当時)。

 昨年のドラフト会議で無念の指名漏れを味わった広陵・真鍋慧(けいた)。話題を集めた“順位縛り”の真相、表情を崩さなかった会議当日の心境、そして進路まで。真鍋本人がNumber Webのインタビューで明かした。〈全2回の第1回〉

 2023年のドラフト会議で、ある高校生スラッガーが注目を集めた。

 真鍋慧。

 広島の名門・広陵で1年夏からレギュラーをつかみ、高校通算本塁打は62本まで到達。入学早々の打撃練習で、左打席から強烈な打球を連発する姿を見た同校の中井哲之監督が、「(バリー・)ボンズ」とあだ名を付けたことから、メディアでは「広陵のボンズ」の二つ名が浸透した。

「上位指名有力」がまさか…

 メジャー歴代最多の通算762本塁打を積み上げた強打者に重ねられた18歳は、昨年のドラフトにおいて、「上位指名の有力候補」と見られていた。「状態のいい時の打撃は、1、2位で指名されてもおかしくないレベル」と推すスカウトも複数いたが、結果は指名漏れ。同時に注目を集めたのが、「3位までに指名されなければ、大学に進む」という、通称“順位縛り”を設けていたことだった。ドラフトが開催された10月26日には、SNSのXで「順位縛り」がトレンドワード入り。期せずして、真鍋の注目度の高さを示した。

 ドラフト当日は学校内で会見場が設置されたものの、真鍋本人の取材は実施されず。無念の指名漏れ以降、真鍋の声は表に出てこなかった。

 指名の有無を左右するキーポイントとなった、「3位まで」の順位縛り。設定した意図はなんだったのか。

なぜ「順位縛り」を設けたか?

 まず、真鍋がプロ志望を正式に決意したのが、昨年のセンバツ終了後だった。そのほぼ同時期に、順位縛りの方針も固めていた。

 4強入りしたセンバツ後、真鍋は高校日本代表候補の合宿に招集。合宿から広島に戻った後の進路面談で、中井監督に「高卒でプロに行きたい」と伝えた。決意を固めた教え子に、指揮官はこう返した。

「お前の人生じゃけえのう。お父さん、お母さんとよう相談せえよ」

 真鍋の決断を尊重したが、中井監督は元来「プロは入って終わりじゃなくて、活躍しなければならない世界。大学で人間的、技術的に成長して、高い評価を受けてからでもプロ入りは遅くない」という指導方針を持つ。背中を押しつつも、未来を案じてもいた。そのため、ドラフト直前の取材では「偉そうな言い方になってすみませんけど」と前置きをした上で、こう語っていた。

「バッティングに関しては、『プロでもご飯が食べられる』ものを持っている子です。でも、守備や走塁に関しては、まだまだこれから。そういう選手なので、『育てばラッキー』じゃなくて、長所である打撃を評価していただいて、『守備も走塁も絶対に育てます』という球団とご縁があったらうれしい。そういう気持ちを持っていただける球団があるとすれば、下位ではなくて、一般的に上位と言われる順位で獲っていただけるんじゃないかなと思って。それで、スカウトの方々には『3位までに指名がなければ、進学します』とお伝えしています」

ドラフトの順位は関係ない…は本当か?

 しばしば言われる「プロに入ってしまえば、ドラフト順位なんて関係ない」の言葉。この意識を持って日々の研鑽を積む必要があるのは間違いないが、全面的に正しいとは言えない面もある。

 ドラフト順位によって、契約金の額は明確に区別されるし、入団後に実戦で与えられるチャンスの量にも差が出てくる。手塩に掛けて育てた教え子に、少しでもいい条件でプレーしてほしいと考えるのは、“親心”だろう。

 真鍋本人にも「上位で指名される力がないと判断されたのなら、大学で力をつけて、ドラフト1位を目指したい」思いがあり、本人の決意と中井監督の親心の双方を踏まえた結論が“3位縛り”だったのだ。

 プロ志望届を提出した選手は、ドラフトまでに各球団のスカウトとの面談が許される。12球団から調査書の提出を求められた真鍋は、4球団との面談に臨んだ。

 これまでの故障歴の有無など、調査書に記載する内容の深堀りが主だったが、ある球団は「どんな打者になりたいか」と尋ねたという。それに対する真鍋の回答は「本塁打が打てて、なおかつ打率が残せる打者」だった。

会議当日…「一応、4位までは見よう」

 そうして10月26日を迎えた。多くのメディアが、会見場である広陵の校内の会議室に詰めかける。指名の瞬間をとらえようと、何台ものテレビカメラが真鍋と中井監督にはりついたが、歓喜の瞬間は訪れなかった。

 念のため、設定した順位の一つ後の4位指名まで会議を見届けた後、会見場を退出した。真鍋が振り返る。

「指名が始まった後も、一喜一憂せず、淡々と見守れていたと思います。(4位指名まで確認したのは)中井先生から、『一応、4位までは見よう』と。引き上げた後すぐに『絶対4年後、見返してやれ』と言っていただきました」

 その後、寮に戻って夕食を摂った後、グラウンドに隣接する室内練習場でティー打撃に励んだ。夕食のメニューやティー打撃のトスアップを買って出てくれた選手を「思い出せない」のは、切り替えていつも通りの日常を過ごしたからだろうか、それとも“心ここにあらず”だったからか――。回想する真鍋の横顔だけでは、判別できなかった。

〈つづく/「本人が語る“指名漏れ”その後」〉

―2024上半期 高校野球部門BEST5


1位:まさかのドラフト“指名漏れ”真鍋慧がいま明かす「なぜ順位縛りを選んだ?」スカウトと面談、名前が呼ばれない当日…退席後の“ウラ話”
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3位:センバツ“ガラガラ空席”問題「ちょっと悲しいですね」「僕が営業マンだったら気にするんでしょうけど」現地で聞いた本音…“春の甲子園”で何が?
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文=井上幸太

photograph by Kota Inoue