2023ー24年の期間内(対象:2023年12月〜2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。サッカー部門の第1位は、こちら!(初公開日 2024年2月21日/肩書などはすべて当時)。

「ちょっと危なかったですね。僕も『大丈夫かな?』と思いましたけど、ギリギリ……(大丈夫だった)。タックルを受けた場所がちょっと違ったので良かったです。試合中、気にしながらやってましたけど、なんとかできたので良かったです。(当たった箇所は)膝のちょっと上ぐらいでした」

 ブライトンの三笘薫は試合後にこう話し、安堵の表情を浮かべていた。2月18日に行われたシェフィールド・ユナイテッド対ブライトン戦。この試合で先発出場した三笘は、相手選手から極めて悪質なタックルを受けた。

「What?(何が問題なんだ?)」

 問題のシーンは、試合が始まったばかりの前半11分に発生した。シェフィールド・UのCBメイソン・ホルゲイトの仕掛けたタックルが、日本代表の足を直撃した。うずくまって動けない三笘と、「What?(何が問題なんだ?)」とシラを切るホルゲイト。当初、主審は警告のみを与えたが、VAR判定でホルゲイトに一発退場を命じた。

 記者席のあるメインスタンドからはちょうど反対側、つまりバックスタンド側で発生したことから、筆者もすぐには事態を掴めなかった。タックル後、最終ラインで一部始終を見ていたブライトンのCBのルイス・ダンクとヤン・ポール・ファンヘッケが「何をしやがるんだ!」と言わんばかりに、ホルゲイトの元に猛然と詰め寄ったことから、ただならぬ事態が起きたことだけは分かった。

 リプレーを確認すると、選手生命を潰しかねない非常に危険なタックルであると分かった。ホルゲイトはスパイクの裏を見せた状態で足を不必要に高く上げ、両足でジャンプしながら飛び蹴りを入れていた。ホルゲイトの足は、三笘の左膝上あたりから太ももを直撃。もし三笘が、左足に重心をかけていれば、重傷を負っていた可能性が高い。

英国でも怒りの声「今季一番酷いタックルだ」

 ハーフタイムのプレスラウンジでは、ホルゲイトの蛮行に怒りの声が聞かれた。

 クラブ広報のチャーリー・ハンソン氏が「信じられないほど危険なタックル」と憤れば、スポーツサイトの「ジ・アスレティック」で番記者を務めるアンディ・ネイラー記者も「VARが介入して退場になって良かった。VARが公正に裁いた」と声を上げた。プレスラウンジで問題のシーンがリプレーで流されると、ホルゲイトのタックルはあり得ないといった様子で、シェフィールド・Uの番記者が首を左右に振っていたのが印象的だった。

 衝撃的なタックルは、試合後も大きな波紋を呼んだ。英BBC放送のサッカーダイジェスト番組「マッチ・オブ・ザ・デイ」でも、問題の場面がこの試合のトップ項目として特集された。

 番組の司会者が「ミトマが怪我をしなかったのは本当に、本当に幸運でした」と語り始めると、元イングランド代表FWアラン・シアラー氏は深刻な表情を浮かべて次のように語った。

「ホルゲイトのタックルはあまりに酷いし、本当に恐ろしい。レッドカードであるのは明白だ。試合序盤のこのタイミングでボールを奪い、相手を圧倒したかったのだろう。しかし彼は完全に間違っている。ボールに触れていないし、足の位置があまりに高すぎる。気が遠くなるほど危険だ」

 現役時代はエバートンでプレーした解説者のレオン・オスマン氏も厳しい顔で同調する。

「ミトマが試合を続けられたのが信じられない。それほど危険なタックルだった。これほど酷いタックルはあまり記憶にないし、少なくとも今シーズンの中では一番酷い。なぜ、ホルゲイトが試合序盤にこんな恐ろしいタックルを必要としたのか。私には理解できない。危ない場面でも、危険なエリアでもなかった。間違いなく言えるのは、ホルゲイトはミトマに対し、キャリアを脅かすほどの危険にさらしたということだ」

「骨折していた可能性もある」

 プレミアリーグは伝統的に当たりの激しいリーグだが、ホルゲイトのタックルは「闘志」や「激しさ」の意味を完全に履き違えた愚行でしかない。英ラジオ局「トークスポーツ」でも、三笘へのタックルが問題視された。

 現役時代はアーセナルでプレーしたペリー・グローヴス氏は「100%、レッドカード。一体ホルゲイトは何を考えているんだ? 無謀なタックルだったし、高く上げた足も制御できたはず」と声高に訴えた。その一方で、「ミトマはよくやった。彼はタックルが来るのを察知し、うまく切り抜けた。足が地面についていたら骨折していただろう」と三笘の対処を褒めていた。

 イングランドでは、危険なプレーでの一発退場の選手に科せられる「3試合の出場停止処分」を超える厳罰を求める声がある。トークスポーツでも「こんなにも悪質なタックルなら最低でも10試合の出場停止処分を科すべき。あれは犯罪だ」と訴えるサッカーファンの声を紹介した。

相手オウンゴールを誘発

 悪質なタックルを切り抜けた三笘はその後、鬱憤を晴らすかのようにキレのいいプレーを見せた。

 前半24分にはファーサイドに飛び込み、滑り込みながらシュート。GKが弾いたところをダニー・ウェルベックが押し込み、三笘はゴールに導いた。後半30分にも左足のクロスボールで相手のオウンゴールを誘発。5−0で圧勝した試合で、2つのゴールに関与した。

 その他の場面でも三笘は見せ場を作った。

 前半29分には左サイドで鋭く切り返し、いわゆる反発ステップ(※相手と対峙した状態から、相手の重心を見て素早く切り返し、スピードのギアを入れて抜き去る形)で突破。角度のない位置からゴール前にクロスを入れた。

 左サイドから中央にえぐってシュートを打ったり(後半16分)、味方のクロスボールにダイレクトで合わせたり(後半22分)と、敵地まで駆けつけたブライトンサポーターを大いに沸かせ続けた。試合後、三笘は充実感を漂わせながら試合を振り返った。

「点差をつけてからは、相手のカウンターのところだけを考えながらやってました。相手は前に出てくるパワーもなかったので、僕らはセカンドボールや、前に押し込んでいくことを意識していました。後半は相手もペースが落ちたので、こういう結果になるとは思ってました」

「みんな来てくれて嬉しかったです」

 三笘は、試合の最優秀選手賞である「Player of the Match」を受賞し、黄金のトロフィーを獲得。

 英紙「タイムズ」にはチーム最高点の9点、英衛星放送「スカイスポーツ」にも8点の高評価を与えられたが、向上心の高い三笘らしくまだまだ満足していないと語った。

「(記者:突破力も戻ってきたのでは?)いや、まだですね。 前回のトッテナム戦の方が良かったと思います。今日は試合展開的に楽でしたし、あれぐらいはやらないといけない。もっともっと得点に絡まないと。今日も絡んではいますけど、数字に表れていないので。ただ、チームが勝つことが一番大事。その上で、見ている人は見てくれていると思います。そこで評価してもらえれば嬉しいです。負けられない戦いが続いてるので、ここからが大事だと思います」

「(記者:角度のない位置からシュートを打った)ゴールのイメージはあるんですけど、まだまだ改善しないといけない。あそこを決めきれたら、まだまだ(その先に)何かあると思いますし。練習では入ってたりするんですけどね。試合で入らないですね、はい」

「(記者:オウンゴールの後、ブライトンサポーターが陣取るスタンドに向かってガッツポーズしていた)そうですね。ゴールに絡んだ形ではあったので。自分の存在意義を見せないといけないです。みんな来てくれて嬉しかったです」

「シェフィールドに“日の丸”がはためいた」

 実は三笘は、後半開始すぐのあたりから右の腰付近を気にする仕草を何度も見せていた。その影響で、後半31分に交代で退いた。本人によれば、腰の痛みは前半11分の悪質なタックルとは関係なく、試合前から痛めていた箇所が悪化したという。「元々ちょっと痛みがあったので、そこがちょっと出てきた感じです」と明かした。

 試合後、三笘は腰のケアと左足の治療で、取材エリアに遅れて登場した。そして囲み取材を終えてクラブバスに乗り込もうとすると、周辺から大きな歓声と拍手が沸き起こった。

 市内にはシェフィールド大学があり、外国人の留学生も多いという。街は英国中部のマンチェスターにもほど近いことから、この試合には多くの日本人、そしてアジア人が駆けつけていた。

 彼らが手にしていたのは小型の日本国旗。なかには「台湾・三笘」と書かれた日の丸を掲げる台湾人らしきファンの方もいて、バス周辺はちょっとした三笘フィーバーになっていた。

 卑劣なタックルに心を痛める一戦となったが、なにより三笘が無事であったこと、そしてブライトンのバス周辺で揺れるたくさんの日の丸を目の当たりにし、筆者は少しばかり心が安らいだ。

―2024上半期サッカー部門 BEST5


1位:「ミトマが骨折していたかも…」三笘薫への“悪質タックル”騒動…英国でも厳罰求める声「10試合出場停止すべき」現地記者が取材した“その後”
https://number.bunshun.jp/articles/-/861439

2位:「家にいたくない衝動で夜の街に…」伸び悩んだ天才パサーがお酒に逃げた理由を明かす…ガンバを背負うはずだった市丸瑞希の“心が折れた瞬間”
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3位:「ネイマールは孫悟空タトゥー」「ベジータ帽子のメッシ」鳥山明ドラゴンボールが“南米名選手に超愛される”日常…「日本語版も買ったよ」
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4位:「俺んち、泊まれば?」遠藤航に密着TVディレクターは見た…リバプールで愛されるまでの“壮絶な1カ月”「ファウルしないとかあり得ない」
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https://number.bunshun.jp/articles/-/861435

文=田嶋コウスケ

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