久保建英擁するレアル・ソシエダと、久保の前所属レアル・マドリーが今週末に対戦する。スペイン首都マドリードでエル・クラシコを含む同日の試合を撮影した日本人カメラマン中島大介氏がバルセロナの現状を含めてレポートする。(全2回の第2回/第1回も配信中)

 4月21日、久保建英が出場したヘタフェ対レアル・ソシエダ戦の撮影を終え、電車と地下鉄を乗り継ぎサンティアゴ・ベルナベウ・スタジアムを目指した。

 言わずと知れた“白い巨人”ことレアル・マドリーのホームスタジアムである。

 目的は、リーガ32節、レアル・マドリー対FCバルセロナ戦の撮影だった。この日は14時から久保、そして21時からクラシコと“ハシゴ撮影”になった。

 ヘタフェのスタジアムからベルナベウまで距離にして、たった15キロほど。マドリード市内には、リーガ1部クラブが、マドリー、アトレティコ、ラージョの3チーム。そして郊外都市のヘタフェや2部にはレガネスなど複数サッカーチームがあり、週末には必ずリーガの試合が行われる。

 チャンピオンズリーグ決勝で唯一、同都市ダービーを行っているサッカー都市としての底力だ。

マドリーの本拠がクラシコから“新形態”に

 通称エル・クラシコ――伝統の一戦――とも呼ばれるこのカードは、世界中から注目を浴びる。

 サッカーカメラマンにとって、撮影ポジション選びも大事なイベントとなる。ヨーロッパ中、世界の果てからもカメラマンが集まるCLの決勝やクラシコともなると、何時間も前からの場所取りも仕事の一つだ。

 とはいえハシゴ撮影のカメラマンに、撮影ポジションを選ぶ余地はない。

 むしろ遮蔽物なく撮影できるポジションが残っているのかさえ定かでなく、はやる気持ちを抑えスタジアムを目指した。

 住宅地と隣接するように、近代的な博物館のようでさえあるスタジアムが姿を現す。

 周辺ではまだ工事中の様子も感じさせるが、近年行われていた改修工事も最終局面に入っている。カメラマン用通路からピッチへ進むと、大型スクリーンが眼前に飛び込んできた。

 1週間ほど前には、CL準々決勝の対マンチェスター・シティ戦の撮影で訪れていたが、全く違った印象を受けた。

 それもそのはずで、スタジアム改修の目玉の一つである、スタジアム天井部を取り囲むように設置された360度ビデオモニターのお披露目がこのクラシコに当てられていたからだ。

“238億円の16歳”ヤマルは初先発に緊張どころか

 選手入場時には、貴賓席のバルサ会長ラポルタが思わず天井を眺めてしまっていたほど。

 またハーフタイムには、スポンサーであるエミレーツ航空の広告が流されたが、最新鋭の音響も相まって、まるで360度スクリーンに囲まれた映画館にいるかのよう。

 マドリーとバルサは、週中にCL準々決勝を戦い、全く違う結果を得てこの試合を迎えている。火曜日に試合のあったバルサは、ファーストレグのアドバンテージを活かせず、パリ・サンジェルマンに敗退。水曜日のマドリーは、前年CL覇者のシティに対して、延長の末のPK戦を戦い抜き、トーナメントを勝ち進んだ。

 また戦前、リーガ首位マドリーと2位バルサのポイント差は、8ポイント。バルサにとっては、首の皮一枚残すためには勝利しかなく、マドリーにとっては、直接バルサにトドメを刺せる決戦の舞台だった。

 マドリーはCLでのスタメンと比べると、ビニシウス、ベリンガムら主力こそいるものの、CLではサブだったモドリッチ等3人の変更が見られた。

 一方でバルサは、怪我から復帰したばかりだったペドリをサブとし、代わりにクリステンセンを入れた現状のほぼベストメンバーだった。

 また16歳のラミン・ヤマル――国際スポーツ研究センター「CIES」によると、1億4500万ユーロ(約238億円)の市場価値との発表もあった――がクラシコ初先発となったが、ピッチを取り囲みそびえ立つようにすら見える観客席を前にも全く緊張する様子など見せず、不敵な笑みさえこぼしていた。

バルサが先制、疲労困憊でもマドリーはマドリーだった

 選手入場時、選手はピッチより一段低くなった通路に集まり、互いに健闘を誓い合う。そして厳かなマドリーのイムノが流され始めると、数段の階段を登り光輝くピッチへと足を踏み出す。

 試合はキックオフからわずか6分、マドリーGKルニンがコーナーキックのボールを被ってしまうミスに、ファーサイドに詰めたクリステンセンが頭で合わせバルサが先制に成功。

 絶対に勝利が必要なバルサに対して、CLの激闘から中3日でこの試合を迎えたマドリーの疲労、そしてモチベーション不足を感じさせるほどあっさりとしたものだった。

 ただ、ここはサンティアゴ・ベルナベウ、数々の魔法の夜を作ってきた。

 7万8000人が見守るなかで、易々と負けるわけにはいかない。

 失点直後のビニシウスのあわや同点というシーンを皮切りに、マドリーも攻撃の圧を高め一進一退の攻防が繰り広げられる。

円熟の32歳バスケスの仕掛けに17歳新鋭CBが…

 そして18分、先発起用の右SBルーカス・バスケスが相対するカンセロをかわし、ボックス内ポケットへ侵入。冷静にゴール前を確認する32歳バスケスに対したのは、今季頭角を現し一気にレギュラーポジションを奪った17歳バルサCBパウ・クバルシだった。

 ベテランの仕掛けに対して、腰を落とし右足を最大限に伸ばして反応したニューカマー。

 バスケスの足がクバルシの足に引っかかり倒れると、審判は躊躇いなくPKのホイッスルを鳴らした。

 スロー映像を見れば、バスケスが一度引っ込めかけた足を再度かかりにいったようにも見えるが、カンセロのあまりにも軽い守備によってポケットでフリーにさせてしまった時点で勝負は決まっていた。

 与えられたPKは、ビニシウスがしっかりと決め試合を振り出しに戻すと、胸に刺繍されたエンブレムにキスをしてゴールを喜んだ。

バルサで輝く神童ヤマルと20歳フェルミン

 ハイレベルでチームとチームの対立が拮抗した時、勝負は局所局所での1対1の重要性が増してくる。ビニシウス対クンデ、モドリッチ対デヨング、レバンドフスキ対リュディガーと各国代表同士の熱い攻防が繰り広げられる。

 その中でも白眉だったのが、マドリー左SBに入ったカマビンガに対したバルサの神童ヤマルだった。カマビンガが本職ではなかったこともあるが、バルサの16歳は足元で受けてからのドリブル、パス、また裏への走り抜けと相手を翻弄してアウェーチームの攻撃を牽引した。

 バルサの2点目が生まれる起点となったのは、そのヤマルのクロスだった。

 後半に入って69分、サイドチェンジのパスをコントロールすると、左足からゴールへ向かう鋭いクロスを送った。走り込んだフェランはコントロールすることができなかったが、そのボールにGKルニンも弾き出すのが精一杯。こぼれ球に20歳フェルミンが合わせ、再度バルサがリードを奪った。

VARとデヨング負傷の不運で流れが変わった

 またヤマルは前半28分にも、コーナーキックから幻のゴールを決めており、クラシコ最年少ゴールをマークする可能性もあった。コーナーキックからヤマルのフリックしたボールが直接ゴールへ向かい、際どいところでルニンが弾き出している。

 ゴールラインテクノロジーが導入されていないリーガでは、VARによるジャッジが行われた。かなりの時間が費やされ、選手たちからは〈とにかくオンフィールドレビューに行ってくれ〉というようなジェスチャーも。

 後に公開されたVARの会話では、主審から選手たちに向かい「チェックしている、GLTはない」、またVAR担当者らとは「全く急ぐ必要はない、これは非常に重要な決定だ」、そして最終的に担当者から「ボールが入っているという証拠はない、コーナーキックだ」とも。

 逆にいえば、入っていないという証拠もなかったわけだが、ゴールは認められず。これが勝負の大きな分岐点の一つだったのは間違いない。

 さらにバルサにとって不運だったのは、前半終了間際に、攻守の要であり怪我から復帰したばかりのデヨングが、不慮の接触により、ピッチを後にせざるを得なかったことだ。涙を流しているような姿に、敵ながらもベルナベウのファンから拍手が送られた。

よくやったドロー…で終わらせないマドリーの勝負強さ

 試合はフェルミンのゴールからわずか4分後、左サイドいっぱいに開いたビニシウスからのクロスにバスケスが走り込みダイレクトボレーで再度同点へ。

 勝負は決しなかったが、見事なクラシコだった。バルサにとっては負けに等しい、マドリーにとっては優勝にさらに近づく大きな引き分け――皆がそう感じ始めていたはず。

 マドリーの選手たちを除いて。

 マドリーが疲弊していたのは間違いなかった。それでも白い巨人たちは最後まで勝利を求めた。

 91分、ベリンガムの一撃で勝負を決した。右サイド最前線まで走り上がったバスケスからのクロス。ゴール前を通過したボールは、ファーポスト付近でフリーとなったベリンガムの元へ。

 マドリーの3得点全てに絡んだバスケス、そしてバルサにとっての3失点全てに、相対したカンセロが関与してしまっていた。

 カンセロの守備に関しては、CLパリ戦での敗戦にも大きく関与しており、バルサが優位に立てるような試合での貢献に対し、CL決勝トーナメントやクラシコのような高レベルの戦いになった際に散見される、守備時の軽さが諸刃の剣となっている。

 ちなみに今シーズン、バルサホームで行われたクラシコでも、この試合と全く同じ前半6分にバルサが先制、後半アディショナルタイムのベリンガムのゴールでマドリーが逆転勝利を収めている。

若手主体のバルサと、円熟味を増すマドリーの好対照

 輝かしい将来性を感じさせる下部組織出身の若手達が主体となったバルサに対して、ベテランから若手までのバランスが取れ、円熟味を増すマドリーが1枚も2枚も勝ちにこだわるサッカーを見せる結果となった。

 バルサは現地時間25日、チャビ監督の来季続投を発表した。ジョアン・ラポルタ会長は「常にバルサの利益を見ている。チャビが継続するのは、非常に良いニュースだ」、チャビ監督は「全幅の信頼を受けていると感じている。選手たちからの協力とサポートも非常に重要だった」とそれぞれ語ったが――ヤマルを中心としたチーム作りを進めることができるかが今後の鍵になりそうだ。

 そしてマドリーは、この勝利でリーガ優勝をほぼ手中に収めた。週末には久保擁するレアル・ソシエダと対戦するが――ウェンブリーで行われるCL決勝進出をかけた、バイエルン・ミュンヘンとの準決勝が次なる焦点となる。

 終了のホイッスルが鳴ると、選手達はゴール裏サポーターと喜びを爆発させた。

 またスタジアムの外でも、サポーター達による一足早い「チャンピオン、チャンピオン」という喜びの声が上がっていた。

<第1回「久保撮影」編からつづく>

文=中島大介

photograph by Daisuke Nakashima