「オオタニが話すようになった」。今季からドジャースでプレーする大谷翔平はなぜ変わったのか。長年MLBを取材し現在はニューヨーク・タイムズ紙などに寄稿している米ベテランジャーナリスト、スコット・ミラー氏が明かす本音評。【全2回の1回目】

 メジャーリーグの開幕から1カ月が経った。日本人選手で最も注目されているのは、やはり大谷翔平だ。

波乱の開幕…不安視されたメンタル

 スプリングトレーニング中に突然の結婚発表で世間を驚かせ、韓国での開幕シリーズ中には元通訳・水原一平容疑者による違法スポーツ賭博スキャンダルも起こった。

「ショウヘイ・オオタニの周りでは常に何かが起こる」

 ミラー氏はそう笑いながら続けた。

「このシーズン序盤、MLBで誰よりも注目を集めたのがオオタニだったのは間違いないね。もちろん彼にとっては喜ばしくない注目のされ方もあった。長年にわたって通訳兼相棒だったミズハラがあのスキャンダルによって解雇されたことは、オオタニを取り巻く世界を確実に揺るがしたと思う。ただあの騒動についての対処の仕方は見事で、間違った対応や言動はなかったし、その中でも自身の関与がなかったことをはっきりさせたことが何よりも良かった。

 新天地で一歩を踏み出す期待の高まる時期だっただけに、スキャンダルがパフォーマンスにどれだけ影響するだろうかと多くの人が見ていたと思う。メンタル面はどうなのだろうかと不安視する向きもあった。しかしそれは杞憂に終わった。シーズン序盤のこの段階で、オオタニはすでに記憶に残るパフォーマンスをいくつもやってのけている」

エンゼルス時代から「何が変わった?」

 数字以外では、開幕からここまでの約1カ月でエンゼルス時代との大きな違いに驚いたという。

「エンゼルス時代より、メディアと話すようになった。チームメートのフレディ・フリーマンやムーキー・ベッツと比べたらまだまだかもしれないが、それでも以前より少しオープンになったと思う。メディア対応というのは意外と大事だから、いい傾向だ。特に、米国でも1、2を争うくらい多くのメディアが集まるドジャースのような人気チームでプレーする選手は、メディアに対してオープンになることが自身にとってもプラスになると思う。気軽に話ができるということは、チームの中でごく普通のメンバーの1人という印象を与えるからね。オオタニはチームの中で特別な存在ではなく、ワンオブゼムでありたいと思っているだろう。

 私は30年以上もMLBの記者を続けさまざまな選手を見てきたが、スター選手でもメディア対応の仕方は人によって違う。一番印象に残っているのは、ジャイアンツのバリー・ボンズが通算本塁打数で714本のベーブ・ルースや755本のハンク・アーロンの記録に迫っていたときのことだ。彼はめったにメディアと話さないことで有名だったし、話さないことも選手の正当な権利とでも思っていた節があるが、記録がかかっていたのでメディアが大勢取材にきていてクラブハウスが記者でごった返していた。ボンズがしゃべらないので他の選手がコメントを求められ、うんざりしていた選手もいてチーム内の雰囲気はあまりよくなかった。それを考えると、オオタニが今話すようになったのはいいことだし、そうあるべきだと思う」

なぜ変化? アメリカ記者はこう見た

 ドジャースに移籍してからの大谷のメディアに対する変化。そこにはどんな理由があったのか。米メディアの1人として、どう見ているのか。

「その理由については、実は米国でいくつかの噂がささやかれている。日頃からドジャースを取材しているメディアは、エンゼルス番記者たちよりもはるかに人数が多いし、図太くて押しが強いヤツがそろっている。クラブハウスにオオタニがいて話を聞きたいと思ったら、広報から取材の許可を取る前にまず話しかけるというのがドジャースの記者だから、同じロサンゼルスでも全然違う。この記者たちが球団にかなり圧力をかけたのではないかというのが、一つの可能性だ。

 もう一つささやかれているのは、誰かチームメートに助言されたのではないかということだ。オオタニの記事を書く必要があるときにオオタニがしゃべらないと、記者たちは他の選手にオオタニのことを聞きにいかなくてはならなくなる。オオタニは良きチームメートでありたいという意識が強い感じがするし、彼らに負担をかけないように自分が話す方がいいと考えたのではないか」

ドジャース広報は喜んでいるだろう

 エンゼルス時代は球団広報が大谷の意向を最大限に尊重していたように感じられたが、ドジャースとエンゼルスの違いについてはどう感じているのか。

「ドジャースの広報部は、オオタニが取材対応をするようになって喜んでいるだろうね。オオタニはもちろん、球団全体が株を上げたような感じになるから。MLBにとってもいいことだと思う。オオタニが何をし、何を考え、何を言うか、多くのファンが興味を持っているから。

 ドジャースという球団は、上から下まで組織すべてが一流だと評されている。野球界の中でも、間違ったことをしない球団。だからオオタニがドジャースに移籍してから、メディア対応が増えたことは驚きではない。エンゼルスの広報部はいい人たちだし親切だが、気難しいオーナー、アート・モレノの下ではどうしても二流組織からは抜け出せず、コストカットや見てくれにばかり気を使い、オオタニにはただやりたいようにやらせるだけだった」

 それでも、まだ大谷に対して辛口なメディアも存在する。米東海岸、特にニューヨークのメディアがそうだ。ヤンキースの試合の実況アナウンサーで、スポーツ専門局のESPNラジオでもパーソナリティーを務めているマイケル・ケイ氏は「ヤンキースのアーロン・ジャッジやフアン・ソトといったスター選手は、自分たちが活躍しなかった試合の後でもしゃべる」と大谷と比較して語り、ニューヨーク・ポスト紙のベテラン記者ジョン・ヘイマン氏は4月25日付の記事で「オオタニは過去最大級の、最も記事になり報道される選手。しかし我々は依然として、彼の成績と野球愛の強さ以外は何ひとつ彼について知らない」とし、大谷へのアクセスが依然として限られていることに苦言を呈していた。実際、そう考えている米メディア関係者は多いのだろうか。

手厳しいニューヨーク…なぜ?

「確かに、オオタニよりもっとオープンにメディアと話すスター選手もいる。記者との言葉のやり取りを楽しむタイプの選手もいるからね。でもそれは、それぞれの性格にもよるし、環境にもよる。ヤンキースのジャッジやソトはとてもフランクに話をするが、それは彼らがニューヨークでプレーしているからというのも大きいと思う。メディアの数もファンの数も球界トップなので、しゃべらないという選択肢は彼らにはないといっていいかもしれない。

 オオタニはそこまでオープンになる必要はないと、個人的には思う。選手それぞれ、負担を感じない程度にやっていく方がいいのは当然だ。彼が投手として復帰してまた本来の二刀流に戻ったら、やるべきことがその分増えるし投打両方で成功するためにルーティーンは大事になるので、メディア対応が減っても理解されると思う」

 手厳しくも、東海岸はニューヨークのメディアから言及される事実が、大谷の存在感を示している。ではここまでの成績はどう評価されているのか。大谷に加えて、山本由伸、今永昇太、松井裕樹の「採点」を聞いた。

〈つづく〉

文=水次祥子

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