日本代表やJリーグといったフットボールについて、日本通のチアゴ・ボンテンポ記者に“お世辞抜き”で論評してもらうシリーズ。今回は8大会連続での五輪出場を決めたU-23アジアカップ準決勝イラク戦の所感、そしてこの世代のアジア王者を懸けた決勝ウズベキスタン戦の展望についても語ってもらった。(全2回の第1回/第2回も配信中)

 ブラジルのスポーツメディアきっての日本通であるチアゴ・ボンテンポ記者(38)は、日本と日本文化を心から愛する物静かで温厚な青年だ。

 しかし、大多数のブラジル人と同様、ことフットボールになると人が変わる。冷徹な眼で起きたことを分析し、敵に対してはもちろんのこと、ひいきするチームに対しても歯に衣着せぬ批評、批判を展開する。

 そんな男が、U-23アジアカップ準決勝でイラクを2−0で倒してパリ五輪出場を決めたU-23日本代表については、珍しく(ほぼ)手放しで褒めた。

大岩監督、荒木を先発させてくれたね!

――まずは、この試合の日本の先発メンバーについて。

「大岩剛監督は、やっと荒木遼太郎(FC東京)を先発させてくれたね! 僕は大会前から『攻撃的にプレーするなら、中盤の構成は藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)、松木玖生(FC東京)、荒木が理想』と言っていたんだけど、これまでの流れから、万事に慎重な大岩さんは彼を先発させないものと思っていた。

 何が何でも序盤に先制して、試合をきっちりコントロールしたい、と考えたんだろうね。英断だったと思う。それ以外の先発メンバーは、予想通りだった」

――対戦相手のイラクは攻撃時は3バック、守備時は5バックでした。

「カタールとの準々決勝で日本が(延長を含めての120分間で)4点取ったのを見て警戒したのと、休養日が1日少ないというコンディション面のハンディを考慮して、慎重に試合に入ろうとしたのだと思う。でも、5バックになると中盤で選手が足りなくなるから、藤田がほぼ常に前を向いてボールを持つことができた」

――前半10分、中央で藤田からの縦パスを受けた荒木が視界の外にいたはずのCF細谷真大(柏レイソル)へつないだが、GKと1対1になった細谷が決めきれなかった。

「彼には失礼だけど『やっとカタール戦で点を取ったのに、また大会序盤の細谷に戻ってしまったのかな』と思ってしまった(笑)」

荒木の2点目を“日本らしい”と絶賛した理由

――ところが、28分、今度は藤田からのロングパスを受けて抜け出し、見事なトラップでボールを前へ運ぶと、スムースにターンしてマーカーをかわし、GKの動きを見定めてファーサイドへ流し込んだ。

「細谷らしからぬ……と言ってはこれまた失礼だけど、実に見事なゴールだった」

――イラクは、日本より休養が1日と数時間短かった。その影響はあったと思いますか?

「かなりあったと思うね。イラクの選手は足が重そうで『最初から飛ばすと息切れするから、前半は何とか耐えて後半勝負』という意図が明白だった。でも早い時間帯に先制を許して、そのプランが崩壊した」

――日本はその後も中盤を支配。前半42分、左サイドで大畑歩夢(浦和レッズ)が相手ボールを奪い、中央でパスを受けた藤田がワンタッチで前の荒木へ。イラク守備陣の間を抜け出した背番号13が落ち着いて決めた。

「粘り強い守備、的確な状況判断と優れたテクニックから生まれた、いかにも日本らしい得点。見事だったね」

ここまでのベストゲーム?もちろんだ!

――後半にも決定機があったが、山田楓喜(東京ヴェルディ)と細谷のシュートがポストに嫌われた。

「どちらも惜しかったね。ここで追加点を取れていたら、さらに楽になっていた」

――その後、イラクも反撃した。

「危ない場面もあったけど、日本は前線の選手を含むチーム全員で守った。日本選手は欧州やJリーグで経験を積んでおり、精神的な逞しさも感じた」

――この大会で、ここまでのベストゲームでしょうか?

「もちろんだ! これまでの試合ではUAE戦が最も良かったが、あの試合を大きく上回った。大岩監督のゲームプラン通り、前半に先制して試合をコントロールし、さらに追加点を取った。後半も、多少のピンチこそあったものの、そういうことはいつの試合でも起きる。総じて、日本が常に能動的、主体的にプレーしていた」

MVPは誰が見ても藤田。頑張ってほしいのは藤尾と佐藤

――この試合の日本のMVPは?

「誰が見ても、藤田だろうね。状況判断が秀逸で、守備、ボールキープ、ドリブル突破、そして決定機を生み出すパスと、すべての点で文句の付けようがなかった。ただし、ほぼ常にフリーでボールを持たせてもらえていたのは事実。イラクの中盤の守備がルーズだったことを忘れてはいけない」

――その他の日本選手で評価できるのは?

「攻撃では荒木、細谷。守備では、いつもながら安定していてミスが少なかった高井幸大(川崎フロンターレ)と木村誠二(サガン鳥栖)のCBコンビ、豊富な運動量を発揮した左SB大畑、左ウイングとして攻守に奮闘した平河悠(町田ゼルビア)だね」

――もう少し頑張ってもらいたかった、という選手は?

「この大会でまだ得点のない藤尾翔太(町田ゼルビア)と佐藤恵允(ブレーメン)。藤尾の場合は、準々決勝のカタール戦で決定機を二度外したのが精神的に響いているのかな。今大会、日本の選手はミスをしても下を向かず、がむしゃらにプレーしてミスを帳消しにする逞しさを発揮してきた。藤尾にも、決勝でここまでの借りを返してもらいたい」

――ただ、藤尾がゴールを決められなかったせいでカタール戦は延長へもつれ込み、それまで不振だった細谷と内野航太郎(筑波大)が得点する、という“ご利益”がありました。

「そうなんだよね。GSで韓国に敗れたお陰で手強いインドネシアを回避でき、藤尾が決め損ねたお陰で細谷が目を覚ました。この大会、日本にはツキがあるね(笑)」

西尾投入はチームの団結を高めるためだろう

――試合終盤、大岩監督はGS中国戦の前半17分に相手選手の挑発に乗って肘打ちを見舞い、退場処分を受けてチームを窮地に陥れた西尾隆矢(セレッソ大阪)を投入。左SBのポジションで起用して逃げ切りを図りました。守備の選手では鈴木海音(ジュビロ磐田)もいたのですが、監督があえて西尾を入れたのはなぜだと思いますか?

「チームの団結を高めるためだろうね。彼がプレーしたのはほんの数分で、今度は何も起こらなかったのは幸いだった(笑)。監督が西尾を起用したことは、彼自身にとってもチームにとってもプラスになったと思う」

――西尾のパリ五輪最終メンバー入りは厳しいでしょうか?

「いや、そんなことはないと思うよ。DFにはオーバーエイジの選手が入る可能性が高いから競争が激化するけれど、今後、クラブで良いプレーを続ければパリへ行ける可能性は残されていると思う」

 休養日が1日多かったというアドバンテージとイラクの守備戦術の失敗があったとはいえ、日本は順当に勝利を収めた。次に、決勝で対戦するウズベキスタン、そしてパリ五輪本戦に選出されそうなメンバーについて彼の分析を聞くと、このように切り出した。

「数字だけ比べたら、ウズベキスタンが圧倒的に有利だね。でも……」

<つづきは第2回>

文=沢田啓明

photograph by NurPhoto/Getty Images