名門チームには全世界から注目される反面、だからこその難しさもある。そのひとつが、少しでもうまくいかなくなると変化を求める圧力が各方面からのしかかってくることだ。

 NBAの名門チームのひとつ、ロサンゼルス・レイカーズに所属する八村塁は、そんなプレッシャーがかかる環境のなかでやりがいを見つけ、手応えを感じて、NBA選手としての5シーズン目を過ごした。

「僕らはまだ1年半しか一緒にやっていない」

 去年、ウェスタン・カンファレンス決勝でデンバー・ナゲッツに敗れたときに、八村はナゲッツの強さはチームの継続性から来るものだと痛感していた。同じスターティングメンバ―で試合を積み重ねてきたナゲッツの結束力を相手に、レイカーズは1勝することもできなかった。

 あれから1年たち、今年のプレイオフ1回戦で再びナゲッツと対戦することになった。レイカーズも、1年前よりは継続性のあるチームのはずだった。実際、最初の4試合では試合時間の7割以上でリードを取ることはできたのだが、勝負どころで差が露呈し、1勝しただけでまたも敗退した。

 ナゲッツとのシリーズ終盤、ナゲッツのようなチームの継続性がどれだけ大事なのかを力説する八村に、番記者のひとりから質問が飛んだ。

「レイカーズのようにまわりから大きな期待がかかるチームでは、期待に応えられないとふつう変化が起こるものですけれど、もしこのグループがこのまま継続し、もっと長くいっしょに経験を積んでいったらナゲッツのように戦うことができると思いますか?」

 間もなく終わるシーズン後の変化を見据えての問いかけだった。

 これに対して八村は「自分はそう思います。僕らも才能ある選手は揃っていますし、その点ではどのチームにも負けません」と断言。さらにこう続けた。

「僕らはまだ1年半しかいっしょにやっていないので、あとはチームとして戦う経験を積むだけです。確かにビッグマーケットのチームで他とは違うし、常に多くの変化がありますけれど……」

 大都市にある名門チームの宿命に対して抗い、祈るようなコメントだったのが印象的だった。

 その3日後、レイカーズはシーズン終了を迎えた。1年前よりは戦えたという手応えはあったが、それでも同じナゲッツ相手の敗退。何より、開幕前に優勝を目指していたチームにとって1回戦負けは期待外れの結果だった。

 そして、シーズン終了の4日後にはヘッドコーチのダービン・ハムと、アシスタントコーチが全員、解任となった。解任になった中には八村が信頼し、彼の成長の大きな助けとなっていたコーチ、フィル・ハンディも含まれていた。

あのレブロンにも移籍話が!?

 望もうと望むまいと、変化は訪れる。今オフにはまた何人もの選手が入れ替わることだろう。補強のために八村がトレードで出される可能性すらある。レイカーズでの八村の兄貴分的な存在であるレブロン・ジェームズは、今オフには自ら契約を打ち切る権利を持っている。今のところチーム残留の可能性が高いと見られているが、それでも引退や、他のチームへの移籍の可能性がゼロとは言えない。

 プレイオフ最終戦後、レイカーズからレブロンがいなくなる可能性について聞かれた八村は、少し驚いたような表情を見せ、「それは考えたこともなかったです」と言った。レブロンとは去年夏に共にワークアウトをし、シーズン中も、コート上だけでなく、オフコートでも色々な話をして多くのことを学んできた。その日々に対する感謝の思いがこみあげてきた。

「彼はあまり他の人といっしょにワークアウトはしないそうなので、それだけの時間や労力を僕に対して注いでくれたことにとても感謝しています。彼からは多くを学びましたし、学んだことを今シーズンやることができました。間近で見て、いっしょにワークアウトをしたことは自分にとって自信となりました。シーズンを通して、僕と彼のケミストリーは去年よりずっとよくなったと思います。彼のバスケットボールIQの高さも見ることができましたし、彼の旅路の中でいっしょに過ごすことができ、いっしょにプレーすることができたのはとても光栄なことでした」

 NBA5シーズン目の今シーズン、八村はプレイオフチームのスターターとして勝利に貢献できる選手であることを証明した。去年7月にレイカーズと交わした3年5100万ドルの契約に価する選手であることも証明してみせた。

 シーズン前半こそ故障続きでリズムをつかめなかったが、2月3日にスターターに定着すると勝利に貢献。終盤戦にチームが22勝10敗、勝率69%の好成績で順位を上げ、プレイオフの座を獲得する原動力となった。

 個人的にも昨季のプレイオフから成功率を上げていた3ポイントショットをシーズン通して高確率で決め、リーグ12位の42.2%の成功率を残した。レブロンやアンソニー・デイビスにディフェンスが集まるのにあわせたオフェンスで、3ポイントを決め、ディフェンスの動きを見てドライブインし、サイズの小さい選手にマッチアップされているとポストアップし、オフボールでゴール下に入り込み、効率よく得点をあげていった。

 個人プレーだけでなく、チームの中での攻撃力にも磨きがかかった。弱点でもあったディフェンスにも成長が見られ、相手のエースを守るように任されることも増えた。もちろん簡単なことではなく、チームメイトたちに助けられながら、それでもうまくいかないこともあったが、より大きな責任を担う中でチームから求められることに応えようと奮闘した。

「サラリーが上がれば責任もついてくる」

 3月、デイビスは八村の活躍についてこんなことを言っていた。

「彼には、サラリーが上がればそれだけ責任もついてくると言っているんだ。サラリーが上がれば、それだけの価値があるとチームが思ったところまでプレーのレベルを上げなくてはいけない。その点で彼はよくやっていると思う」

 サラリーが上がり、チーム内の責任が大きくなる中で自信をつけ、時に壁に突き当たり、まわりからの期待に応えようと努力し、それにともなう悩みも経験し、その中で成長したシーズンだった。

 成長はプレーだけではない。NBAで戦うメンタルもアップグレードしていった。

 たとえば、以前は口癖のように、「僕は何でもできるから」と言うことが多かったのだが、今シーズンは、「きょうはディフェンスがよくなかった」などと、反省点を素直に口に出すことが増えていた。チームとして、1人のNBA選手として高みを目指すためには、できなかったことを認め、反省し、次はもう少しうまくやろうとすることが大事だ。レブロンやデイビスら、トッププレイヤーを間近で見て学んだことのひとつだ。

 シーズンの最後にはまた大きな壁にぶつかった。プレイオフ1回戦でナゲッツから徹底的にスカウティングされ、自分らしいオフェンスができず、得点で貢献できない試合が続いたのだ。オフェンスがうまくいかない分、ディフェンスで何とかチームに貢献しようとしたが、ディフェンディング・チャンピオンのナゲッツを相手に苦戦することのほうが多かった。その対策として何を意識しているかと聞くと、八村は「チームとしてなおすことが大事」と答えた。

 自分の力を証明するためにどうするかではなく、チームが勝つためにどうしたらいいのか。その中で自分は何をすればいいのか──。NBAのローテーションプレイヤーとしての立場を確立し、優勝を目標に掲げるチームでたどりついた結論だった。

「変化のない安定した環境はない」

 シーズン後、個人としてさらにレベルアップするためにどうしたらいいかと聞かれたときも、八村はチーム第一の考えを口にした。

「どこのチームに行こうが、システムっていうのが大事だなっていうのもわかってきた。システムに合った自分の強み、弱みをわかって、そこを集中的に練習するべきじゃないかなと思いました。スーパースターとかオールスターになろうといろんなことを練習するよりも、チームのためになる、そういう練習をしていったほうがいいなというのは感じます」

 NBAという最高峰の世界で、頂点を目指しながらも変化のない安定した環境というのはほとんどないのかもしれない。それなら、その中で自分はどんな選手でありたいのか。それを考え抜き、トンネルの先に灯りが見えたような、そんなNBA5シーズン目だった。

文=宮地陽子

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