のちの世界王者との手に汗握る日本人対決か。「ノックアウト・オブ・ザ・イヤー」に輝いた秒殺KOか。フィリピンの閃光と作り上げた至高のドラマか。はたまた、悪童を粉砕した東京ドームの衝撃か。

 27戦27勝(24KO)。ボクシング界の“モンスター”井上尚弥の輝かしい戦歴のなかで、もっとも多くの支持を集めた“最高傑作”は、いったいどの試合なのでしょうか。

 Number Webでは「あなたが選ぶ『井上尚弥のベストバウト』はどの試合ですか?」というテーマでアンケートを実施。5月7日から12日にかけて、計744票が集まりました。前編ではランキング10位から6位までの結果を発表します。<後編では1〜5位の結果を公開中です>

10位 マーロン・タパレス戦 5票

 10位に選ばれたのは、井上尚弥がバンタム級に続いてスーパーバンタム級でも4団体統一を成し遂げたマーロン・タパレス戦。2階級での4団体統一はテレンス・クロフォードに次ぐ史上2人目、アジア人では初の快挙でした。

 試合はWBA・IBF王者のタパレスから4ラウンドにダウンを奪うも、ディフェンスに優れた相手をなかなか倒しきれない“焦れる展開”に。それでも10ラウンド、井上がガードの隙間から右ストレートをねじ込むと、ダメージが蓄積していたタパレスはたまらずダウンし、そのまま立ち上がることができず。難敵を真正面から打ち砕き、世界のボクシング史に残る偉業を達成しました。

「前人未到を成した試合! 快挙!」(54歳・男性)

「タパレスのディフェンス能力が非常に高く、前半から連打を打ち込めなかった。攻めに行った時にカウンターをもらい意識が一瞬飛んだが、その後に戦いを作り直してKOに持ち込んだ。私の中では一番の難敵に見えました」(46歳・男性)

「高度な駆け引きが最も多い試合だと思うからです」(34歳・男性)

9位 河野公平戦 6票

 9位は、井上にとって「最後の日本人対決」でもある河野公平戦です。元WBA世界スーパーフライ級王者で当時36歳の河野は、プロで40戦以上のキャリアを持つベテランボクサー。井上戦を迎えるまで一度もKO負けがなく、果敢なファイトスタイルと驚異的なタフネスで多くの名勝負を生み出してきました。

 妊娠中だった妻に「井上くんだけはやめて」と反対されながらも、覚悟を決めてモンスターとの一戦に臨んだ河野。ガードを固めて距離を詰め、5ラウンドには井上を攻め込むシーンもありました。しかし6ラウンド、井上の狙いすました左のカウンターで大の字にダウン。なんとか立ち上がったものの、連打を浴びてTKO負けを喫しました。それでも河野の奮闘は見るものの心を揺さぶり、ファンからも「敗者が輝いた試合」といった声が寄せられています。

「日本人選手が相手の試合の中で一番印象的」(25歳・女性)

「ただの勝敗だけではなく、崇高なファイトであったから。好試合は他にもあるけど、光り輝く敗者と言えるのはこの試合だと思う。敗者が一番輝いて見えた試合として選出しました」(59歳・男性)

「井上尚弥選手の動きはもう言うまでもなく素晴らしいのですが、河野公平選手の果敢に攻めて美しく負ける姿がカッコ良かった」(29歳・男性)

8位 田口良一戦 18票

「井上尚弥を最も苦しめた男」として知られる田口良一との日本ライトフライ級タイトルマッチが8位にランクインしました。スパーリングでプロデビュー前の井上に圧倒され、悔し涙を流したこともある田口。それでも日本王者としてプロ4戦目の井上を挑戦者に迎えた“本番”のタイトルマッチでは、チャンピオンとしての意地を見せつけます。

 判定で敗れはしたものの持ち前のテクニカルなボクシングを展開し、モンスターを相手にダウンを喫することなく10ラウンドを戦い抜いた田口。その後、井上戦の経験を糧に、WBA・IBFの世界ライトフライ級王座を統一する名チャンピオンへと上り詰めました。

「日本人選手同士で2人共、後の世界チャンピオン。井上尚弥の数少ない判定勝利の1つで力、技術、意地がぶつかり合った凄い闘いでした」(49歳・男性)

「絶対勝つという気持ちの強さ、チャンピオンの意地をこれでもか、というくらい見せてくれた。そして、倒れなかった。何度でも見返したくなる試合。勇気と感動を与えてくれた」(50歳・女性)

「日本人選手との対戦で最も苦戦した試合。その後の田口選手の活躍を見れば、最強の敵だったかもしれない」(63歳・男性)

「シンプルに良い試合でした。田口選手の絶対に負けないという気持ちが出ていて、もしかしたら勝てるかもと思わせるような内容でした」(54歳・男性)

7位 エマヌエル・ロドリゲス戦 27票

 7位に入ったのは、階級トップのボクサーが集うWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)バンタム級の準決勝としてグラスゴーで開催されたエマヌエル・ロドリゲス戦。この試合まで19戦19勝(12KO)というレコードを保持していたIBF王者ロドリゲスを相手に、井上は驚愕のパフォーマンスを見せつけます。

 試合前の公開練習で父・井上真吾トレーナーがロドリゲスのトレーナーに突き飛ばされるという因縁もあり、いつも以上に殺気に満ちていた井上。2ラウンド、右ボディからつないだ会心の左フックがロドリゲスのアゴを打ち抜き最初のダウンを奪うと、甚大なダメージを負った相手に強烈なボディを連打。2度、3度とダウンを追加し、わずか2ラウンド1分19秒で決着をつけました。

 ダウン中、試合の続行を拒むかのように首を振るロドリゲスの表情が、“怒れる井上尚弥”の恐ろしさを端的に表現していた――そんな見方をするファンも少なくなかったようです。

「階級最強の相手をわずか2ラウンドでKOした。ダウンしたエマヌエル・ロドリゲスが苦悶の表情で『もう無理』と首を振っていたのが忘れられない」(61歳・男性)

「1Rのハイレベルな攻防、2Rのモンスターの覚醒&エマロドのイヤイヤ首振りがもう最高すぎる!」(36歳・男性)

「当時、井上尚弥のキャリアで間違いなく一番強い相手に圧倒的な内容で完全勝利。ここから世界的な名声が爆発的に向上したと思うから」(33歳・男性)

「試合内容が本当に見ていて面白くて、スピードと手数で攻めてきたロドリゲスのパンチをさらに上回るスピードでガードしたり、かわしたり、カウンターで返したりしていて、機械のように正確で美しくて興奮しました。ロドリゲス陣営が井上尚弥をナメたり、父の真吾さんを突き飛ばしたりと試合前のストーリーがあったのもこの試合を面白くした要素だったと思います」(28歳・男性)

6位 ファン・カルロス・パヤノ戦 49票

 たった一度のワンツーで決着。漫画のような非現実的なフィニッシュを井上が実現してみせたのが、6位にランクインしたWBSS1回戦のファン・カルロス・パヤノ戦でした。

 側頭部に超高速の右ストレートを浴びたパヤノが仰向けに倒れ、KOに至るまでに要した時間はわずか70秒。井上が試合中に出したパンチの総数はたったの3発でした。元WBAスーパー王者を相手に軽量級とは思えない“一撃必殺”を披露したこの試合は、ボクシング界の権威『リングマガジン』が選ぶ2018年の「ノックアウト・オブ・ザ・イヤー」を受賞。投票者から寄せられた「最初のワンツーで失神KO。こんな試合は観たことない」(48歳・男性)、「生で見て、倒した瞬間会場の時間が止まるという謎体験をした」(36歳・男性)といった困惑気味のリアクションも、モンスターの凄まじさを物語っています。

「井上尚弥の最高のノックアウトシーン。史上最高のワンツーの座を争うほど完璧なワンツーを見ました」(38歳・男性)

「達人同士の真剣での果し合いのような試合。角度を変えて突き上げるようなジャブ、ややタイミングが遅れて試合を決めた、一瞬の閃きと反応で出したストレート。語り継がれるべき芸術品のような試合だと思う」(52歳・男性)

「衝撃のワンツー。最初のビッグパンチで終わりって、この試合こそ漫画以上の内容。自分でもビックリするくらいの声出して、うるさい! って嫁に怒られたのも忘れられない試合です(笑)」(49歳・男性)

 魂を揺さぶる名勝負から戦慄のKOまで、印象的な試合が並んだ10位から6位までのランキング。これらを抑えてベスト5にランクインした「井上尚弥のベストバウト」とは、いったいどの試合なのでしょうか。

<あなたが選ぶ「井上尚弥のベストバウト」1〜5位結果発表に続く>

文=NumberWeb編集部

photograph by Reuters/AFLO