2024年にスタートした新NISA制度では、対象の米国株や米国ETFも売却益・配当金にかかる国内の税金が非課税となる。しかし、米国株は国内株と売買手数料が異なるほか、為替手数料についても注意しておくべきだろう。「ただし、新NISAでは手数料を優遇するキャンペーンも多い」と語るのは、米国株投資の人気YouTuberであるロジャーパパさん。米国株投資における税と手数料の基礎知識と、優遇キャンペーンについて解説してもらった。
■投資にかかる「コスト」を理解しているか?
当然ですが、株式投資では、株価どおりの金額だけで証券会社と売買できるわけではありません。実際には、利益が出れば税金もかかります。さらに、売買の条件によって売買手数料がかかるだけでなく、外国株を売買すれば為替手数料が発生する場合もあります。

インデックスファンドを買うのであれば、「S&P500」など米国株のインデックスであっても、ファンドを運営しているのは日本の証券会社なので日本円で売買ができます。しかし、米国の個別銘柄株やETFを購入する場合は、日本の証券会社は仲介に過ぎないため、米ドルで購入することになります。そのため、円と米ドルの為替手数料がかかるというわけです。

「商いをしかけるとき、まずは損銀をつもるべし」

これは、江戸中期の商売の秘伝書『八木虎之巻』に記された米相場取引の格言とされています。「想定される利益に対し、どれほどの損失を生む可能性があるかも想定しておこう」という意味なのですが、まさに株式投資にもあてはまる格言だと思います。

株式投資において見込んでおくべき損失とは、株価の下落による損失だけではありません。あまりに利益の薄い取引や、細かな売買を行えば、売買手数料や為替手数料、税金による損失もネックとなり得ます。そこで今回は、ある程度の経験ある投資家でも忘れがちな、米国株を売買するうえでの手数料や税について理解していきましょう。

■NISAでも米国株への現地課税は免れない点に要注意
日本株やインデックスファンド、国内のETFであれば、一部の例外を除き、売却益や配当金に所得税・復興特別所得税・住民税で20.315%が課税されます。では、米国株ではどうかというと、米国のETFや個別銘柄株を売却して利益を得た場合、日本株と同じく20.315%が課税されます。つまり、米国株の売却益は米国で課税されません。

一方、配当金・分配金については、米国でも課税されます。まず米国で10%が源泉徴収され、その引かれた額に対して日本国内で20.315%が課税され、税率はトータルで約30%となります。ただし、これは二重課税となるため、確定申告をすれば「外国税額控除」で米国での源泉徴収分の全額、または一部の還付を受けることができます。

ここで注意しておきたいのは、NISAで米国株投資を行った場合です。NISAであれば、対象となる米国ETFや米国の個別銘柄株も、売却益や配当金・分配金が限度額の範囲で非課税となります。

ただし、NISAで非課税になるのは、日本国内の課税のみですから、米国株の配当金・分配金に対する米国での10%は課税されることになります。また、二重課税にはならないので、外国税額控除も受けることはできません。

ここでは米国株を前提に説明しましたが、その他の外国株でも現地の課税はNISAでも免れられないことを覚えておきましょう。

■新NISAのスタートで、米国株の売買手数料が無料に
続いて、売買手数料について説明していきます。国内株でも基本的に売買手数料は証券会社によって異なります。手数料を取るぶん、情報提供やツールなどで投資家のサポートに力を入れる証券会社もある一方で、ネット証券では売買手数料を無料にしている傾向があります。

また、売買手数料がかかる証券会社でも、NISAの場合は手数料を無料にするケースが多く、新NISAのスタートを機に、営業努力で口座開設数を増やす試みが見られます。

では、米国株の場合はどうでしょうか。国内株の手数料が無料のネット証券でも、基本的に米国株投資では売買手数料がかかります。しかし、国内株取引同様に、新NISAでは米国株取引でも手数料の無料化が進んでいます。

上記のSBI証券をはじめ、楽天証券、松井証券などのネット証券各社で、新NISAでの米国株取引(個別銘柄株、ETF)の売買手数料が無料化されています。

ただし、あくまで2024年からの新NISAで売買する場合に限定される、いわばキャンペーンに過ぎない可能性もあります。今後は手数料の規定が変更される場合もあるので注意してください。また、2023年以前の旧NISAで購入したぶんには、売却時の手数料がかかる場合もありますので、口座を開設している証券会社の手数料規定をよく確認しておきましょう。

そのほか、嬉しいことに、SBI証券では非NISAでも一部の米国ETFで買付手数料のみ無料化するキャンペーンが行われています(2024年3月3日現在)。新NISAを契機に、個人投資家を増やす機運があり、こうしたお得なキャンペーンが証券会社ごとに展開されることもありますので、アンテナを張っておくといいでしょう。

■ドルで資産運用し、為替手数料のコストをなくす
ここまで税金と売買手数料について触れましたが、「為替手数料」も米国株投資における重要なコストです。為替手数料とは、米国株投資では円とドルを交換する際に発生する手数料のことです。

みなさんが米国の個別銘柄株やETFを購入する際に、「円貨決済」と「外貨決済」の選択肢があらわれるはずです。

<円貨決済と外貨決済>
円貨決済……日本円で外国株式を売買すること。米国株であれば、買付の際に円をドルに交換する手数料が発生し、売却の際にはドルを円に交換する手数料が発生する。

外貨決済……現地通貨で外国株式を売買すること。米国株であれば、持っているドルで買付をし、売却時にはドルのまま口座に入ってくるため、為替手数料は発生しない。


「円貨決済」を選択すると、ネット証券では、売買の際に1ドルあたり25銭程度の為替手数料(1000ドルの買付であれば250円)がかかってしまうことがありますが、実のところ、為替手数料としては割高なのです。

メガバンクのインターネットバンキングでも1ドルあたり25銭〜50銭と為替手数料は割高ですが、ネット銀行なら為替手数料は割安です。例えば、GMOあおぞらネット銀行なら、1ドルあたり3銭、住信SBIネット銀行なら6銭など、低い手数料でドルの取引ができる銀行が存在します。

事前に投資資金をドルに替えて証券口座に入れて、「外貨決済」で米国株の買付を行うほうがコストは下がります。そして、売却時も「外貨決済」を選択し、ドルのまま売却益や配当金・分配金を口座で管理し、そのまま再投資を行えば、以降の為替手数料のコストはかかりません。わたしの場合も、基本的に米国株投資ではドルの外貨決済で売買をしています。

ただし、この為替手数料は米国の証券会社では、無料化がトレンドであり、日本の証券会社もネット証券を中心に無料化が進んでいます。SBI証券や楽天証券では、円貨決済だとしても、為替手数料は買付でも売却でも無料です。その他の証券会社でも、買付では無料であるなど、為替手数料を引き下げる動きが見られます。

為替相場の変動や需要によって、サービスやキャンペーンは見直されるため、随時、為替手数料はチェックするようにしておきましょう。

■新NISAの最大の注意点は、損益通算ができないこと
ここまで述べたように、米国株において、税金はNISAで免税、売買手数料と為替手数料は無料化がトレンドです。しかし、それらのコストがかかってしまう場合には、どれだけの額になるのかを取引の際に留意しておきましょう。

ただし、手数料や税が利益を完全に食い潰すということは、そうそうないはずです。少額で利益の薄い短期投資を繰り返していると利益に対する売買手数料の割合が大きくなり、さらに為替手数料や税が加われば損失に転じる可能性もなくはない程度です。

しかし、そうした綱渡りのような取引ばかりになる投資手腕なら、そもそも実力不足であり、投資のスタンスをあらためたほうが得策だと思います。

特に新NISAでは、成長投資枠で、米国の個別銘柄株にも非課税の投資ができるようになりましたが、これはビギナー投資家には注意が必要です。インデックスファンドへの積み立て投資や、米国ETFへの投資に比べてボラティリティ(株価の変動幅)が高く、大きな損失を生む可能性があります。

また、NISAでの損失は「損益通算」ができない点に注意が必要です。通常なら株式投資で損失が発生した場合は、確定申告で投資の利益と損失を相殺する「損益通算」ができ、株式による課税額を控除することができるのですが、NISAではそれができません。

そのため、新NISAで米国株投資をはじめた投資ビギナーは、個別銘柄株への大きな投資は避け、「つみたて投資枠」で長期的な資産形成をメインに行うことをおすすめします。

※本記事に書かれた内容は、すべて2024年3月3日時点の情報です。手数料などは変更される可能性があります。

構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム)、取材・文=吉田大悟