ドイツ・デュッセルドルフ在住でフリーアナウンサーの小山瑶さんが、現地で暮らすからこそ得られるディープで旬な情報を教えてくれる連載。アナウンサーそしてジャーナリストとしての視点を交え、ドイツの情報をいろんな角度からお届け。今回は日本滞在中に執り行われた、小山さんの結婚式にフォーカス。ドイツと日本の結婚式、ハレの日の違いについて、詳しく教えていただきました。

フリーアナウンサー 小山瑶の海外生活 in Germany
Epi.33「黒いドレスに右手薬指に指輪? 驚くべきドイツ特有の儀式とは?」

日本からドイツに戻り1週間が経ち、通常モードに。私にとっては1年ぶりの一時帰国でした。日本滞在は約2カ月間で、その間に結婚式を控えていたため準備期間として少し早く娘と一緒に日本に戻りました。日本の空気、食事、風景をたっぷり楽しめたので非常に充実した時間となりました。迎えた結婚式も無事なんとか執り行うことができ、私は2年ぶり、彼は3年ぶりに会った友人も多く、最高の思い出となりました。


 

ヨーロッパでは古くからJune Bride「6月に結婚する花嫁は幸せになる」という言い伝えがあります。かつて3月から5月まで農作業が盛んに行われる時期だったため、その期間中の結婚が禁止されていたそうで、その時期が終わった6月に結婚式をするカップルが多かったと言われています。さらに、6月のヨーロッパの天候は最高なんです! 夜9時過ぎまで明るいうえに、乾季のため雨の心配は日本ほどありません。一方で日本は梅雨の影響で結婚式の開催数が少ないことから、ヨーロッパの「ジューンブライド」にかけて、経営戦略として紹介されているのをよく目にしますよね。

英国式ロイヤル調のドレスにしたく、王道な形のウェディングドレスにしました。

結婚式前の伝統儀式
ドイツ流のイベントとは

結婚式の2、3週間前、ドイツでは伝統の独身パーティー、いわゆるバチェロレッテがあります。Junggesellenabschiedといって、友人たちとコスプレをして街を練り歩いたり、パブでお酒を飲んだり、食事をしたりとさまざま。街中の人々にお菓子を配り歩く人もいるそう。

bride to be(未来の花嫁)の飾りと共に。バチェロレッテパーティーの飾り付けを請け負うイベント会社もあります。

前夜にはPolterabendといったイベントが。日本語訳すると“陶器の夜”。文字通りで、新郎新婦が陶器を投げて壊すという儀式があるそう。地域によって異なりますが、これから結婚するカップルの幸運の兆しとして行われるようです。破壊力が大きい、すなわち投げた陶器の破片が小さければ小さいほど幸せになれるそうですよ。その後の清掃はもちろん新郎新婦の仕事。

面白おかしく、楽しそうに投げる様子が見られます。片付けはしっかりその日のうちに。

結婚式の前に行われる行事は、日本だと結納式を指すのでしょうか。振袖を着て行う方も多いですよね。結婚後、振袖は一般的に着ることができなくなるので、日本でいう特別な儀式と言えるかもしれませんね。私は洋館で顔合わせしたためドレスだったのですが、今更ながらあの時着ればよかったかなと、ちょっぴり後悔しています。ドイツに来てから日本の着物文化のよさを改めて感じています。

私はコロナ禍での両家顔合わせ兼結納式だったため、少人数で洋式で行いました。

結婚指輪は右手?
ドイツと日本の違い

日本では一般的に結婚指輪を左手に付けますが、なんとドイツでは右手! 婚約指輪は左手のようですが、結婚した後は右手に付けています。ローマ時代、右手が名誉と信頼の象徴だったことから、その名残で右手につけるんだとか。確かに多くのドイツ人が右手に指輪を付けているのを目にしていて、ずっと不思議に思っていました。婚約指輪も結婚後は右手に付けるのが一般的なようです。


 


さらに日本ではプラチナを用いたリングが一番人気ですが、ヨーロッパではイエローゴールドやホワイトゴールドが主流です。私もドイツのブランドで結婚指輪を購入しましたが、プラチナは主流ではないとお店の方が話していました。

ヨーロッパ式のホワイトゴールドを選択。形がユニークで、日本ではなかなか見かけないデザインに一目惚れ。

式中のイベントとして、Baumstammsägenという、丸太を新郎新婦で一緒に切る伝統儀式もあります。新郎新婦が力を合わせて切ることができたら悪霊を追い払い、幸運になると言われているそうです。ドイツ語でBraut Strauß 、いわゆるブーケトスは、日本と同様ほぼ半数の花嫁が行うそうです。ブーケトス用の花束には幸運を呼ぶと言われている、マートルの枝を追加するところも多いそうですよ。


 


また、最も人気のあるイベントとして、Hochzeitsstreiche が挙げられます。これは列席する友人たちが、新婦に対してさまざまな悪戯をすることです。たとえば家の鍵を隠したり、ウェディングカーにひたすらトイレットペーパーを巻き付けたり。目覚まし時計を30分に1回設定したりとさまざまで、友人の創造力によって変わるそうです。

ラップでぐるぐる巻きにされた車も、なんだか微笑ましい光景。他にも寝室ベッドの上に乾いたえんどう豆を大量に敷く悪戯もあるそうです。

日本の結婚式では列席者から現金の入ったご祝儀袋をいただきますが、ドイツも同じように現金を新郎新婦に払う習慣があります。仲の深さにもよりますが、€50〜€200の相場となっています。


 


また、日本ではウェディングケーキは白のイメージが一般的ですが、ドイツではそんなこともなく、ドイツの南東部ではチョコレートベイクドケーキが主流だそう。なかにはバターケーキで可愛く装飾されているケーキも人気のようです。

私たちの結婚式はシュガークラフトケーキで、ロイヤル調の3段ケーキにしました。日本では白いケーキが主流ですよね。

結婚式の装花のイメージはシチリア。彼の好きな旅先がシチリアだったので、生のレモンを使ってもらって、シチリアを彷彿させるような装花にしました。

シチリアはこんな感じのイメージ。ドイツのお店でもシチリアをモチーフにディスプレイしているところもちらほら。同じヨーロッパといっても憧れてしまう場所です。

風変わりなドレス事情
黒のウェディングドレス?

1800年前半までドイツでの結婚式の花嫁のドレスは黒で、白いベールが主流だったそう。1800年代後半にヴィクトリア女王が公式の喪の色として黒を選んだことから、それ以降は白が一般的となったそうです。新郎は通常通りタキシードが主流だとか。また、ドイツの結婚式は日本の結婚式と違って、お色直しや色掛け、カラードレスに着替えることは特にありません。

個人的な話にはなりますが、お色直しにはグリッドのキラキラしたドレスを選びました。それに合わせてブーケもチェンジし雰囲気をガラッと変えました。

日本では列席者にお礼の品として引出物を贈りますが、ドイツでも似たような文化があります。贈り物として多いのが、絵付けされている陶器や、食べ物だとジンジャーブレッド、プレッツェルが多いようです。

列席者の名前をジンジャーブレッドに書いて札代わりにするという粋な計らいをする結婚式もあるそうです。プレッツェルは3つの穴がイエスキリストの三位一体を象徴しているとされます。

日本ではお皿やタオルなどの大きなものの他に、引菓子、縁起物といった3点セットが一般的。最近はギフトカードを贈り、自分たちで好きなものを購入できるスタイルもあります。私はドイツと、以前の職場だった山形で取材でお世話になった方へお渡しする品はどうしても直接贈りたかったので、とてもこだわりました。


 


お皿はドイツ・バイエルンの陶器ブランド、NachtmannとHutschenreutherの定番、エステール。ブルーの絵付けが細かく、美しい一品です。

ドイツのクリスタルガラスブランド、Nachtmannの定番、ボサノバのガラスボウル。本当はグラスがよかったのですが、日本国内在庫がなく、このボウルにしました。この柄がおしゃれで気に入っています

引菓子は、サブレミシェルのドイツ缶。他にも各ヨーロッパ、ハワイ、日本など各国のサブレ缶があるので、ぜひチェックしてみてくださいね。

サブレ缶は、ドイツの名城ノイシュヴァンシュタイン城。新作を用意してくれました。1枚ずつドイツがモチーフになっています。

縁起物は、山形県東根市にある老舗食品店の壽屋寿香蔵の梅酢に。こちらのお店は以前、私が担当していた番組で取材させていただいたことをきっかけに、イベントがあるとこちらの看板商品の「茜姫」を手みやげとして購入していました。今回も壽屋さんのおいしい商品を列席者の皆さんに伝えたいと思い、特別に用意していただきました。日本に一時帰国中に見つけて、これにしたい! と希望しました。

炭酸やお酒で割って飲むととても美味しいです。在庫が少なく完売になることも多い商品。

そんなこんなで私の結婚式は、節々にドイツやヨーロッパを感じてもらえるようなコンセプトの式になりました。考えに考えた過程はとても大変でしたが、無事に執り行うことができました。久しぶりに会った友人や家族に見守られながらの式となり、さらには生後5カ月の娘つきというファミリー婚となり終始賑やかで、忘れられない素敵な思い出となりました。


 


今回は私の結婚式とドイツの結婚式を組み合わせて、ハレの日の文化についてお話しさせていただきました。次回もお楽しみに!


 


Bis dann!!!

text : HARUKA KOYAMA