「子どもに良い人生を歩んでもらいたい」という思いが強く、つい色々なことに口を出してしまっていませんか? 子どものための行動でも、実は逆効果になっているかもしれません。一般財団法人日本キッズコーチング協会理事長の竹内エリカさんが解説します。

※本稿は、 竹内エリカ著『心理学に基づいた 0歳から12歳 やる気のない子が一気に変わる「すごい一言」』(KADOKAWA)から、一部抜粋・編集したものです。


勉強してほしいとき

× 勉強しないといい学校に入れないよ
〇 勉強するとこんなにいいことがあるよ

・「『勉強しなさい』はあなたのため」は子どもの反抗心を刺激する
子どもに勉強させたいと思ったとき、「勉強しないといい学校に行けないよ」「あなたのために言ってあげてるのよ」のような声かけをしてしまうことがありますね。

それに対して「別に行けなくてもいいもん」「そんなこと頼んでないのに」などと返事が返ってきたら、子どものためを思って言っている親としては悲しくなります。

なんとか子どもの心に響くように伝えたい。そう思うから、それらしい理由を並べて、さらに説得しようと意気込んでしまうものです。実はこれもまた、子どもの反抗心を刺激する要素になりうるのです。

勉強の大切さを理解してもらおうと論理的に「説得」すればするほど、子どもの反抗心を刺激すると言われています。この現象を「ブーメラン効果」と呼びます。

ブーメランをご存じですか? 「く」の字形をした木製の飛び遊具です。ブーメランは目標に向かって投げ、命中しない場合は戻ってきます。遠くに投げようと思えば思うほど、逆に勢いを増して戻ってくるブーメランのように、説得しようとすればするほど相手は自分に反発するようになるというものです。

親の思いが強いほど、子どもは逆の行動をするようになるということ。「勉強してほしい」と思ってかけた言葉が、相手の心に届かず、子どもは勉強したくなくなるという逆の効果をもたらしてしまうのですね。それがブーメランの特性と似ているためこう呼ばれています。

それでは、説得をせずに子どもの心に響かせるには、どのような声かけをしたらいいでしょうか。

意識してほしいのは、「◯◯するとこんなにいいことがあるんだよ」とポジティブな未来のイメージを伝えること。それにより、意欲を刺激してあげられます。

「◯◯しないとこんな悪い結果になっちゃうよ」のようにネガティブなイメージを伝えると、子どもの反抗心を煽ってしまうことに。年齢別に具体例をご紹介しましょう。


・0〜2歳への声かけ

食事ができるようになると、親としては健康のためにバランスよく食べさせたい、色々な食材を食べてほしいと思いますね。

ですが、子どもは好き嫌いをするもの。そんなとき「色んなものを食べないと病気になっちゃうよ」と言うのではなく、「ここにピーマンさんがいる!」「にんじんさんはシャキシャキしておいしいね」のように声をかけてみましょう。楽しい体験をすることで、子どもの意欲が刺激されます。

・3〜6歳への声かけ

夜、子どもがなかなか寝てくれないとき。「早く寝ないと起きられないよ」「ちゃんと寝ないと大きくなれないよ」などの論理的な説明は避けて。

「もう寝る時間だね。ベッドで一緒に絵本読もうか」「今夜はどんな夢見るかな? ◯◯ちゃんの夢にお母さん・お父さんも出てみようかな」「明日の朝スッキリ起きられたら一緒に散歩しにいこうか」のように、寝るとどんないいことが待っているかを伝えてみてください。

・7〜12歳への声かけ

冒頭でお話しした通り、勉強しない子どもに「勉強しないといい学校に行けないよ」などの説得は禁物。

「算数ができるようになったら、お買い物もできるしお小遣いの計算もできるようになるよ」「英語ができたら外国の映画も見られるようになるんだよ」のように、勉強することは楽しい、勉強するといいことがある、というポジティブなイメージを伝えてあげましょう。


寒い日に半袖で出かけようとするとき

× 寒くない? 上着を着ていったら?
〇 半袖で行くんだね

・親が心配性であるほど、子どもが依存する
どんな親でも、わが子のことは常に気にかけ心配するもの。急に泣き出したら「お腹が空いたのかな?」「おしっこしたのかな?」と心配しますし、食事を食べるようになって好き嫌いが多かったら「このまま偏食になったらどうしよう」と心配します。

反抗的な態度をとれば「もっと優しい子になってほしい」と思うし、優し過ぎて意見が言えないと「もっと自己主張できる子になってほしい」と思うものです。

心配するだけならいいのですが、「寒くない? 上着を着ていったら」とか「雨が降りそうだよ。傘を持っていきなさい」「忘れ物はない? ハンカチ持った? 宿題やった?」のように頻繁に声をかけるのは"口の出し過ぎ"です。

さらに、子どもの宿題をつきっきりで手伝ったり、子ども同士の喧嘩に口を出して学校に乗り込んだりするのは"手の出し過ぎ"です。

口の出し過ぎを「過干渉」、手の出し過ぎを「過保護」と呼んだりしますが、これらは時として子どもの経験や自立のチャンスを奪ってしまうことがあります。

口の出し過ぎ、手の出し過ぎといった親子の距離感は、その後の人間関係の「距離感の土台」に影響します。

心理学では、自分と他人を区別する境界線のことを「バウンダリー」と言い、小さい頃からの親と子の関係がその後の人間関係の距離感の土台になると考えられています。

親と子どもの距離が近すぎるとバウンダリーが曖昧になりやすく、子どもは自分で考える機会を奪われてしまい、人の感情に振り回されやすくなります。子どもが自ら考えて行動できるよう、口の出し過ぎ、手の出し過ぎには注意したいものです。具体例を紹介していきます。


・0〜2歳への声かけ

歩き始めた頃の子どもをイメージしてください。一生懸命歩こうとして、心許ないと思うでしょう。危なっかしく見えても、すぐ後ろから支えたり、背中を掴んだりするのは手の出し過ぎです。

常に支えられていると、子どもは自分の重心や、どうすれば安定させられるかがわからなくなります。支え過ぎた方が、転ぶ危険性が高くなってしまうのです。

子どもの経験を邪魔しないように、「こっち側を歩こうか」とやわらかい地面を歩かせるなど、環境に気を遣ってあげることが大切です。

・3〜6歳への声かけ

子どもが寒い日に半袖で出かけようとしているとします。そのままだとこごえて辛い思いをし、風邪をひいてしまうかもしれません。子どもの様子を伺うことなく真っ先に「上着を着ていきなさい」と言うのが過干渉、そのうえでさらに上着を持ってきてあげるのが過保護にあたります。

まずは「半袖で行くのね」などと声をかけて、「外は寒いのかどうか」「自分はどうすべきなのか」を子ども自身に考えさせてあげましょう。

・7〜12歳への声かけ

学校に行った子どもが家に忘れ物をしていた場合、あなたはどうしますか? 「子どもがかわいそう」という気持ちになって届けたくなりますね。

ですが、そこはぐっとこらえてください。子どもが辛い思いをするのは子ども自身のせいなので、親はそれを見守ってあげましょう。

ただし、他の人に影響がある場合は例外。発表会で使うものを忘れてクラスのみんなに迷惑をかけるというときは、持っていってあげてもいいです。

「子どもがかわいそうだから」という理由で手伝うのは我慢して、あとで「どうして忘れ物しちゃったんだろう」「しないためにはどうしたらいいかな」と一緒に考えてあげて、対策を練るという形で協力してあげましょう。