「悪い子は置いてくよ!」「そんなんじゃまともな大人になれないよ!」...多くの親御さんが何気なく口にしているフレーズなのではないでしょうか? しかし、これらの不安をあおる声かけが、子どもの長い人生にわたって悪影響を及ぼす原因となっているのです。児童精神科医の精神科医さわさんが解説します。

※本稿は、精神科医さわ著『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること 』(日本実業出版社)から一部抜粋・編集したものです。


親の「不安をあおる声かけ」が、子どもに悪影響をもたらす

よく親御さんが小さな子どもに言いますよね。

「悪い子は置いてくからね!」
「○○しないと、鬼が来るよ」

言うことをきかない子どもがいると「鬼さんから電話がくるよ!」と、鬼から電話がかかってくるアプリが登場したときは、私のまわりでも話題になりました。実際には、「置いてくからね」と言っている親御さんが、子どもを本当に置いていくことは少ないでしょう。鬼なんて来るわけがないことを大人は知っています。

でも、感受性が強く、まだ無知な小さな子どもにはそれがわかりません。そうした不安をあおる言葉で子どもの行動をコントロールしようとすると、知らず知らずのうちに子どもの心理的な負担が積み重なっていくのです。

また、子どもを不安や恐怖で縛るだけでは、「なぜ、それをするのがよくないのか?」という理由も子どもに伝わりません。

子どもがもう少し大きくなってからも、「嘘をつくと、警察に連れて行かれるよ」「そんなひどいことを言う子は、友だちがいなくなるよ」「勉強しないと、将来、成功できないよ」......などなど不安や恐怖をあおって、子どもの行動をコントロールしようとする親御さんは少なくありません。

たぶん自分たちもそのように言われて育ってきているので、とくに考えずに言っている親御さんが多いのかもしれません。年齢が低ければ低いほど、子どもにとって親は絶対的な存在ですから、不安をあおる言葉によるコントロールは効果的です。

しかし、不安でコントロールする行為を続けていると、長期的に見て不安の強い子どもになってしまう可能性があります。


「不安をあおる言葉」は、子どもの認知や行動に影響をおよぼす

親に長く不安をあおる声かけをされて育った人は、その影響が強くなりがちです。たとえば、親に「◯◯だと、友だちがいなくなるよ」というなにげなく言われた言葉を忘れられない子どもは多いです。

一般的に思春期と言われる8、9歳から18歳ごろまでというのは、発達心理学的に「自分は社会の中でどんな存在なのか」とか「自分はほかの人からどう見られているのか」ということが気になってくる年代です。

他人の目が気になること自体は正常な発達過程で問題はないのですが、小さいころから「そんな性格だから、あなたには友だちができないのよ」などと言われながら育った人は、ことあるごとに「ああ、私がこんなだから友だちができないんだ.....」とネガティブにとらえてしまう傾向があるのです。

「そんなんだと、ろくな大人になれないよ」などと言ってしまうことありませんか?

もともと内向的で人見知りしやすいとか、性格がおとなしいなど、友だちをつくるのが得意ではない人もいます。それぞれの性格や発達の特性によって、行動やコミュニケーション方法がちがってくるのは当然です。

実際、診察室に来るお子さんの中には、クラスでも少し孤立しているとか、自分の居場所を見つけにくいなど、コミュニケーションに自信を持てない子も少なくありません。

でも、今のクラスには友だちがいなくても、また今は自分のコミュニケーションに自信がなくても、ずっとそうとはかぎりません。ただ、そんなふうにコミュニケーションに悩んでいる子が、親御さんからさらに追いつめられるような声をかけられていたら、やっぱり自分はダメな人間だと思い込んで、ますます人間関係が苦手になってしまいます。

親のなにげない不安をあおる子どもへの声かけが、その子のこの先の長い人生において悪影響をもたらすのです。

また、長く親に不安によってコントロールされてきた人は、自分に子どもができたときに、親と同じように不安によって子どもをコントロールする傾向があります。

こうしたなにげない不安をあおる声かけを子どもにしてしまう親御さんは、まず「子どもの不安をあおってコントロールしようとしていないかな」と自身に問いかけ、自分のやっていることに気づいてください。そうすることで日々の言動が変わっていき、その後の子どもとの関わり方も変わっていくのです。

これまで無意識にやってしまっていたと気づいて、不安になったお母さんもいらっしゃるかもしれませんが、大丈夫です。気づくことが、まずなにより大切です。気づけば、人は行動を変えていけます。いつからでも子育てはやり直せますので、気づいた自分をほめてあげてくださいね。