PRESIDENT Online 掲載

文科省が東京地方裁判所に請求した旧統一教会の「解散命令請求」は通るのか否か。その“前哨戦”が今、法廷で争われている。元信者が献金した1億円の一部の返金を求めたものの、一・二審は敗訴。ところが、岸田首相の「発言」で風向きが一気に変わった。1カ月後に出される最高裁判決にどんな影響が出るのか。6月10日、最高裁で開かれた弁論を傍聴したジャーナリストの多田文明氏がリポートする――。

■逆風吹き荒れる岸田首相の発言で風向きが変わった

地裁・高裁での敗訴が覆り、お金は戻ってくる――。その可能性が高まりました。

6月10日、最高裁判所で中野容子さん(60代・仮名)が、母親が旧統一教会(現世界平和統一家庭連合、以下教団)の信者時代に行った献金の返金(6580万円の賠償)を求めて訴えた裁判の弁論が開かれました。

現在、文部科学省は、教団に対する宗教法人法に基づく質問権の行使や、被害を訴える元信者らへの聞き取りなどを通じ、献金集めの手法や組織運営の実態などの調査結果を踏まえて、2023年10月、教団の解散命令を東京地方裁判所に請求していますが、この最高裁の判決はその行く末にも大きな影響を与えるのは必至で、注目を集めています。

信者だった母親は、献金時に教団側から「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わないことをここにお約束します」という念書を作成、署名させられて、さらにその様子をビデオで映されていたために、地裁(2021年5月)、高裁(2022年7月)では念書の有効性(不起訴合意の有効性)が認められて、敗訴となっています。

母親は念書作成から半年ほど後にアルツハイマー型の認知症の診断を受けましたが、地裁も高裁も、自ら希んで正常な判断能力によって作成されたと認め、念書は有効なものだと判断。教団に対して訴訟を起こす権利はないとして訴えを却下していました。

しかし2022年11月29日の衆議院予算委員会で岸田文雄首相が「法人等が寄付の勧誘に際して、個人に対し、念書を作成させ、あるいはビデオ撮影をしているということ自体が、法人等の勧誘の違法性を基礎づける要素の一つとなる」という答弁を行い、行政側の見解を示されたことで一気に風向きが変わりました。

弁論の陳述のなかで中野さんは一審、二審とも「(献金をさせた)勧誘行為の違法性の有無の事実認定さえも行わない判決だった」と指摘して、被害者家族とともに戦ってきた山口広弁護士、木村壮弁護士からも「不起訴合意の有効性を認めたことは誤った判決」であり「これを認めることは正義に反しており、重大な権利侵害にあたる」と話しています。

私も最高裁で傍聴する中、教団側は意図的かどうか不明ですが、今回の裁判の争点とはあまりかかわりのない「マインドコントロールは似非科学」といった的外れな主張を展開していました。この状況だと地裁、高裁で有効とされてきた念書の判断が見直される様相がさらに強まったとの思いを抱きました。判決は、7月11日に言い渡されます。