【柴田惣一のプロレス現在過去未来】

新日本プロレスの看板タイトル・IWGP世界ヘビー級王座の周囲が騒がしくなっている。

現在の王者ジョン・モクスリーが王者の権利を行使して、AEW4・24米フロリダ州ジャクソンビル大会で、パワーハウス・ホブスの挑戦を受けV1を果たした。

これに反発したのが辻陽太だった。王座奪取には失敗した辻だが、NJC杯を制覇して挑戦権を獲得している。まさにきちんとスジを通し挑戦を実現させたのだから、唐突に新日本マットでは実績のないホブスとの初防衛戦を挙行した王者に納得いかない。辻の怒りは王者だけでなく王座戦を認めている新日本プロレスにも向けられた。「IWGPの権威も価値もないのか。AEWになめられている」と憤慨している。

5・4福岡大会で成田蓮、5・11米カリフォルニア州オンタリオ大会で海野翔太の挑戦が先に決まっていたこともある。辻の主張は正論そのものだ。

成田にしても海野にしても面白くないはず。内藤哲也からベルトを奪い去ったモクスリーの実力、実績、加えて新日本へのリスペクトは認めてはいても、短期間でのタイトル戦3連発はいかがなものか。辻ならずともタイトル挑戦を前に気持ちがざわついただろう。

4・29鹿児島大会で成田と海野が激突したが、成田が「さっさとモクスリーを連れて来いよ」と、モクスリーと師弟関係にある海野に改めて要求。タイトル挑戦を前に王者が不在とあって、成田の言い分もわかる。

これに海野が応じた。「アイツ(成田)は初挑戦なのに、チャンピオンのいないツアーを闘っている。IWGPの王者なら、新日本の象徴を持っているなら、毎試合出ろよ」とここは意見が一致。「新世代の邪魔をしているのか」と珍しく怒気がこもった。

実は4・27広島大会でも火柱があがっている。「KOPW2024」争奪戦に勝利した上村優也が「新日本も新日本のレスラーもなめられている」と名指しこそ避けたもののAEWに対する団体、選手の姿勢を批判。「俺のゴールはここじゃない。強い新日本プロレスを取り戻す」と、IWGP王座の獲得そしてベルトの権威確立を訴えた。

何かと反発しあっている新世代の闘士たちが、今回の「IWGP王者・問題」については、声をそろえているのだ。

海外流出を許した内藤はノアのジェイク・リーとの5・6日本武道館大会での対戦が控えており、ベルト問題に集中しづらいとあって、ファンはモヤモヤする。栄光のIWGPベルトを巡る雑音は大きくなるばかりだ。

WWE、AEWに続いて新日本の頂点を制したモクスリーは、第9代王者に相応しい実力があることは間違いない。ただAEWマットでのV1戦はともかく、新日本マットに一度も上がったこともない挑戦者には首をひねるしかない。

それこそ新日戦士はIWGPを目指して新日本プロレスに入門してくる。厳しいトレーニングを耐え、デビューしてからも経験を積んでのし上がり、やっとのことでチャンスをつかんできた者たちにしてみれば、たまらない。それどころか、一度も挑戦できないままレスラー人生を終える者も多い。

成田がモクスリーを下せば、海野との新世代IWGP戦が実現するのに、新世代同士のIWGP戦が話題に上がることが、ほとんどないのは寂しい限り。

KONOSUKE TAKESHITAも挑戦表明している。先の先まで挑戦者が名乗りをあげるような状況だが、それほどIWGPのベルトはレスラーにとって喉から手が出るほどほしい勲章なのだ。

ベルトの価値は王者によって決まる。IWGP王座は新日本だけでなく日本プロレス界を代表するベルトだけに、誰からもどこからも文句をつけられない「王者の中の王者」であってほしいところ。

挑戦者にはまだ早いなどの否定的な意見を跳ね返すには、試合で魅せるしかない。四角いマットには無限の可能性が眠っている。どんな試合になるのか。激闘、熱戦、名勝負。それを体現するのは他ならぬレスラーだ。

チャンピオンとして相応しくなければ、ファンはそっぽを向く。ただ、地位が人をつくるのも確かで、戴冠時には未熟な王者でも真摯に鍛錬を重ねていけば、ファンの心をつかむこともできる。

成田、海野、上村、辻への期待が膨らむ一方だ。誰が一番先にベルトを巻くのか。誰が一番輝くのか。答えはリングの上にある。

<写真提供:新日本プロレス>