Takahiko Wada

[東京 30日 ロイター] - 日銀は30日、「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の全文を公表し、基調的な物価上昇率や自然利子率といった、今後の金融政策を占う上で重要な概念について重点的に解説した。3月に終了したイールドカーブ・コントロール(YCC)の定量分析も示し、長期金利をおおむね1%下押ししていたとの分析を示した。

<基調的な物価、3つの考え方示す>

26日に公表された展望リポートの「基本的見解」では「経済・物価見通しが実現し、基調的な物価上昇率が上昇していくとすれば、金融緩和度合いを調整していくことになる」と明記されるなど、基調的な物価上昇率は今後の政策運営を左右する重要なファクターだ。

展望リポートの全文では、囲み記事で物価の基調について考え方を整理した。

日銀は、今回の物価上昇局面ではコストプッシュよりも、物価に持続的な影響をもたらす賃金と物価の好循環の強まりをより重視すべきだとした上で、刈込平均値など物価統計を加工して基調を見出す手法、各種の予想インフレ率、経済モデルを構築して物価上昇率の長期的な収束値を探る手法の3つのアプローチを示した。

その上で、いずれのアプローチによっても「日本の物価の基調が高まってきているとの見方をサポートしている」とした。ただ、個々の推計値やその短期的な変化についてかなり幅を持って解釈する必要があるとした。

<自然利子率の推計に幅>

展望リポートの基本的見解では「当面、緩和的な金融環境が継続する」と改めて明記していたが、囲み記事では金利面から見た金融緩和度合いを特集し、実質金利が1年金利で見ても10年金利で見ても大幅なマイナス圏にあることを示した。

また、経済や物価に中立的な自然利子率の推計も掲載し、長期的に見て低下傾向にあるとした。潜在的な成長力が高い経済では自然利子率も高くなり、「実質金利水準が同じであったとしても、その緩和効果は大きくなる」と指摘した。

自然利子率は「中立金利」を考える上で重要になるが、展望リポートで示された自然利子率の推計値は足元でマイナス1.0%―プラス0.5%程度と幅広い。日銀は「推計手法によって大きなばらつきがあり、足元の自然利子率の水準をピンポイントで把握することは容易ではない」としている。

植田総裁は26日の記者会見で、日銀が描く通りに経済や物価が推移していけば見通し期間の後半に「政策金利もほぼ中立金利の近辺にある」との見通しを示している。

<YCCの定量評価>

日銀はYCCがもたらした金利押し下げ効果について、国債買い入れに伴って当該銘柄の金利を押し下げる「フロー効果」よりも、高水準の国債保有残高がさまざまな年限の金利を押し下げる「ストック効果」の方がより持続的な効果がみられるとする実証研究が多いとした。

その上で、3月にYCCを廃止したが、当面は国債保有残高は高水準で維持される見通しで、高水準の保有残高がイールドカーブ形成に作用し続けると指摘した。

(和田崇彦)