Takahiko Wada Leika Kihara

[東京 10日 ロイター] - 東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授はロイターとのインタビューで、足元の円安に日銀がどう対応すべきかについて、サービス価格に影響が出るまで利上げを待つべきとの見方を示した。外食や家事関連サービスなどサービス価格の上昇力は依然弱く、先行して価格が上がるモノの値段だけを見て利上げをすれば、日銀が期待する賃金と物価の好循環を妨げるとした。

渡辺教授はその一方、長期的に見れば日本でも欧米のような高インフレや賃金上昇が起こり、日銀は段階的な利上げを余儀なくされるとの見通しを示した。

POSやオンライン販売の価格データに基づき物価と金融政策を研究する渡辺教授は、円安が加速する中でも今のところ「モノの値段が上がってきている感じは全然ない」と指摘。サービス価格も弱いとし、全国旅行支援などの一時的な要因を除くと「昨年秋ぐらいがピークで、その後はだんだん下がってきている」とした。春闘での高い賃上げ率や所得減税の好影響を日銀は期待していると思うとする一方、「少なくとも、(サービス価格の高まりは)今は見えていない」と述べた。

4月から5月にかけて大きく進んだ円安によって「モノへの影響が普段より大きく出てくる」可能性を指摘しつつ、POSデータで日々のモノの価格が上がってきたとしても、そうした動きに反応して利上げすべきではなく、値上げの動きがサービス価格に波及するまで待つべきだ、と述べた。

渡辺教授は、円安でモノの価格が上がれば消費者の購買力が奪われ、サービス価格には下押し圧力が掛かると説明。「モノの値段が上がったことを受けて金利を上げた場合には、サービス価格には下押しの圧力になる」とし、日銀が目指す賃金と物価の好循環による物価上昇が「さらに弱くなってしまうリスクが非常に大きい」と警戒感を示した。

日銀が3月の金融政策決定会合で、「賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきている」などとして17年ぶりの利上げに踏み切ったことについては、利上げする「理由はなかった」とした。現状5%を超える賃上げ率の今春闘の結果がサービス価格に反映されるかどうか、夏ぐらいまで見極めてからでも遅くはなかったと述べた。

<長期的には日本も高インフレに>

渡辺教授は、日銀が4月の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で公表した生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)の上昇率、2025年度1.9%、26年度2.1%に理解を示した上で、今回の利上げ局面の到達点は「2%近傍」と予測した。日本の自然利子率は「ゼロ%界隈」にあるとし、仮に日銀が想定する通り物価上昇率2%が実現するとすれば、名目のターミナルレートは2%に届くことになりそうだ、と述べた。

新型コロナウイルスの世界的流行や、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した資源価格の高騰の影響を挙げ、日本も「欧米と同じことが起きている」とした。日本は賃金や物価が上がりにくい状況だったが、将来的には欧米と同じようにインフレ圧力が高まり、賃金も上昇すると予想。日銀は「金利を上げざるを得なくなってくる」と話した。

*インタビューは9日に実施しました。