総合格闘技イベント「RIZIN.46」が29日、東京の有明アリーナで行われ、メインのRIZINフェザー級タイトルマッチでは、王者の鈴木千裕(24、クロスポイント吉祥寺)が1ラウンド4分28秒に金原正徳(41、リバーサルジム立川ALPHA)にTKO勝利して初防衛に成功した。得意の打撃戦に持ち込んだ鈴木が左右のフックでダメージを与えてパウンドの嵐を浴びせた。鈴木は昨年7月にKO勝利しているベラトールのフェザー級王者パトリシオ・ピットブル(36)からの再戦要求を飲み相手のベルトを奪いにいく考えを明かした。大晦日にはビッグマッチを行う予定で挑戦者候補には7月28日(さいたまスーパーアリーナ)の「超RIZIN.3」で対戦する朝倉未来(31、JTT)と平本蓮(25、剛毅會)の勝者が最有力候補となっている。

鈴木千裕が放った右のパンチはガードの上からでも金原に致命的ダメージを与えた(写真・RIZIN FF)

 「ガードの上からの右フックで致命傷を与える」

 突然スイッチが入った。

 を軸に牽制して遠い距離から小刻みに動かす左で絶えずフェイントを入れながらチャンスをうかがっていた鈴木が、プレスを強めて怒涛のラッシュを繰り出したのだ。左フックがヒット、続けて右フックがガードもろとも金原の顔面にめりこむと、挑戦者はたまらず膝をついた。
試合後、41歳のベテランは「ガードの上から打たれて効かされ、グラグラしてしまった。練習でもガード上から効かされることはない。(鈴木の)パンチ力(自分の)打たれ弱さとかで、あの結果になった。一発をもらったら終わりだとガードを高めにしていたんだが」と、その威力を称えた。ガードを固めてロープに下がる金原を勢いのまま強引に殴り倒すと、そこに覆いかぶさってパウンドの嵐。金原は、下から右手を取りにきて、逆転の腕逆十字を狙うが、その体勢のまま打ち続けた左の連打は、なんと10連発。最後は金原陣営からバトン(タオル)が投げ込まれた。
コーナーに駆け上がった鈴木は、魂の咆哮。
マイクを持つと「有明に稲妻落としてやったぜ!言ったろ。1ラウンドKOするって。有言実行。日本のRIZINをオレが世界のRIZINに変える。オレの夢についてこい」と絶叫した。
試合後の会見で、鈴木に「距離を詰めて勝負に出たきっかけは何だったのか?」と質問すると「わかりませんか?」と逆に返された。
「左ボディですよ」
探り合いの中で鈴木は左のボディアッパーをヒットさせ金原の動きが一瞬鈍くなった。
「ボディが効いて動きが止まって目つきが変わった。そこですぐにいきました」
GOサインを見逃さない。その察知力が急成長してきた鈴木の凄みのひとつ。昨年7月の「超RIZIN.2」でベラトールのフェザー級王者ピットブルをKOする“大番狂わせ”を起こし、11月の「RIZINランドマーク7アゼルバイジャン大会」では、朝倉との王座決定戦に圧勝してRIZINフェザー級王者となったヴガール・ケラモフに挑戦し、完全アウエーの中で1ラウンドKO勝利。大物を続けて食った自信が本物の実力に変わりつつある。
鈴木は、さらに「チャンスは3つあった」と自らの勝因を説明した。
「ひとつはカーフキック。あとボディの流れからの腕十字を狙われた時に、いかに綺麗に対処するかが勝負どころだった」
GOサインを感じ取った左のボディ攻撃に加え、ラウンドの序盤に金原の得意分野に持ち込ませないように牽制したカーフキックと、マウントになった際、下から右手を取られたグラウンドでの攻防の3つの勝因を論理的に明かした。

 セミファイナルで元RIZINフェザー級王者の牛久絢太郎をほぼ一方的な内容で破った太田忍は「一発目のテイクダウンを防いだのが鈴木の勝因だと思う。金原さんも打撃の選択になった」と、この試合の勝敗の帰趨を見ていた。開始早々、突っ込んできた鈴木に対して、金原がテイクダウンを狙うが、うまく体を入れ替えられロープに押し込まれた。太田はこれが分岐点だと分析した。
金原も「やりたいことができずに手詰まりになった。それをさせなかった鈴木のうまさがあった。打ち合いになれば勝てないことはわかっていた」と振り返った。
組みの展開で、鈴木の右ヒザが金的に入ったため、ブレイクが取られたが、再開後に鈴木はカーフキックを軸に組み立てて無理をしなくなった。
鈴木陣営にはかつて金原とコンビを組んでいた塩田“GoZo”歩トレーナーがセコンドについていた。金原は「やりにくさはなかったが、持っているものは15年前と変わらない。うまく攻略された」と、打撃勝負に追い詰められた、その参謀の作戦に敬意を示した。
「ひとつの時代が終わったかな」
かつてUFCのオクタゴンで戦い、RIZINでは、昨年9月に元RIZINフェザー級王者、クレベル・コイケから大金星を奪い、堂々の挑戦者の資格を持って挑んできた41歳のMMAファイターとの世代交代抗争に圧勝した鈴木は、そう言って、この試合を総括した。
「金原さんから学ぶものがたくさんあった。発言にしろ王者はどうあるべきかを教えてもらった」と、リスペクトの言葉を忘れなかったが、「何ひとつ満足はしていない。見たい景色はここじゃない」と断言した。
「ピットブル!次はお前だ。勝ったぞ。ベルトを賭けろよ。奪いにいきます」
再戦を要求されているピットブルと今度は彼が保持しているベラトールのベルトに挑戦する思いをぶちあげた。「日本に呼びたいが乗り込んでもいい」。マイクパフォーマンスで語った「日本のRIZINを世界のRIZINに変える」とは、そういうことだ。
榊原CEOも「最強の挑戦者に圧倒的なワンサイドゲームで勝って見せた可能性、ポテンシャル、実力に改めて脱帽する。RIZINのフェザー級を託すにふさわしい王者。ピットブルとの試合をぜひ全米で。タイミングを見て海外に送り出すことは近い将来起こりうる」と、全面バックアップを約束した。
そしてその先にあるのが大晦日のタイトル戦である。
榊原CEOは「秋口にベラトールにチャレンジして大晦日に戻ってくればいい。6月のクレベルとアーチュレッタの戦いにも注目。ケラモフもいる。朝倉以下、役者が揃う群雄割拠の階級。6、7月の2大会で、次なる挑戦者が見えてくる」との展望を明かした。
6月9日に代々木体育館で開催される「RIZIN.47」では鈴木が体重超過の騒ぎを起こした末に黒星を喫している(無効試合)因縁のクレベル・コイケが、元RIZIN&ベラトールのバンタム級王者のファン・アーチュレッタと対戦、そして7月28日の「超RIZIN.3」では、朝倉と平本が激突する。この勝者が最有力候補だろう。

 その朝倉は、リングサイドで解説を務め、大晦日にベルトに挑戦したい意向を示唆した上で「試合は100点満点。マイクは30点」と発言した。
この朝倉の発言を伝え聞いた鈴木は、「それが天下無双の稲妻ボーイでしょ。それがオレの味だから。良いじゃないですか、勝ったんだから。あんたにできるのかよ、これが。オレにしかできないんだよ」と、声のトーンを上げて不快感を示した。
そして朝倉からの対戦ラブコールに関しては「勝てば道が開く。おのずと(対戦が)できる。それぞれに美学がある。勝っていけば、誰でも試合できるじゃないですか?」と、大物を相手に連勝して結果を残してきた王者らしく上から目線で他人事のように語った。
もう一人の対戦候補の平本は、SNSに「いやー!よかったー!鈴木千裕は俺が殺る!」と投稿した。現在、平本は朝倉戦に向けてアイルランドの元UFCの2階級制覇王者、コナー・マクレガーのジムでキャンプを張っている。ただ鈴木は、2年前に平本と対戦して判定勝利している。
鈴木は、戦うモチベーションについての話をした。
「格闘技を通して何ができるかをテーマに置いている。勝つことによってそれができる。子供たちに夢も与えられ、世の中がいい方向に変わる。格闘技を通して、それができるんだなと体感している。どこまでできるかを見たい」
アゼルバイジャンを訪れた際にあった現地の子供達との交流で、サッカーのできる環境に渇望していることを知り、当地にフットサル場を作る計画を立て、資金調達のクラウドファンディングを実施することを明かした。また国内では能登半島地震の被災地への慰問も行った。
戦う理由を持つファイターは強い。
鈴木の次戦は、RIZINではなく6月23日に代々木第二体育館で行われる「KNOCK OUT」。PRIDE、UFCなどで活躍した45歳の“レジェンド”五味隆典とボクシングルールで対戦する。
榊原CEOは続けて「超RIZIN.3」への出陣も打診しているという。
RIZINは鈴木を中心に回り始めた。
(文責・RONSPO編集部)