AFC・U-23アジアカップ決勝が3日(日本時間4日)、カタールのジャシム・ビン・ハマド・スタジアムで行われ、U-23日本代表が1−0でU-23ウズベキスタン代表を破り、8年ぶり2度目の優勝を決めた。ともにパリ五輪出場を決めている両国の激突は、0−0で迎えた後半のアディショナルタイムにMF山田楓喜(22、東京ヴェルディ)が勝ち越しゴールを決め、直後にGK小久保玲央ブライアン(23、ベンフィカ)がPKを止めるビッグセーブを見せて日本が逃げ切った。1968年のメキシコ五輪以来のメダルを狙う日本は、パリ五輪でD組に入ることになり、パラグアイ、マリ、イスラエルとグループリーグを戦う。

 GK小久保玲央ブライアン「大丈夫!お前なら止めれる」

 試合終了を告げる笛が鳴り響く前から守護神の涙腺は決壊していた。
待望の先制点を奪った後の後半アディショナルタム10分に、不意に訪れた絶体絶命の大ピンチ。PKを完璧にセーブした小久保は涙をこらえ切れなかった。
同5分のゴール前の攻防で、右サイドバックの関根大輝(21、柏レイソル)とFWアリシェル・オディロフが競り合ったこぼれ球を小久保がキャッチ。そのまま続行された試合を、イランのムード・ボニーアディファード主審が数分後に突然止めた。
オディロフが頭で放ったシュートが、関根の左手に当たったとしてVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入。OFR(オンフィールド・レビュー)で映像を確認したボニーアディファード主審が、関根にハンドがあったとしてPKを宣告した。
試合後のフラッシュインタビュー。小久保が意外な言葉を紡いだ。
「自分的にはあまり自信はなかったんですけど、駆け寄ってきたみんなからかけられた『大丈夫。お前なら止められる』という言葉を信じて止めたことが、すごく嬉しくて」
PKストップよりも、チームメイトたちの熱い言葉に胸を打たれた。キッカーは直前に投入されていたMFウマラリ・ラクモナリエフ。特徴はいっさいわからない。しかし、柏レイソルの下部組織からトップチームを介さずに、ポルトガルの強豪ベンフィカのU-23チームへ移籍して6年目を迎えている小久保はもう迷わなかった。
ゴール左隅へ飛んできた強烈な一撃に完璧に反応。身長193cm体重78kgの巨躯を思い切り伸ばしてダイブした小久保の右手が、同点とされる大ピンチを救った。直後に与えた3本連続のCKも小久保を中心に防ぎ切り、当初表示された11分のアディショナルタイムが18分台に入った直後に、4大会ぶり2度目の優勝を告げる笛が鳴り響いた。
試合結果を速報した米スポーツ専門放送局『ESPN』は日本の快挙を伝えた。
「第1回大会からイラク、日本、ウズベキスタン、韓国、サウジアラビアとすべて異なるチームが優勝してきたAFC・U-23アジアカップは6回目にして、アジア大陸屈指の強豪国である日本が、今回と同じカタールで開催された2016年大会に続いて、史上初めて2度目の優勝を果たした。決勝までの5試合を全勝、14得点に対して無失点で勝ち上がってきた好調のウズベキスタンは、2大会連続で準優勝にとどまる悔しさを味わわされた」
ウズベキスタンの堅守に風穴を開けたのは、後半のアディショナルタイム1分だった。
相手のパスをカットしたDF高井幸大(19、川崎フロンターレ)がそのままドリブルで持ち上がり、敵陣の中央でキャプテンのMF藤田譲瑠チマ(22、シントトロイデン)へヒールパス。すかさず藤田がワンタッチパスを前線へ通し、MF荒木遼太郎(22、FC東京)がワンタッチのフリックでまたもや相手の意表を突いた。
以心伝心のパスワークに反応したのが後半26分から途中投入され、右ウイングに入っていた山田だった。トラップからちょっとだけ前へ持ち出した直後に、絶対的な自信を寄せる利き足の左足を一閃。ゴール右へ強烈な一撃を突き刺した。

 常に強気な山田も、フラッシュインタビューでちょっぴり声を詰まらせている。
「前半だけでなく後半が始まっても、相手が間延びしているのがわかっていたので、間で受けてから前を向いてシュート、というイメージができていた。いままで積み上げてきたものが、こういう大きな舞台で、しかも優勝が決まる試合で自分の持ち味として出せた。苦しくてもあきらめずに頑張ってきた成果なのかなと素直に驚いています」
今大会は「3.5枠」をかけたパリ五輪のアジア最終予選を兼ねていて、4月29日の準決勝でU-23イラク代表に2−0で快勝した時点で最初の目標を成就させた。しかし、8大会連続の五輪出場を決めた選手たちは、大会前からアジア王者を合言葉にしていた。
そして決勝の結果はすでに組み合わせ抽選会を終えているパリ五輪のグループリーグに大きな影響を及ぼす。優勝国がパラグアイ、マリ、イスラエルと同じグループDに、準優勝国がスペイン、エジプト、ドミニカ共和国と同じグループCに入るからだ。
グループリーグは7月24日、27日、30日とすべて中2日で行われる。しかし、キックオフ時間がグループDだとパラグアイ戦が19時、マリ戦とイスラエル戦が21時なのに対して、グループCだとスペイン戦が15時、エジプト戦が17時、ドミニカ戦が再び15時と今夏のフランスで予想される酷暑が残る気象条件下となる。
しかも、グループDはパラグアイ戦とマリ戦をともに南西部のボルドーで戦い、イスラエル戦へ向けて約270km離れたナントへ移動する。対照的にグループCはパリでスペインと戦った後に、約340km離れたナントへ移動。エジプト戦を戦った後は再びパリへ戻って、ドミニカ戦に臨む強行スケジュールも強いられる。
五輪2連覇中だったブラジルが敗退した南米予選を、1位で突破したパラグアイはひと筋縄にはいかない難敵だ。マリには3月の国際親善試合で、個々の能力だけでなく組織力でも大きな差を見せつけられた末に1−3の完敗を喫している。
それでもキックオフ時間や移動に加えて、短期決戦に大きな影響を与える初戦の重要性を踏まえればグループC入りは避けたかった。そして優勝を勝ち取ったいま、グループDを1位で突破する戦略に集中できる。準々決勝はグループC及びDの上位2カ国のたすき掛けで行われる。1位突破すれば、ここでもスペインと対戦しない可能性が高まる。
大会MVPを獲得した藤田が、フラッシュインタビィーでこう語った。
「アジア王者として挑戦できるパリ五輪で結果にしっかりこだわってきたい」
決勝終了とともにチームは解散する。次に顔を合わせるのは海外遠征が予定されている6月。板倉滉(27、ボルシアMG)を中心にセンターバック陣が有力候補にあげられているオーバーエイジの調整がつけば、6月からU-23代表に合流する可能性も高い。
今大会は23人が招集され、GK山田大樹(22、鹿島アントラーズ)を除く22人がピッチに立った。しかし、五輪では18人に枠が狭まり、さらにオーバーエイジ枠がフル活用されれば、2001年1月1日以降に生まれたパリ五輪世代は15人しか招集されない。
もちろん、今大会に招集されなかったパリ五輪世代も、ヒノキ舞台でプレーする夢をあきらめていない。歓喜の雄叫びをカタールの夜空へ響かせた選手たちはそれぞれの所属クラブに戻り、U-23代表への生き残りをかけた戦いをスタートさせる。