水深20メートル、30メートル…「私は自分が海に溶け込んでいくのを感じた」。伝説のフランス人ダイバー、ジャック・マイヨール。自伝『イルカと、海へ還る日』にはこうも記す。「しだいにまわりのブルーに溶けていく」◆1976年、素潜りで人類初の100メートルに到達。常識を次々と覆していった。その原点は唐津の海。上海租界で生まれ、幼少のころ毎夏、遊びに来ていた。兄と潜る七ツ釜がお気に入り。そこで初めてイルカに出会った。88年の映画「グラン・ブルー」がジャックを一躍有名にした◆水深7メートル。目の前を泳いでいたのはチヌ。見上げた海面近くは小アジたちか。底では海藻が揺れる。潜ってはいない。波戸岬にある玄海海中展望塔の窓越しに見た◆開館50年を迎え、プロジェクションマッピングを導入。4月から棟内全面に海の世界が広がるようになった。悠然と横切るクジラ、頭上を埋め尽くすアジの群れ。鏡も巡らされ、「溶け込む」には至らなかったが幻想に包まれ、童心に返った◆国道バイパス開通に伴い、昨年には七ツ釜、波戸岬などを結ぶ約20キロが「ルート・グランブルー」と名付けられた。親しむ機会がもっと増えるといい。ただ、海中を漂うものが生命だけではない今。「人間は自然の一部であり、もっと謙虚にならなければならない」。ジャックの言葉は重みを増す。(松)