第一章「怪談ラジオ局」(1)

 

 佐賀駅も、昔より随分賑(にぎ)わうようになったなあ――と、駅前広場の椅子に腰掛けた彼は、しみじみ思った。満月が美しい春の夜、真新しい紺色のリクルートスーツを着込んだ大学生としては、少々辛気臭い感想かもしれないけれど。

 でも正直、子どもの頃から、昭和の面影を引きずった駅舎は古めかしく感じていたし、近くにあった大型スーパーが無くなってからは、ますます県都の駅としては寂しいんじゃないかと思わずにはいられなかった。

 だが、ここ数年の佐賀駅周辺の発展ぶりは、なかなかのものだ。

 特に南口は、ひさしのように広場へ張り出した大きな屋根が設置されてから、目に見えて人通りが増えた。木の骨組みに白い幕が張られた大屋根は、直射日光や雨を防いでくれる。駅前広場は、時間帯や天候に関係なく、多くの人が会話を愉(たの)しんだり、列車を待つ間にコーヒーを飲んだり出来る空間に変わったのだった。

 中には、彼――酒(さけ)谷(たに)昇(しょう)太(た)と同じく、ラジオ番組目当てで駅を訪れる人も少なからず存在する。

 駅南口の東側には、大屋根の完成前に移転してきたラジオ局があり、常に外部スピーカーからオンエアを流しているのだった。

 このラジオ局は七十年ほど前に佐賀市郊外の田園地帯に開局したが、局舎が老朽化したのを機に、再開発が進む佐賀駅前に居を移したのである。古いラジオ局の面影はもはやなく、創立時に作られたブロンズ製の社名プレートが、オフィスの片隅にさりげなく置かれているくらいだ。

 以前は番組見学に行くのもちょっと面倒な場所にあったが、今は駅の隣にあり、ガラス張りのオンエアスタジオが南口広場側に造られているので、見学もしやすくなった。

 もっとも、少々内気な昇太はラジオ局から少し離れた席で、スピーカーから流れて来るラジオに聞き耳を立てるくらいだけれど。

 ちなみにきょう三月二十四日は日曜日なので、生放送は無い。日曜日は録音番組か、東京から放送されているプログラムがほとんどとなっている。

 様々なラジオ番組が流れる中、夕方からはお酒を出す屋台やキッチンカーも現れ、屋根の下はオープンカフェかバルのような開放的な雰囲気になる。これまでの佐賀駅には無かった光景だ。

 だが、その賑わいも夜十時でおしまいである。